8月22日に投票が行われた横浜市長選は、8人の候補が乱立。菅首相の支援する小此木八郎候補が、立憲民主党推薦の山中竹春候補に大敗した。
山中氏が500,6392票、小此木氏が325,947票である。3位は、現職の林文子候補で、196,929票であった。自民党が小此木、林に分裂したことも敗因である。
投票率は49.05%で、前回の37.21%よりも約12%も伸びている。
IR(カジノ)に反対して、閣僚を辞任してまでして立候補した小此木氏を、IRを重要な政策に掲げる菅首相が応援すること自体が矛盾している。
小此木氏の父、小此木彦三郎氏は通産大臣、建設大臣を歴任した自民党政治家であるが、秘書として彼に仕えたのが菅義偉氏である。菅首相にとっては、政治の師であり、恩人である代議士の息子を支えるのは当然であるが、政策的な整合性はない。
そもそも、菅首相が与えた国家公安委員長の座を捨ててまで、なぜ小此木氏が横浜市長選に立候補したのかがよく分からない。しかも、IR反対を掲げたのである。
横浜市民に対する世論調査では、IR反対が過半数を占めており、その流れに乗らず、林市長のようにIR推進を訴え続けたのでは勝てない、そこで横浜市政を自民党が掌握し続けるためには、IR反対をスローガンにして、横浜が地盤の自分が出るしかないと考えたのかもしれない。
投票日のNHKの出口調査によると、IRに賛成が26%、反対が75%であり、この点でも賛成派に勝ち目はなかったのである。
しかも、選挙の争点はIRから新型コロナウイルスに移ってしまった。コロナの感染爆発は続き、とくに神奈川県はひどく、8月22日には2524人と東京の感染者(4392人)の半数以上の規模に達し、23日には2579人と遂に東京(2447人)よりも多くなってしまった。
コロナの感染爆発は菅政権のコロナ対策の失敗以外のなにものでもないが、とくに横浜ではワクチン接種が遅れている。横浜市民はこれに大きな不満を持っており、「1日の接種が100万回を超えた」と菅首相が豪語しても、虚しい宣伝にしか聞こえないのである。
山中氏は、横浜市大の医学部教授で、テレビにも出演して感染症の解説をし、知名度も上がっていた。コロナで悩む横浜市民が、山中氏の専門知識に期待したのは当然である。
選挙の結果、4位に入ったのが田中康夫候補で194,713票、5位が松沢成文候補で162,206票である。
出口調査で支持政党別の投票動向を見ると、小此木氏は、自民党の支持層の3割台の得票しか獲得しておらず、1割は山中氏に投票している。無党派層が自民党離れを起こし、山中氏に約半分が流れている。田中氏の健闘は、山中氏に次いで無党派層の票を多く得たことが理由である。
各種世論調査でも、政党支持率では、今や「支持政党なし」層が、自民党支持層よりも数が多くなっている。それだけ既成政党への国民の不信感が高まっているが、この無党派層が自民党への投票を躊躇していることは、自民党の選挙戦略にも大きな影響を及ばす。
とくに横浜のような東京近郊の大都市では、知的レベルの高いサラリーマンが、不動産価格が高いために都内に住めず、満員電車での長距離出勤を強いられており、ルサンチマンを抱えながら生活している。この怒りが爆発すると、政権を吹き飛ばすような力となる。
私は、国会議員時代に、何度も横浜に応援演説に行ったが、自民党政権が批判されているときの有権者の冷たい反応には困惑したものである。それは東京以上で、菅義偉、坂井学(現官房副長官)候補らの応援に入ったが、軒並み苦戦したことを記憶している。菅候補すら落選しそうなときがあったのである。
菅政権になって以来、知事選や4月の衆参の補選など3選挙を含め、自民党の選挙スコアは芳しくない。菅首相では選挙は戦えないという声が高まるのは必定で、党内で菅降ろしの動きが強まるであろう。
菅首相の自民党総裁任期は9月30日であり、9月17日告示、29日投開票で総裁選の準備が進んでいる。しかし、今回の横浜市長選の敗北は、菅首相の解散戦略にも大きな影響を及ぼし、政局となる可能性もある。
横浜市長選 東京以上の感染爆発で菅派候補が大敗 |
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【舛添要一が語る世界と日本(104)】政権不満高まると東京以上に反自民の横浜
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(政治)
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舛添 要一(国際政治学者)
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