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来年度のエネルギー計画に、日本政府の「本気」示すか

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【緑の最前線(87)】菅首相による2050年までにCO2ゼロ宣言、現実味は?

公開日: 2020/11/11 (政治, 気象/科学)

CC BY CC BY /azrainman

三橋 規宏:緑の最前線 (経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)

 菅義偉首相は先月26日の就任後初の所信表明演説で、温暖化ガスの排出量について「2050年までに全体としてゼロにする」と表明した。

 温暖化ガスは主として石炭などの化石燃料消費によって排出される。温暖化対策に消極的で通産内閣と言われた安倍政権下ではできなかった宣言だけに遅きに失したとはいえ歓迎できる。

 この数年、温暖化による気候変動は熾烈を極め、大型化する台風、豪雨による洪水、崖崩れ、干ばつ、気温上昇に伴う熱中症、乾燥による山火事など世界各地に様々な被害をもたらしている。

 気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」は世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑えることを目指し、可能なら1.5度に抑えることを掲げている。

 すでに世界の平均気温は今日までに約1度上昇しており、1.5度に抑えるためには思い切った対策が必要だ。そのため、パリ協定は2050年までに温暖化ガスの実質排出ゼロが望ましいと指摘している。

 この流れに沿って、環境問題に熱心なEU(欧州連合)は「50年実質ゼロ」を表明し、そのために30年の排出削減目標、90年比40%削減を55%削減に引き上げることを最近打ち出した。国連調べによると、欧州を含め世界約120カ国が「2050年実質排出ゼロ宣言」をしている。

 日本は「50年80%削減」が公約だったが、世界の潮流からは見劣りしていた。

 最大の排出国である中国も9月に「60年までに実質排出ゼロ」を表明し世界を驚かせた。11月の大統領選挙で次期米大統領(2021年1月20日就任)に決まったバイデン氏は選挙中からパリ協定復帰を明らかにし、「50年実質ゼロ」を公約している。

 菅首相の実質ゼロ宣言で日本もようやくEU並みの目標を目指すことになり、「温暖化対策後進国」のレッテルを返上できる土台が整ったことになる。

 だがレッテルを返上できるかどうかは今後の取り組み次第である。2050年は今から数えると約30年も先のことである。30年先となれば菅首相を初めとする現閣僚のかなりが入れ代わっているだろう。誰が責任を取るのだろうか。「絵に描いた餅」で終わってしまうことも考えられる。

 「50年実質ゼロ」の目標を達成するためには,50年までのエネルギーロードマップを作成し、内閣が変わっても継続して実施していくための仕組みが必要だ。そのためにはいくつかの抜本的な取り組みが求められる。

 第一はロードマップを作成し、実施していくためのプロジェクトチームの結成だ。

 これまでエネルギー政策は経済産業省(資源エネルギー庁)が一手に握って作成してきた。その核心は石炭火力と原子力発電を両軸とする基幹電源の確保だった。それが戦後日本の高度成長を支えたエネルギー政策だった。この成功体験が裏目となり、その後起こった地球温暖化問題、深刻な福島原発事故にもかかわらず、政府は石炭と原子力にこだわり続けた。

 「50年,温暖化ガス排出ゼロ」達成のプロジェクトチームを経産省内に設置しても過去のしがらみに縛られて抜本的な対策を描けないだろう。思い切ってプロジェクトチームを環境省内に移管し、太陽光、風力などの再生可能エネルギーを基幹電源とする実行可能で環境重視のエネルギー対策のロードマップに切り換えていくべきだ。国家百年の計として超党派で取り組み、政権交代によってプロジェクトが影響を受けないような制度設計が大切だ。

 第二は再生可能エネルギーの開発、普及を成長産業として位置づけ、官民一体で取り組むための枠組みが求められる。

 特に海洋風力発電は2万を超える部品で構成され、他産業への波及効果が大きい。発電出力も2万kw級の大型風力発電の設置が可能になれば、一カ所に50基設置すれば原発1基分の発電が可能になる。

 送電のための海底送電網敷設、蓄電池の開発、様々な部品を運ぶための港湾の整備など周辺関連産業の裾野も広い。

 日本は領海を含め「排他的経済水域」の面積は約447万平方kmある。国土面積の約12倍の広さで、世界第6位の排他的経済水域大国だ。洋上風力発電の他に海流や潮流を活用した発電も大きな潜在力を持っている。

 これまで日本は洋上風力発電を初め海洋エネルギーの利用は欧米と比べ大幅に遅れてしまった。発想を転換し、海洋エネルギーを積極的に活用すれば、石炭や原子力に頼らなくても再エネだけで電力のかなりの部分を補えるはずだ。電力以外では水素エネルギーも大きな成長余力を秘めている。

 第三は2030年度の日本の電源構成比の見直しだ。

政府のエネルギー計画は2002年に成立したエネルギー政策基本法に基づき、03年に初めて定められた。その後、ほぼ3年ごとに見直しており、次は来年21年夏の改定を目指し、経産省の有識者会議が10月から検討を始めた。現行計画は18年に閣議決定された。それによると、30年度の電源構成比は再エネ22〜24%、原発20〜22%、石炭など火力56%となっている。この構成比を改定によってどこまで変更できるかである。

 「50年、CO2ゼロ」達成のためには、再エネ構成比を現行の2倍以上の50%以上に引き上げ、火力を半減させることが望ましい。菅首相の「50年、CO2ゼロ」構想の裏付けとして、原発比率の引き上げがあるようだが、地震大国、火山列島の日本では原発リスクは極めて大きく、新増設はリスクが高過ぎる。寿命が来た原発を順次廃炉し、将来は原発ゼロが望ましい。

 来年夏頃作成されるエネルギー計画改定に政府の本気度が投影されることになるだろう。
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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