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本気度欠く経産省の脱石炭火力路線

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【緑の最前線(83)】実は温存のための目くらまし?

公開日: 2020/07/16 (政治, 気象/科学)

CC BY-SA 石炭火力発電所=CC BY-SA /Bill Alden

三橋 規宏 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

 経済産業省は今月初め二酸化炭素(CO2)を多く排出する低効率石炭火力発電の9割を2030年までに休廃止する方針を打ち出した。

 日本国内には約140基の石炭火力がある。このうち110基が非効率な旧式タイプ。CO2の排出量が多く、国内の石炭火力による発電量の約半分を占める。9割減だと計算上約100基を休廃止することになる。

 これまで国際世論の動向を無視し、「石炭火力維持、増設」を推進してきた経産省もようやく「脱石炭火力に動くのか」との観測から新聞、テレビなどのマスコミは「石炭火力100基休廃止」(日経)、「旧式石炭火力『9割減』」(朝日)などと大きく報じた。

 あたかも経産省が脱石炭へ向け第一歩を踏み出したような書きぶりだった。

 だが事実は経産省得意の目くらましに過ぎなかったのではないかとの疑惑が生じる。同省は同じ方針説明の中で、高効率な石炭火力を引き続き利用、新設を認め、石炭火力を安定的な電源(基幹電源)として重視する考え方を強調した。

 これまでの姿勢と少しも変わっていない。単に効率の悪い旧式の石炭火力を廃止し、高効率の石炭火力に切り換えるだけのことではないか。

 経産省の本気度をみるためには、政府が定めた30年度の総発電量に占める石炭火力の発電比26%が今後どう変わるかをチェックする必要がある。

 現行のエネルギー基本計画(5次)は18年7月に閣議決定された。そこで、30年度の総発電量に占める電源として例えば原子力20〜22%、再生エネルギー22〜24%、石炭26%などの目標値が記載されている。

 石炭火力の発電比率は現在32%だが、旧式発電と高効率(27基)発電に加え新規増設分(18基)を加えると、30年の石炭火力の発電比率は35%を大きく上回ることが想定される。

 30年までに旧式発電100基を休廃止しても、26%を上回る可能性がある。経産省が旧式発電の大幅廃止に踏み切る方針を決めた最大の理由は、増え続ける」石炭火力比率を30年までに26%まで引き下げたいとの思惑が見え隠れする。

 政府(経産省)は現行のエネルギー基本計画を2021年に改定し、第6次基本計画を作成する方針だ。

 新たに作成される基本計画で、30年度の石炭、原子力、再生エネの発電比率が現行の基本計画と比べどう変わるかによって、経産省の本気度が分かる。

 2011年の東電福島原発事故以降、国民の原発アレルギーは強い。厳しい安全基準が設定されているため、今年7月初め時点で、運転中の原発はわずか5基に過ぎない。

 残りの28基は運転停止中だ。発電に占める割合も6.5%(19年)に過ぎない。加えて地震列島日本では近い将来大地震の発生が予想されている。原発リスクは高い。

 30年に現行の発電目標20〜22%を賄うためには20基以上の原発を稼働させる必要があるがとても不可能だろう。

 原発比率が低下した分を再エネで補うことが理想だが、そのためには思い切ったヒト、モノ、カネを動員し国家の重要政策として取り組まなくてはならないが、今の政府にそれを期待することは難しい。

 そこで経産省がニンマリ登場する。再エネで補えなかった分は、「石炭火力で賄うほかはあるまい」と。この場合、石炭火力比率は26%を大きく超えてしまうかもしれない。逆に再エネ中心で賄うことが可能になれば石炭火力比率は20%を大きく割り込むことができるだろう。

 パリ協定は30年までに各国に対して温室効果ガス(GHG)の削減目標値を求めている。日本は30年に13年比26%の削減を公約している。26%削減の場合、石炭火力発電比26%は容認される。

 フランス、ドイツ、イギリスなどの欧州主要国は30年までに石炭火力の全廃、アメリカも21世紀初めには石炭火力比率が50%を大きく超えていたが、今では10%を切る段階まで減少している。30年には10%を大きく割り込んでいるだろう。

 21年に予定されているエネルギー基本計画の改定で、石炭火力比率が10%以下になるようなら経産省の脱石炭火力路線は本物と評価できそうだ。

 だが、石炭火力に固執する今の経産省を前提に考えるかぎり「それは夢のまた夢」と言わざるをえないだろう。
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三橋 規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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