10月8日、岸田首相は、国会で所信表明演説を行い、自らの政策を明らかにした。
その3本柱は、
(1)新型コロナ対応
(2)新しい資本主義の実現
(3)国民を守り抜く外交安全保障政策、である。
第1のコロナ対策については、基本的には安倍・菅政権の政策の継続である。
しかし、これまでの対応がなぜ失敗してきたのかについての検証と反省が欠けている。特に問題なのは、コロナ担当3大臣制を維持していることである。担当大臣が3人もいるような国はない。
また、感染症の専門家からなる分科会が間違った提言を行ってきたことが、政府のコロナ対策の迷走を招いたのであるが、その改組についても言及はない。
さらに、コロナによって影響を受ける事業者や個人に対する経済的支援についても、迅速性をどう実現させるかのか。給付金なども、いわゆる「お役所仕事」をどうすれば打破できるのかについても、具体的な言及はない。
ワクチンについては3回目の接種の準備をするとしたが、少し前倒しで作業を進めねばならない。
治療については、経口治療薬の開発が進んでいることは明るい材料であり、アメリカの製薬大手メルクは、新薬「モルヌピラビル」の治験を進めており、昨日の10月11日に承認を申請した。メルクの治験には日本も参加しており、早急な承認が求められる。岸田首相は「年内実用化を目指します」と明言したが、その約束を堅持してほしい。
第2の経済政策では、アベノミクスからの転換を図るべく、「成長と分配の好循環」を掲げ、「新しい資本主義」を実現すると述べた。これもそのための具体策が提示されていない点が問題である。
アベノミクスが金融緩和によって成長を図ろうとする政策であり、一定の成果は収めたが、デフレを解消するには至っていない。財政出動も機動的に実施したが、既得権益や省庁の縄張り争いなどで十分な効果が生まれていない。
そこで、これらにメスを入れる抜本的な改革が必要なのであるが、安倍・菅政権でそれが成功したとは言えまい。
しかし、アベノミクスとは異なることを強調するためか、岸田首相は「改革」という言葉を一度も発しなかった。デジタル化を含め、時代が要請する改革が進んでいないことが、日本の生産性の伸びを阻害しているのである。
財務省の矢野事務次官が月刊『文藝春秋』に、「このままでは国家財政は破綻する」として「バラマキ政策」を批判する論文を寄稿した。財政出動のコスト・パフォーマンスの悪さを批判するならよいが、長期債務残高の増加のみを問題にするのは意味がない。
将来世代にとって、未来への投資によってより素晴らしい日本をバトンタッチしてもらえれば、債務を引き継いでも問題はない。必要な投資を行わず、衰退した日本を引き継がされても、借金がないことを喜ぶ気にもなれまい。
矢野論文の誤りを実証するような経済政策の展開が求められる。そのためにも具体的な政策パッケージを早く提示すべきである。
コロナ禍では、政府の財政出動は当然である。このパンデミックが収束した後について岸田首相は「コロナ後の新しい社会の開拓」を掲げるが、その具体像が浮かばない。「分配なくして次の成長なし」というが、分配だけで成長が可能なわけではない。やはり企業の生産性を上げる方法を明示しなければなるまい。それが「改革」である。
第3の外交政策については、基本的に安倍・菅政権の連続である。
日米安保を基軸とし、民主主義陣営の価値観を守るのは当然である。ただ、その同盟の前に立ち塞がっているのが中国である。習近平は辛亥革命110周年に当たり、台湾を統一することを明言し、台湾海峡では緊張が高まっている。経済的には中国との関係は緊密であり、強硬策一本槍では成功しないであろう。
また、安倍・菅政権が積み残した課題も山積している。文在寅政権の韓国との関係は最悪のままである。
北朝鮮の拉致問題解決、ロシアとの北方領土返還交渉も成功していない。
アフガニスタンからの米軍撤退の後、中東は混迷の度を深めている。独自の中東政策を標榜する日本にどのような関与が可能なのか。
外務大臣経験者として、外交分野でも大きな成果を上げることが期待されているが、いずれをとっても容易な課題ではない。
岸田内閣の3政策 反省欠き、具体策ない |
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【舛添要一が語る世界と日本(111)】コロナ3大臣制のままでいいのか
公開日:
(政治)
岸田内閣(2021年10月4日)=CC BY /内閣官房内閣広報室(cropped)
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舛添 要一(国際政治学者)
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