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原発の新増設はいくらなんでも踏み込みすぎだ

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【緑の最前線(110)】EUの原発容認受け、経産省推進派が岸田首相に働きかけ

公開日: 2022/08/25 (政治)

CC BY-SA 政府主導で再稼働できるか、柏崎刈羽原発=CC BY-SA /

 岸田文雄首相は昨日(24日)、官邸で開いたGX(グリーントランスフォーメーション)実行委員会にオンラインで出席し、原発の新増設や運転期間の延長、新たな再稼働などを一気に進める方針を明らかにし、年末までに具体案をまとめるよう同委員会に指示した。

 2011年の東京電力福島第一原発事故以来「原発の新増設」を想定しないとしてきた政府の基本方針を大転換させたことになる。GX実行委員会は「50年炭素ゼロ」を実現するための方策を議論、検討するため首相の肝いりで設立された委員会で7月27日の初会合に続く2回目の会合で原発回帰路線が正式に打ち出されたことになる。

 GX実行委員会は、炭素ゼロ社会を目指して太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを中心とした新しいエネルギー政策の普及・発展を議論する場として一部では受け止められてきた。だがいざ蓋を開けてみると、再エネではなく原発推進を議論するための場であることが明白になり、失望を禁じ得ない国民も少なくないだろう。

 福島原発事故によって、大量の放射性物質が周辺地域に流出、飛散、拡散し、未曾有の深刻な放射能汚染被害が発生した。多くの人々が長年住み慣れた家を追われ、避難を余儀なくされた。福島県の発表によると、事故後1年余の間に県内、県外に避難した住民は合わせて16万人を超えたという。

 あれから11年、被災地の回復は遅々として進んでいない。避難者の多くは今なお帰還できないでいる。事故後発生した大量の原発汚染処理水の海洋放出も風評被害を恐れる地元漁民と政府の間で対立が続いている。

 原発の安全神話が崩壊した後、国民の間に根強い原発アレルギーが形成された。政府は「原発依存度は低下させる」、「新増設は考えていない」との立場を貫いてきた。

 原発復権を可能にしたのはロシアのウクライナ侵攻だ。ロシア制裁のため、欧米主要国はロシア産石油、天然ガスなどの禁輸措置に踏み切った。禁輸措置はロシア経済に打撃を与えたが西側も返り血も浴びた。石油や天然ガスの世界価格が急騰した。特にロシア産天然ガスに大きく依存してきたドイツなどEU(欧州連合)加盟国ではインフレが急進した。

 一方、EU委員会は7月初め、禁輸で供給が細った石油や天然ガスの不足分を補うため、運転中にCO2を排出しない原発と石炭と比べCO2排出量が半分以下の天然ガスを持続可能なエネルギーに分類(タクソノミー)した。このうち原発については稼働率の引き上げ、新増設の推進、天然ガスについては石炭からの移行をすすめることでEUの30年の脱炭素目標、90年比55%排出削減が達成できると見ている。

 自民党や経済産業省内部の原発復権論者はEUが原発を持続可能なエネルギーに分類した決定を「錦の御旗」として歓迎した。「好機到来」、「千載一遇のチャンス」と受け止め、岸田首相に働きかけ、首相の大転換発言につながった、といえるだろう。

 首相の原発回帰路線は大きく3つに分けられる。第一は既存原発の再稼働だ。現在原子力規制委員会による安全審査に合格した原発は17基、このうち工事が完了し再稼働済みの原発は10基。残りの7基は東電の柏崎刈羽6、7号機、関電の高浜1、2号機など。来年夏以降の再稼働を目指す。第二は運転期間の延長だ。原発の運転期間は法令で原則40年、原子力規制委員会が認めれば最長60年と決まっている。

 第一の7基については安全対策工事や地元の合意の手続きが済んでおらず、時期のメドがたっていなかったが、政府主導で再稼働を早めたいとしている。

 第二の運転期間の延長についても法令できちんと定めるためには、原発の性能などについてきちんとした科学的検証が必要になる。延長が認められても、廃炉時期がくれば廃炉になる。日本が直面する複雑なエネルギー事情を考慮すれば、既存原発の再稼働や運転期間の延長は一時的、過渡的措置として容認せざるを得ないだろう。

 問題は3番目の原発の新増設である。首相は次世代型の小型原発の開発・建設を検討するよう指示した。既存の軽水炉型の原発をベースに安全性を高めた革新軽水炉など大きく分けて5種類ある。注目されているのが、出力30万kw以下の小型モジュール炉(SMR)だ。原子炉など発電設備の大半を工場で製造し、現地で組み立てるため、現在の原発より工期は半分程度になり、建設コストも大幅に安くなる。米国ではバイデン政権がスタートアップ企業による開発を資金援助などで後押ししている。

 次世代型の原発の開発は始まったばかりである。どのタイプが好ましいかも含め、実用化までにはかなりの時間がかかる。政府が期待するように2030年頃までに稼働できるどうかも不明である。

 筆者は本欄で、再三、指摘してきたが、原発は科学的に未完成の技術である。運転に伴って排出される高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の安全な処理もできないでいる。一度事故を起こすと、その被害は甚大で、事故周辺に住む人々の人生をずたずたに引き裂いてしまう。欧州と違って、地震・火山列島の日本では原発のリスクは大き過ぎる。

 次世代型原発は小型化し安全性が高まったとはいえ、一度新設されれば、長期間稼働することになり、リスクが先送りされてしまう。

 「岸田首相の原発回帰路線が深刻な原発事故を招いた」などと将来世代に恨まれないためにも、脱原発路線を進めることが首相には期待されている。

三橋 規宏 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

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三橋 規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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