参議院選挙戦中に安倍元首相を狙撃し、殺害した犯人は、母親が統一教会の信者で、全財産をこの教団に寄付し、家庭が破綻してしまったという。その恨みを晴らすために、この宗教団体と関係があると考えた安倍元首相を狙ったと警察に供述している。
政治家に対するテロ行為は許されるべきものではないが、統一教会のようなカルトに対しては、社会全体で厳しく監視する必要がある。統一教会は1954年に設立され、日本でも広まり、霊感商法やマインド・コントロールなどを行い、大きな社会問題となってきた。欧米では、この教団はカルトと認定されている。
同じようなカルト教団には、1995年3月に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教があるが、この犯罪集団が手本としたのが統一教会である。
私が東大に入学したときには、「原理研究会」という名前で統一教会が活動していた。また、学術会議の名前を冠した団体も持っており、私が母校で教鞭を執るようになってから、国際学術シンポジウムへの参加を提案してきた。海外渡航費などすべて団体持ちである。
しかし、その団体の実態をよく調べると、統一教会の関連団体であることが判明した。そこで、このシンポジウムへの出席はお断りした。
国会議員になってからも、統一教会の関連団体である「国際勝共連合」などがアプローチしてきた。その度に素性を調べて、統一教会との関連が分かると、すぐに断った。
周りの自民党議員を見ていても、私ほど慎重に団体を精査する議員は少なく、多くの議員が取り込まれていったようである。とくにこの団体が選挙のときに支援してくれるからである。今回の参院選でも、比例区で自民党の井上義行氏(元安倍首相秘書官)が教会の賛同会員ということで組織の支援を受けて当選している。
選挙では1票でも多く票を獲得するため、熱心に集票活動をしてくれる団体はありがたいものである。とくに、小選挙区制では1人しか当選しないのでそうである。また参議院の全国比例区も、個人名での得票が多い順に当選するので、同じである。
そこで、多くの自民党議員が、右寄りの統一教会や日本会議などを重宝するのである。口だけで票は持ってこないリベラルとは大違いである。
政権交代を可能にするとして導入した小選挙区制であるが、最近は弊害のほうが目立ってきている。1人しか当選しないので、自民党は公明党の支援がなければ勝てなくなり、すっかり足腰が弱くなってしまった。宗教団体である創価学会を支持基盤とする公明党と連立を組んでいるので、問題のある宗教団体への対応が消極的になるのは当然である。
この点からも、現行の選挙制度の見直しを行うことには意義がある。
かつての中選挙区制の時代のほうが自民党は活力があった。同一選挙区内で複数の派閥が競争するからである。しかも複数の当選者が出るので、他党の票に頼る必要はない。5人区だと5番目の得票でも議員になれる。
先の参院選では、岡山選挙区で公明党の推薦を拒否した自民党の小野田紀美候補が大勝している。
因みに、公明党は集票力に陰りを見せており、今回の参議院選では比例選での得票は618万票と、昨年の衆院選比例選の711万票から93万票も減退し、議席も一つ減らしている。「800万票、7議席獲得」という目標は達成できなかったのである。公明党は、2005年の衆院選比例選の898万票をピークに、集票力が落ちている。
カルト宗教は、統一教会、オウム真理教の他にもあるが、親がカルトに洗脳され、子どもまで入信させられたり、家庭崩壊の悲劇が生まれたりしている。アメリカのように、自治体に気軽に相談できる「カルト110番」を設置するなど、カルトに対して社会全体で厳しく監視する必要がある。
カルト宗教を取り締まれない政治家 |
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【舛添要一が語る世界と日本(151)】小選挙区で票を持ってくる宗教団体への依存強まる
旧統一教会の会合に出席する井上議員(右の黄色のシャツ)=撮影・横田
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舛添 要一(国際政治学者)
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