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菅首相の「規制改革」は政府介入では

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【木内前日銀政策委員の経済コラム(77)】前政権がやり残した「労働市場改革」を

公開日: 2020/09/17 (政治)

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 菅新自民党総裁・首相のもとでの党役員人事、内閣閣僚人事は、再任及び横滑りが多い点、それぞれのポストに専門性を有する人材の登用が目立つ点、派閥のバランスに配慮されている点、などが大きな特徴だ。これらから、安倍前政権からの政策の継続性や安定性に最大限配慮した実務家集団の布陣になった、と評価できるだろう。菅氏は、いわば安全運転を選んだとも言えるのではないか。

 ただしこうした布陣には、菅氏が強いリーダーシップで独自の政策を進めていくことの障害になる、という側面も同時にあるのではないか。特に、二階俊博幹事長と麻生太郎副総理兼財務相という2人の重鎮、派閥の首領を再任したことで、菅氏の政策決定上の自由度は狭められる可能性があるだろう。

 そうした環境の下で、菅氏が独自色を打ち出すことが期待されているのが、総裁選で繰り返し強調してきた「行政の縦割り、既得権益、悪しき前例を打破し、規制改革を徹底する」という政策だろう。ただし、菅氏が言うところの「規制改革」のグランドデザインは未だ良く見えてこない。

 菅氏は自身の経験を踏まえて、行政の縦割り打破、そして省益の打破を掲げている。菅氏は、自らが行政の縦割り打破したことの実例、成果として、インバウンド需要の急増と洪水に備えたダムの放水を挙げている。省庁の強い保守性、縄張り意識などが、政府の政策遂行の障害となり、またその効果を低下させているとの問題意識を、菅氏は強く抱いているのだろう。

 行政の縦割り打破の一環として、菅氏は、政府のデジタル化を一体で進め、それを主導するためのデジタル庁の創設を主張している。政府のデジタル化は行政の効率化を高め、その効果は民間経済活動にも波及する。また、省庁横断的にデジタル化を進めることで、省庁の地方移転もより容易になり、東京一極集中の是正にも貢献できるだろう。政府のデジタル化は、菅政権の下で是非とも強く進めて欲しい政策課題だ。

 それ以外に、菅氏が持論を披瀝する形で、「規制改革」として言及している具体的な政策方針は、「携帯通話料金の引き下げ」、「地方銀行の再編」、「中小企業の再編」、「最低賃金引上げによる地方経済活性化」などである。いずれも詳細については明らかではないか、これらは「規制改革」とは言えないのではないか。

 「規制改革」とは、既得権益を持つ各省庁や団体などが強く反発し、緩和・撤廃及び強化できない規制を、政府が緩和・撤廃することなどによって、市場競争を促進し、市場原理を活かして経済の活性化を推し進めることを目指す政策だ。

 それに対して、菅氏が挙げている政策方針は、政府が民間企業の活動に強く関与することで競争条件を高め、また構造改革を進めるものだ。これらは、政策としては「規制改革」とは対極にあるものであり、これを「規制改革」と言うべきではないだろう。

政府介入は必要だが権限行使には慎重さを

 こうした政府による市場介入策も、経済の効率化や活性化に寄与し、またイノベーションを促す側面がある。筆者も、デジタル化推進や、コロナショックで打撃を受けた小売、飲食、宿泊などサービス業の業種転換支援などに、政府が積極的に取り組んでもらいたいと考えている。

 しかしこうした政策には、市場原理を損ねることや大きな政府に繋がることで、経済の効率化、活性化に逆行してしまうリスクもあることから、具体的な政策執行の際には、熟慮を重ねたうえで慎重に行うことが求められる。

 携帯の通話料金引き下げは、通信会社から消費者への所得移転をもたらすが、それは消費者の利便性を高めるだけでなく、通信会社の投資・雇用削減を促すという面もあり、経済全体への影響も考慮に入れて政策を決める必要があるのではないか。

 「地方銀行の再編」については、単に地方銀行の合併・統合を促して数を減らしても、それだけでは地方経済の活性化に貢献しないという点も、十分に考えておく必要がある。また、最低賃金の引き上げが、所得増加と中小・零細企業の淘汰などを通じて、地域経済の活性化に資するかどうかも定かではない。政府による無理な賃上げが、企業の雇用削減をもたらすだけに終わる可能性もあるだろう。

 政府がやや強権的に行政組織や民間経済活動に介入する場合には、官僚組織の萎縮化や安倍政権下で見られた様々な弊害を生む可能性があること、また民間経済の効率化、活性化にむしろ悪影響を与える可能性があることについても、政府は十分に考慮に入れたうえで、慎重に権限の行使をして欲しい。

 政府の権限行使は、あくまでも国民経済・政策に資するかどうかの基準で決める必要がある。そして、個別の効果ではなく、経済全体への影響というマクロの視点を常に持つことが政権には求められる。

 安倍政権は当初、「規制改革」を「成長戦略の一丁目一番地」と位置付けた。また、電力、農業、医療分野で規制改革を進める方針を示し、「岩盤のように固まった規制を打ち破るには、強力なドリルと強い刃が必要だ。自分は『ドリルの刃』になる」と訴えたこともあった。しかし、近年では「規制改革」の勢いはかなり低下してしまった感がある。

 菅新政権には、安倍政権のもとで道半ばであった、言葉通りの「規制改革」の推進にも、積極的に取り組んで欲しい。その際に、医療、農業といった個別分野の規制改革だけでなく、多くの産業に横断的に関わる規制の改革を進めることが有効だろう。それは、例えば多くの企業活動に影響を与える労働規制の改革である。労働市場の流動性を高める労働市場改革は、安倍政権のもとでは十分に進まなかった。

 菅氏は、自らの持論に基づく各種の構造改革案を、再度慎重に検証した上で取り組むとともに、前政権から託された宿題でもある言葉通りの「規制改革」も同時に、両輪でバランス良く進めていくことが期待される。それこそが、菅政権の独自の経済政策パッケージとなるのではないか。

木内 登英 (前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)

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木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。
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