4月8日で任期満了となる日本銀行の黒田東彦総裁の後任として、岸田首相は経済学者で元日銀審議委員の植田和男を充てることにした。
これまでは、日銀か財務省の出身者が占めてきたが、学者が登用されるのは戦後初めてのことである。
それだけに、内外で驚きの声が上がっている。
副総裁には、氷見野良三前金融庁長官と内田真一日銀理事を任命する方針である。
前者は国際経験が豊富で、後者は日銀の実務に精通している。このトリオのバランスと役割分担はよく考えられており、金融政策の急激な変化もなければ、逆に硬直的な政策運営もないと予想され、安心できる布陣のようである。
私は国会議員時代に、デフレからの脱却を実現すべく、国会で当時の速水優日銀総裁と対決した。2001年11月14日の参議院予算委員会の議事録を一部引用する。
○舛添要一君 昨年8月、ゼロ金利解除をいたしましたね。昨年、株が落ち始めたのは4月12日、速水総裁がゼロ金利解除をほのめかしてから。だから、私、やめろと言った。8月、やめない。がっと谷底を転げ落ちるように株価が下がりました。ところが、突然3月19日、ことしになって量的緩和に踏み切った。これを回顧してどう考えられますか。失敗だと思いませんか。
○参考人(速水優君) 金融政策というものは、経済物価情勢を注意深く点検しながら、その時々に応じて最も適切な対応を機動的、弾力的に行っていくものでございます。そういう意味で、私どものゼロ金利政策を解除し、そしてまた今度新しい量的緩和策、当座預金ターゲットというものをつくったといったようなことは、私どもとしては適宜適切に対応してやってきた政策であるというふうに信じております。間違っているとは思っておりません。
○舛添要一君 私は、もう意見だけ述べますけれども、昨年のそのゼロ金利解除は世紀の大失策だと考えています。
以上の他にも、速水日銀の失策を厳しく指摘したが、とくに2000年8月のゼロ金利政策解除は大失敗だったと思う。
植田は、1988年4月に日銀審議委員に任命され、再任を経て、2005年4月までその任にあったが、私が批判したゼロ金利解除には、「デフレ懸念が再発するリスクがある」として反対している。その点では、私と立ち位置が同じであった。
私は、同じ予算委員会で速水総裁に対して、次のように、インフレターゲットの導入を求めた。
○舛添要一君 やはり数値ではっきり示すということが必要なんです。したがって、我々が物価安定目標として例えば2,3年以内に1,2%のターゲットを決める、目標を決める、そういうことを申し上げているんですが、この名前は、インフレという言葉が嫌いなら物価安定目標でも何でも構いません、やはり政策を決めるときは目標というのを国民に掲げる。
この私の求めを速水総裁は拒否した。
このインフレターゲットの導入については、植田は、「物価上昇に歯止めがかからなくなる恐れがある」として慎重な姿勢を貫いた。そこは、私と意見が異なっていた。
2012年末に政権に復帰した自民党の安倍首相は、2013年から2%の物価目標を掲げて大規模な金融緩和政策を継続し、今日に至っている。私は、インフレターゲットの導入が10年遅れたと考えており、それがデフレからの脱却を遅らせたという認識である。
ウクライナ戦争で諸物価が高騰し、アメリカをはじめ先進諸国はインフレを抑制するために金利を上げた。そのため内外金利差が拡大し、円安が進行し、輸入物価の高騰で、日本もまた物価上昇に見舞われている。そこで金融緩和政策を見直すべきだという声が高まっている。
植田は、メディアの取材に対し、「現状の景気と物価からすると、現在の日銀の政策は適切である。当面は、金融緩和の継続が必要と考えている」と述べている。
新総裁が、どのような金融政策を展開するのかを注視したいが、金融政策だけで活力を失った今の日本を立て直すことは不可能である。
賃金と物価の好循環を実現するためには、賃金増が不可欠である。それは日銀の仕事ではないが、政府と協調して政策立案すべきである。
日銀法第4条には、「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」と明記してある。
さらに付け加えれば、官も民も生産性を上げる努力が必要である。25年もデフレが続き、賃金が上昇しない背景には生産性の低下があることを強調しておきたい。
2000年のゼロ金利解除に反対した植田新総裁 |
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【舛添要一が語る世界と日本(181)】植田氏はインフレ目標にも反対だった
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(政治)
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