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「核のごみ」最終処分場選び、札束でほほをたたく政府

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【緑の最前線(85)】応募検討の寿都町でも、地元の反対根強く

公開日: 2020/09/11 (政治)

川内原発の使用済み核燃料プール=Reuters 川内原発の使用済み核燃料プール=Reuters

三橋 規宏:緑の最前線 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

 解決策が見つからずしばらく中断していた「核のごみ」、高レベル放射性廃棄物の処理を巡る問題が再浮上してきた。きっかけとなったのは、北海道寿都(すっつ)町の片岡春雄町長が先月中旬、国の候補地選定プロセスに応募を検討する考えを表明したことだ。国(経済産業省)が2017年7月に最終処分場の適性を示した「科学的特性マップ」を公表後,自治体が応募検討を表明するのは全国で初めてだ。

 規定によれば候補地選定までに、3段階の調査が約20年かけて実施される。第1段階が文献調査(約2年)、第2段階がボーリングなどによって実際に調べる概要調査(約4年)、第3段階が地下に調査施設を建設して安全性などを調べる精密調査(約14年)である。

 寿都町が応募を検討しているのは第1段階の文献調査だ。自治体には文献調査中は2年間で最大20億円の交付金(電源立地地域対策交付金)が支払われる。最終処分場をめぐっては07年に高知県東洋町長が文献調査に応募したが,町民らの反対を受け撤回している。

 日本海に面した寿都町の一般会計の予算規模は50億円程度。人口減少が進み3月末時点の人口は約2800人。過去20年間で3割も減少した典型的な過疎の町だ。産業はカキの養殖やホッケ漁などの漁業が中心だが、最近の稼ぎ頭は風力発電で年間売電収入は平均7・5億円で町税収入(約2億円)を上回る。将来に向けた産業振興のためには新たな財源が必要だ。「交付金は魅力だ。バッシングは覚悟で問題提起したい」と片岡町長は述べている。

 一方、寿都町の候補地選定プロセスへの応募には小樽地区漁協など地元の漁業関係者、鈴木直道北海道知事などが反対を表明している。これに対し片岡町長は「知事の言葉には反応しないが、町民の声には反応する」と発言、8月26日に地元の漁業関係者や商工会の関係者らと初の意見交換会を開いたが、反対意見が続出した。町長は「手応えは結構厳しい。9月中の応募は難しい」と述べ、今月中に町民説明会を開き十分意見を聞いた上で来月以降に結論を出す、としている。

 「核のごみ」とは、原子力発電所から出る使用済みの高レベル放射性廃棄物ことだ。極めて強い放射線を出し、人がそばに立つと20秒以内に死ぬといわれる。強い放射線が長期間放出されるため放射線の種類によっては10万年近く隔離する必要がある。政府は核のごみをガラスと一緒に固めたうえで、地上で30〜50年かけて冷やし、地下300メートル以上の安定した地層に数万年に渡って閉じ込める計画だ。

 日本ではフランスや英国の工場から返還されたガラス固化体約1800本が青森県むつ市の中間貯蔵施設に保管されている。これらを埋めるのが最終処分場だ。「科学的特性マップ」は日本の市町村の半分にあたる約900自治体の広大な沿岸部が最終処分場として有望だとしている。これに対し多くの科学者は「地震火山列島の日本には核のごみを処分する適地はほとんどない」、「科学的特性マップこそ非科学的だ」と批判が続出している。

将来世代に安全な日本列島を引き継ぐため、議論が必要

 海外に目を転ずると、核のごみの最終処分場については欧米各国も頭を抱えている。原発大国の米国やフランスでも最終処分場が見つからず中間貯蔵に止まっている。唯一北欧のフィンランドとスウエーデンが最終処分場建設に取り組んでいるのが現状だ。最も進んでいるフィンランドの処分場の名前は「オンカロ」。フィンランド語で洞窟,深い穴の意味だ。バルト海に浮かぶ岩石の島、オルキルオト島に建設中だ。岩石を切り崩し地下400m超まで堀進み核のごみを貯蔵する。今後100年〜120年にわって最大6500トンの核のごみを埋蔵し、坑道を密閉し約10万年隔離する。この岸壁は20億年破損しないそうだ。たまたま、フィンランドの場合は核のごみを10万年安全に隔離する適地があったが、このような適地は世界的にみても例外に近い。

 マップが指摘するように、日本列島の各地に適地が多数存在するかのような表現で、札束で頬をたたくようなやり方で、過疎地を競わせ最終処分場を見つけようとする政府の姿勢には批判の声が強い。

 核のごみは大きく二つある。ひとつはすでに存在する核のごみ、もう一つは原発稼働によって将来発生する核のごみだ。既存の核のごみの最終処分場さえ見つけられない状態で、原発稼働を続ければ日本列島は核のごみで溢れかねない。

 小泉純一郎元首相が「原発ゼロ」を掲げて反原発運動に取り組むきっかけになったのは13年8月、「オンカロ」を訪問し、最終処分場建設の難しさを肌身で感じたためである。

 寿都町が投げかけた応募の動きを好機として捉え、核のごみ問題を専門家任せにせず、将来世代に健全で安全な日本列島を引き継ぐため、現代世代にできることは何かというより広い視点から国民参加による議論の場を設け、誰もが納得のいく結論を導き出すプロセスが必要だろう。
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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