• tw
  • mail

カテゴリー

 ニュースカテゴリー

  • TOP
  • 独自記事
  • コロナ
  • 統一教会
  • 政治
  • ワールド
  • マーケット
  • ビジネス
  • IT/メディア
  • ソサエティ
  • 気象/科学
  • スポーツ/芸術
  • ニュース一覧

安保条約継続のために「沖縄返還」を使った佐藤首相

あとで読む

【沖縄返還交渉とは何だったのか(上)】「本土並み」のスローガンで沖縄人に幻想抱かす

公開日: 2022/05/13 (政治)

ニクソン大統領(右)、佐藤首相=PD ニクソン大統領(右)、佐藤首相=PD

河原 仁志 (ジャーナリスト)

 沖縄が日本に復帰して50年。これまで日米関係の専門家らによって、核再持ち込みや財政負担に関する密約、日本からの繊維輸出を自主規制する「糸と縄の取引」など様々な舞台裏が明かされてきた。だが近年公開された日米の公文書からは、半世紀前の返還交渉が今日の日米同盟や日本の安全保障政策を規定した転換点であったという新たな視点が浮かび上がってくる。その実態を3回にわたって検証する。

▽若泉メモに潜む佐藤のホンネ

 沖縄返還が合意される2年前の1967年11月12日。佐藤栄作首相の密使としてホワイトハウスに赴いた京都産業大学教授の若泉敬は、学者仲間で当時ジョンソン政権の大統領特別補佐官となっていたウォルト・ロストウに6枚のメモを渡している。ホテルの便せんに手書きされた英文メモは、佐藤が沖縄返還に乗り出した“真意”を綴ったものだった。

若泉メモの一部

 その趣旨は、3日後の日米首脳会談で沖縄の返還時期を決めるのは難しいだろうから、せめて「返還合意する時期を合意してほしい」という内容である。若泉はメモの第7項目で「佐藤は、安保条約の10年目の期限がくる1970年6月以前に、日米が満足いく日に返還が合意されることを望んでいる」と記し、その理由を次のように綴った。「社会党や左派勢力が沖縄を政治問題化させ、反安保、反米の気運を煽っている」「70年6月までに返還期日を設定することが我々にとって最善の策だ」「実際の返還は75年でも78年でも80年でも構わない」

 メモの内容は佐藤との綿密な打ち合わせを反映したものだ。つまり佐藤は「実際の返還はいつでも構わないから、返還に合意する日だけは70年6月以前にしてほしい」と請い、その理由に日米安保条約の継続を挙げている。

 ご存じのとおり佐藤の実兄である岸信介は1960年の安保改定で世論の反発を浴び退陣した。佐藤は当時、岸内閣の運輸相で兄とともに首相官邸に泊まり込み、国会を取り囲むシュプレヒコールを聞いている。その安保条約の更新期限が70年6月に迫っていたが、当時の政治情勢は反基地闘争やベトナム反戦運動で自民党がいつ過半数割れを起こしてもおかしくない情勢だった。メモを綴った若泉自身、自著「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」で「佐藤が最も重視していたのは安保条約の継続だった」と記している。

 つまり佐藤の狙いは、米国が沖縄返還に合意することによって世の中の反米・反安保の大きな流れを抑え込み、無事に安保条約を継続すること。言い換えれば、沖縄返還は安保条約継続の“手段”だったともいえる。

▽マジックワードだった「本土並み」

 佐藤は返還交渉を始めるに当たって、“世論操作”ともいうべき策を講じている。それは沖縄返還のスローガンともなった「核抜き本土並み」という言葉だ。佐藤は69年3月10日の国会で、それまで「白紙」としてきた交渉方針を「核抜き本土並み」とすると宣言したが、その定義を明確にしていない。「核抜き」は文字通り沖縄に貯蔵されている米軍の核を取り除くことだが、「本土並み」については曖昧だった。

 佐藤や外務省の真意は「本土と同じく安保条約を沖縄に適用する」という意味である。しかし、世の中では「あらゆる面で本土と同じ扱いにする」程度の意味での解釈が一般的で、「本土と同様に核を抜く」という同意反復的な解釈もあった。一方、沖縄では「米軍基地も本土並みに縮小されること」と期待した。いずれにせよ、このスローガンは曖昧であるがゆえにそれぞれに都合のいい解釈が成り立った。結果、異を唱えられることもなく、沖縄返還に当たっての国民的合意としての役割を担っていく。

 だが「あらゆる面で本土と同じ扱いにする」という一般的解釈には、佐藤の意図した「本土と同じく安保条約を沖縄に適用する」という意味が包含されている。沖縄にも安保条約が適用されるということは、沖縄返還後も安保条約は継続しているということになる。つまり安保条約継続か否かという争点をひそかに消す役割を負ったのがこのスローガンだった。

 この巧みな“世論操作”は奏功し、沖縄返還というビッグイベントの中で条約継続の是非論はかき消されていった。

 興味深いのは返還合意が成立して1年半たった1971年5月12日付けの

外務省北米一課作成の文書

だ。これは愛知揆一外相の国会報告用の草案で北米一課の官僚が作成したものだが、そこに「本土並み」の誤解を解こうとする記述が出てくる。

 草案ではまず「本土並みについては、従来たびたび申し述べて参りましたように、共同声明第7項で総理大臣と大統領が合意した安保条約及び関連諸取り決めが変更なしに沖縄に適用されることを意味しておりますことはよくご承知のとおりであります」とある。

 問題はその一つ後の文章だ。「本土並みとはこのようなことであり、たとえば一部でいわれているように、沖縄の米軍基地の面積や規模が物理的に広大な本土に散らばっている程度に縮小されたり、本土と少しでも異なる米軍部隊は駐留できないということを意味しません」

 そして、この部分の欄外にカタカナで「トル」と、削除を求める記述があり、丸ガッコで「弁解がましい」と記されている。これは「本土並み」の解釈をただそうとした若手官僚の文案を上司が諫めたということだろう。この書き込みは、世の中の誤解を放置したまま交渉を進めた当時の外務官僚のうしろめたさと居直りがない交ぜになった複雑な思いを映している。

▽封印された安保論議

 日米安保条約はこうして沖縄返還に乗じて10年の更新期限を波乱なく乗り切のるのだが、ただ継続更新されただけではない。沖縄返還交渉の最終局面である69年後半の日米交渉で、今後10年ごとの期限か来ても、どちらかが異議を唱えない限り自動更新することが合意された。この結果、これ以降、60年安保のような闘争や国民的な議論は沙汰やみになっていく。

今回の連載内容をより深く知るならこちらの 光文社新書を読まれては(ニュースソクラ編集部) 2022年4月刊 990円(税込)

 この合意はもちろん条約内容を改定する場合には適用されない。国家間の条約締結や改定には国会承認が必要だからだ。この結果、政治的な火種がなくなった半面、安保条約やその関連取り決めを変更するハードルは高くなったともいえる。事実、安保条約とそれに付随する日米地位協定は60年以降改定されていない。米兵関連の事件事故があるたびに不平等を指摘される地位協定の改定に政府が動かないのも、それがヤブ蛇となって安保論議を再燃させたくないという事情があるからだろう。

 返還交渉は10年ごとの安保闘争の火を消した。本土の基地は徐々に返還され、基地負担は沖縄が独り背負う構図が形成されて本土の世論は徐々に日米安保を容認していく。そして返還交渉のどさくさの中で合意された安保条約の自動更新は、長きにわたって安全保障政策についての政治論争を封印し、国民的無関心をつくる土壌にもなっていった。(敬称略)
続報リクエストマイリストに追加

以下の記事がお勧めです

  • 河原 仁志のバックナンバー

  • 肥料高騰の波紋 下水汚泥に注目

  • 国際刑事裁判所は なぜプーチン大統領に逮捕状

  • 見せかけの中露「蜜月」首脳会談 

  • 戦争長期化なら核使用リスク増す 停戦戦略はあるのか

  • プロフィール
  • 最近の投稿
avator
河原 仁志(ジャーナリスト)
1982年に共同通信入社。福島、さいたま支局、ニューヨーク支局、経済部長、編集局長などを経て2019年退社。「沖縄50年の憂鬱」(光文社新書)を4月に出版。ほかに「沖縄をめぐる言葉たち」(毎日新聞出版)、「『西武王国』崩壊」(東洋経済新報社:共著)などがある。
avator
河原 仁志(ジャーナリスト) の 最新の記事(全て見る)
  • 【沖縄返還とは何だったのか(下)】遮断された沖縄民意 -- 2022年5月17日
  • 【沖縄返還とは何だったのか(中)】交渉担ったジョンソン国務次官『沖縄返還交渉は天の恵み』 -- 2022年5月15日
  • 【沖縄返還交渉とは何だったのか(上)】「本土並み」のスローガンで沖縄人に幻想抱かす -- 2022年5月13日
Tweet
LINEで送る

メニュー

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
ソクラとは 編集長プロフィール 利用案内 著作権について FAQ 利用規約 プライバシーポリシー 特定商取引法に基づく表示 メーキングソクラ お問い合わせ お知らせ一覧 コラムニストプロフィール

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
  • 一覧表示を切替
  • ソクラとは
  • 編集長プロフィール
  • 利用案内
  • 著作権について
  • メーキングソクラ
  • お知らせ一覧
  • FAQ
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • 特定商取引法に基づく表示
  • お問い合わせ
  • コラムニストプロフィール

Copyright © News Socra, Ltd. All rights reserved