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ウクライナ侵攻は脱炭素実現への好機

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【緑の最前線(108)】退路断ち、原発にも石化エネにも頼らないイノベーションを

公開日: 2022/07/07 (政治)

CC BY-SA CC BY-SA /Toshiyuki IMAI

三橋 規宏:緑の最前線 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

▽ウクライナ戦争で日本のエネルギー政策は破綻

 2月24日、ロシアの武力侵攻で始まったウクライナ戦争が長期化の様相を見せている。

 当初、数日の短期決戦でウクライナ支配が可能と見ていたロシアの思惑はウクライナ軍の必死の抵抗に合い頓挫、早くも5ヶ月目に入っている。

 この間、西側の軍事同盟、NATO(北大西洋条約機構)に加盟する欧米主要国はウクライナへの武器供与、ロシアに対する厳しい経済制裁などを実施してきた。

 米国を中心とする欧米主要国の経済制裁の柱はロシア最大の輸出製品である石油、天然ガスなどの欧米への輸入禁止だ。ロシアの戦費調達を難しくし、ロシア国内経済を疲弊させるのが狙いだ。

 だが経済制裁は期待通りの成果を挙げられないでいる。欧米主要国と一線を画する中国やインドがロシア産石油や天然ガスを購入しているからだ。

 他方、ロシア産石油の輸入規制は世界の石油需給を逼迫させ、国際石油価格の大幅上昇を招き、欧米主要国の国内物価上昇の引き金になっている。

 米国をはじめ欧州各国はインフレ対策として政策金利の大幅引き上げに追い込まれている。利上げは景気停滞につながるため、欧米主要国の株価は暴落している。ロシアへの経済制裁はロシア経済に大きな打撃を与えているが、同時に欧米主要国側も手痛い返り血を浴びる結果にもなっている。

 確かに短期的に見ると、ロシア産石油・天然ガスの輸入規制は国際的なエネルギー価格の上昇をもたらし、欧米経済に悪影響をもたらしている。

 だが長期的視点に立てば、ロシア産化石燃料の締め出しは脱炭素社会実現を早める好機にもなる。ロシア産化石燃料に代ってCO2を排出しない原発を有効に活用すれば脱炭素化を前進させることができるからだ。

 ウクライナ戦争をきっかけに欧米で原発再評価の動きが高まってきたのはこのような理由からである。米バイデン大統領は35年までに電力部門からのCO2排出ゼロを目指し原発を活用する方針だ。

 英、仏は原発の新設を宣言している。EU(欧州連合)の欧州委員会は今年2月、原発を地球温暖化対策に役立つエネルギーとして位置づけた。

▽袋小路の日本のエネルギー政策

 日本はどうだろうか。

 欧米の原発復権の動きを追い風に、岸田文雄首相も原発稼働に力を入れ始めている。

 先月7日閣議決定した「新しい資本主義」実行計画の脱炭素・エネルギー政策では「原発の最大限活用」が記載されている。政府は2030年の発電に占める原発比率目標、20~22%を掲げている。現在稼働中(10基)の原発の発電比率は6%に過ぎない。

 30年の目標達成のためには現在稼働中の原発に加え、さらに設立後40年を経過した老朽原発を20基近く稼働させなくてはならない。ところが、2011年の深刻な東電福島第一原発事故以来、国民の間に「原発アレルギー」が充満し、原発の新設などは及びもつかない。

 地震列島の日本では今後30年以内に大地震が発生する可能性が極めて高い。南海トラフ大地震、首都直下地震などはいつ起こってもおかしくないと多くの地震学者が警告している。地震による原発事故被害を最小に抑えるためには、逆に今後30年の間に思い切って原発ゼロを目指すべきだ。

▽外国依存の天然ガスもピンチ

 戦後日本のエネルギー政策は国産エネルギーとして原発、輸入エネルギーとして石炭を中心とする化石燃料の2本建てでやってきた。

 最近は脱炭素化の流れの中で、CO2の排出が石炭の半分以下と少ない天然ガスへの依存が高まっている。だが、天然ガスの安定確保にも赤信号が点滅している。

 ロシアのプーチン大統領は先月末、極東の液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」の運営を新たに新設するロシア企業に譲渡するよう命令する大統領令に署名した。

 ウクライナ侵攻で対ロ制裁を強める日本にロシア産天然ガスの供給を停止する狙いがある。サハリン2で生産するLNGの約6割が日本向けとされており、日本のエネルギー戦略に大きな影響を与える可能性がある。

 石油や天然ガスなどの国際取引はこれまで30年、50年といった長期契約が前提になっている。非友好国だという理由で簡単に契約が破棄されるようならエネルギーの安全保障に大きな障害になる。今回のロシア大統領令は武力侵攻が大手を振るった100年前の疑心暗鬼の不安定な世界に時代の針を引き戻してしまったように見える。

▽再エネ軸に国産エネルギー100%の日本へ転換

 戦後の日本が推進してきた原発は地震列島日本にとって危険が大き過ぎる。輸入依存の化石燃料も安定確保が不安定になっている。長期的に化石燃料の消費は抑制されるだろう。

 原発もダメ、化石燃料もダメということである。

 破綻した戦後日本のエネルギー政策に代って、日本は新しいエネルギー政策をゼロから作成、実施していかなくてならない。

 当然新しいエネルギー政策は原発にも化石燃料にも依存せず、必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーや水素で賄う新構想に基づく政策が必要になる。別の言い方をすれば、国産エネルギー100%で人々が質の高い日常生活を営み、ダイナミックな経済活動が展開できる時代への転換である。

 「そんな夢みたいな話はノー」などと言うなかれ。「必要は発明の母」というが、退路を断つことで、再エネ100%の社会を構築することは可能である。何か不都合な事態が起これば、原発があるさ、石炭火力があるさ、と逃げ道を用意してきた日本は、再生可能エネルギーの開発・利用で、欧米主要国や中国に大きく差をつけられてしまった。

▽日本人のやる気を示そう

 ブレークスルー(現状打破)を伴うイノベーション(技術革新)は退路を断つことで初めて可能になる。

 太陽光発電、洋上風力発電はすでにかなり大きな出力が可能になっている。太陽光発電については米作とのソーラーシェアリング(兼業)ができれば設置場所は大きく広がる。高速道路を覆うアーチ型発電も考えられる。地熱発電は潜在力が大きい。バイオマス発電、小水力発電、また水素エネルギー、温度差を活用するヒートポンプなども大きな戦力になる。

 国産100%のクリーンなエネルギーを生み出し、順次原発や火力発電と置き換える。もちろん、再エネを効率的に運用するためには、地域分散型、地産地消型のエネルギー利用システム、電力の相互融通のための日本列島を繋ぐ大型送電網の構築、電気を溜める大型蓄電池の開発などへの新規投資にも力を入れなければならない。テイクオフの段階に入ったデジタル革命の積極的な活用はいうまでもない。

 時代を振り返ると、江戸時代の日本は再エネ100%の資源循環型社会を世界に先駆けて実現していた。時代は大きく異なるが、再エネ100%に果敢に挑んだ日本人の遺伝子は今の我々にも引き継がれているはずだ。

 今後、100年,200年先を見据え、欧米の後追いではなく、再エネ100%のサーキュラー・エコノミー(資源循環型社会)を世界に先駆けて構築する野心的なプロジェクトに老若男女、すべての日本人参加のもとで取り組みたい。
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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