新型コロナウイルスの変異株、オミクロン株の感染が急速に世界に広がっている。
イギリスでは、18日には1日のコロナ新規感染者が9万人を超え、うちオミクロン株感染者は1万人以上となった。死者も7人出ている。
とくにロンドン市で感染が拡大し、医療が逼迫化しているとして、カーン市長は「重大事態」を宣言した。イングランドでのPCR検査では、オミクロン株が62%を占め、ロンドンに至っては83%と席巻している。
他のヨーロッパ諸国でも、オミクロン株の感染が広まっている。フランスの科学諮問会議は、オミクロン株の猛烈な感染力に警告を発し、数週間以内に全国に拡大すると予想している。
ウルズラ・フォン・デア・ライエンEU委員長は、オミクロン株は1月中旬までにヨーロッパを席巻するだろうと述べている。
WHOによれば、オミクロン株はすでに世界89カ国で確認されており、感染の速度がデルタ株よりも速い。感染しても重症化したり死んだりする人の比率は下がっているとされているが、まだ十分なデータが揃っているわけではない。
感染歴のある人の感染率がデルタ株の5倍以上というデータもある。また、2回接種完了者でも感染するケースが続出している。この点は問題であるが、3回目の接種(ブースター接種)は有効だという。
イギリス政府は、追加接種の対象を40歳以上から18歳以上に引き下げ、2回目接種からの間隔を6ヶ月から3ヶ月に短縮した。そして、年内にブースター接種の完了を目標に軍隊も動員して接種を急いでいる。
オミクロン株の今の感染スピードが続けば、一日の感染者が200万人、年明けには全人口が感染するという予測もある。
日本では、十分な根拠も示さないまま、厚労省が8ヶ月後という方針を固め、自治体もその指示で動いてきた。岸田首相が6ヶ月後に前倒しすることを決定したのは12月17日である。あまりにも遅い。
日本は、ワクチン接種などのコロナ対策は、ヨーロッパの周回遅れである。政府に諮問する専門家たちの責任も大きい。皮肉を言えば、欧州など海外の先行事例があるので、それを参考にして対策が立てやすいはずである。
ところが、その先行事例を活用することをしない。まさに踏んだり蹴ったりである。従順な国民の感染防止の努力で感染が低水準となっているのである。
オランダでは、12月19日から1月14日まで、都市封鎖に踏み切った。すでに85%超の人が2回ワクチン接種を終えているが、オミクロン株への有効性を疑っているからである。有効だという3回目が済んだのはまだ9%未満にとどまっている。
追加接種率は、イギリスが50%、アメリカが30%、ドイツが20%であり、オランダはもっと少ないのである。日本では、12月1日に医療従事者に対するブースター接種が始まったばかりである。
ドイツやフランスは、イギリスからの入国を禁止する措置を講じている。また、フランスではワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)の義務化を急いでいる。イタリアは全国でマスクを義務化する等、規制強化にに乗り出した。イタリア政府は、コロナ感染拡大に鑑み、非常事態宣言を2~3ヶ月延長する。
アメリカでは、ブロードウェイでの公演やスポーツイベントの延期や中止が相次いでいる。
クリスマスシーズンは商店などはかき入れ時であり、世界中で経済的に大きな被害が出そうだ。
厳しい感染防止策を講じている中国でも、13日には天津市で、14日には広州市でオミクロン株の市中感染を確認している。当局は感染者が居住するアパートを封鎖するなど封じ込めに全力をあげているが、2月の北京五輪には、外交ボイコットに加え、世界的なオミクロン株感染拡大という難題が降りかかってきている。
日本でもオミクロン感染者が、20日現在で82人確認されている。
たとえば、アメリカから帰国した20代女性がオミクロン株に感染し、その濃厚接触者もコロナ感染が判明したが、12日に等々力でサッカー天皇杯を観戦したという。
さらには、関空の検疫職員も感染していた。これらは市中感染とまでは言えないが、水際対策の限界が見え始めている。水際対策は、あくまでも時間稼ぎであり、市中感染対策への転換が必要である。
オミクロン株が重症化しにくい、つまり弱毒化を進めていることは、ウイルスの生き残り戦略としても理解できるところである。このまま普通の風邪に変化していけばよいのだが、まだそれを予測させるデータが足りない。
また、先述したように、コロナ既感染がオミクロン株感染の防護壁にはならないというのも厄介である。
ワクチンの追加接種の加速化、経口治療薬の早期承認など打つべき手はあるが、生き残りを図るウイルスとの競争は続く。オミクロン株の市中感染を前提に、対策を準備せねばならない。
水際対策は時間稼ぎ オミクロン株の市中感染への備えはあるか? |
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【舛添要一が語る世界と日本(121)】世界で猛威を振るうオミクロン株への対応
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(政治)
オミクロン含む変異株の遺伝距離のイメージ=CC BY-SA /dullhunk
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舛添 要一(国際政治学者)
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