菅前首相が推進してきた「こども庁」の創設が難航している。
子供に関する政策は文部科学省、厚生労働省、内閣府にまたがっており、それを問題視した菅氏が「縦割り行政」の弊害を打破しようとして提案したものである。
岸田首相も、そのアイデアを引き継ぎ、実現のための準備を進めたが、省庁間の調整などに手間取り、2023年度以降に先送りすることになった。
分かりやすい例をとると、幼稚園の管轄は文科省、保育園の担当は厚労省である。なぜ同じ省が面倒を見ないのかという疑問が湧いて当然である。そもそも両者を分ける必要があるのかという問題提起があってもよい。これが「幼保一元化」である。
幼稚園は、短い時間しか子供の面倒を見ることができないし、満3歳未満の乳幼児は入園できない。保育園は、保護者が就労していることが条件で、保育が目的で教育は目的ではない。
幼稚園と保育園が一緒になれば、それぞれのデメリットを克服し、3歳未満の子供も教育も保育も受けることができるようになる。親が働いていなくても預けられる。また預かる時間も長くできる。
2006年には、両者の機能を持つ「認定こども園」制度が始まった。専業主婦が減り、幼稚園よりも保育園の需要が高まったからである。そして、待機児童が急増した。その解消を目指すことが目的で認定こども園がスタートしたのである。施設数は2019年4月現在で7208である。
私は、厚労大臣や都知事のときに認定こども園を視察したことがあるが、幼稚園教諭と保育士との連携が上手く行っていないケースもあった。保育や教育内容をどうするかも問題である。
保育者の資格は、幼稚園が幼稚園教諭、保育園が保育士、認定こども園は保育教諭、保育士、幼稚園教諭である。人材の確保も容易ではない。
管轄は、幼稚園が文科省、保育園が厚労省、そして認定こども園が内閣府と、2省どころか、3つの役所が担当するという複雑な状況になってしまっている。
この問題には、応援団も関わってくる。
自民党の中を見ると、幼稚園には文科族の族議員、保育園には厚労族がついている。
かつてのイメージは、保育園は貧しい子どものいく所、幼稚園は夫婦共稼ぎをしなくても経済的に済む豊かな家庭の子どもがいく施設という固定観念があった。そこで、文科族は、教育もきちんとした幼稚園は、保育園のような程度の低い施設とは違うと言って、保育園を見下していた。
厚労族は厚労族で、待機児童の問題や児童虐待の問題は厚労省の専門分野だと言って譲らない。
自民党の政治家にとっては、政治献金や票を提供してくれる幼稚園や保育園は大切なお客様である。幼稚園も保育園も、自らの存続を守ろうとして懸命である。
それぞれが、文科族、厚労族の議員に働きかけて、幼保一元化を阻止しようとしている。関係省庁間の調整や地方自治体への事務の移管業務の調整のみならず、文科族と厚労族の調整も容易ではないので、子ども庁の創設が先送りされたのである。
子ども庁は、
(1)文科省の下に置く
(2)内閣府に新設する
(3)義務教育も所管する「子ども省」に格上げして設置する
――という3案が考えられているようだが、(1)に対しては厚労省・厚労族が、(2)や(3)に対しては、文科省・文科族も厚労省・厚労族も反対する。
2001年に、霞ヶ関の官僚機構は1府22省庁が1府12省庁に再編された。厚生労働省は厚生省と労働省を一つにまとめたものである。今回の新型コロナウイルスの感染で業務量が増えているが、そうでなくても管轄分野が多すぎる。
私が厚労大臣のときも、年金記録、医師不足、新型インフルエンザ、薬害肝炎訴訟、原爆症認定訴訟などの問題続出で身体がいくつあっても足らないくらいだった。しかし、二つの省を統合したおかげで、労働分野を社会保障政策の中にきちんと位置付けることができたことなど、利点もまた多かった。
この改革から20年が経った。1省だけではなく、霞ヶ関の全官僚機構を再度編成し直さないと、デジタル庁やこども庁のみを作っても機能しない。しかし、その再再編を実行するには強力な政治的リーダーシップが必要である。
「こども庁」創設が難航しているわけ |
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【舛添要一が語る世界と日本(117)】文科、厚労で調整つかず
公開日:
(政治)
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舛添 要一(国際政治学者)
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