10月18日、菅義偉首相は、初の海外訪問先として、ベトナムとインドネシアに向けて飛び立った。ベトナムは、今年のASEAN議長国であり、インドネシアは人口約2億7千万人の大国である。
出発に際して、首相は、「ASEANは、日本が推進している自由で開かれたインド太平洋を実現するためには極めて重要なパートナーであり、日本としてこの地域の平和と繁栄のために貢献する決意を、国の内外にしっかりと示したい」と述べている。
菅外交の今後を考える前提として、安倍外交の成果と残された課題について考えてみよう。
まずは、トランプ大統領と信頼関係を築き、日米関係を強固なものにしたことは高く評価できる。
中国との関係も当初は険悪であったが、次第に関係改善を果たしていった。ロシアとも首脳会談を繰り返したが、北方領土問題は解決に至っていない。韓国との関係は最悪である。北朝鮮との対話も進まず、拉致問題も進展がない。
日本外交の基軸は良好な日米関係であるが、今後の展開は11月3日に行われる大統領選挙の結果にも左右される。今のところバイデン有利であるが、まだトランプによる巻き返しの可能性もあるし、郵便投票の公正さが問われて暫くは結果が確定できない事態も生じうる。
ただ、日米防衛負担や貿易摩擦などは、いずれが当選しようとも、基本的には今後とも問題となり続けるであろう。しかし、バイデン勝利の場合、国際社会への対応について、パリ協定(地球温暖化対策)やイランとの核合意にアメリカが戻るかどうかが焦点となる。
日本としては、アメリカ第一主義の弊害を説き、覇権国としてのアメリカの責務について力説すべきである。この問題では、ヨーロッパと連携することが肝要である。
今の世界の最大の問題は、アメリカと中国の覇権争いである。アメリカがパックス・アメリカーナ(アメリカの平和)を守り抜くことができるか、あるいはパックス・シニカ(中国の平和)に取って代わられるのか、その競争が激化していることが世界の不安定要因になっている。
中国は海軍力を強化し、太平洋への進出を加速化している。今回の菅首相のベトナム、インドネシア訪問も、それに対抗する意味がある。アメリカ、日本、ASEAN、インド、オーストラリアが協力して中国の封じ込めを狙っている。
米中、豪中関係は悪化しているが、日印ASEANは、中国との関係悪化を望んでいるわけではない。貿易のパートナーとしては極めて重要であるし、米中関係が悪化して利益になる国はない。日本もそうであり、菅首相に今後求められるのは、両国の仲介である。バイデン政権になれば米中関係が改善するという幻想は持たないほうがよい。
自由と民主主義、自由経済を守り抜くという姿勢を堅持するとき、基本的人権を守らない中国、保護主義に傾きがちなアメリカと対立することになるが、GDP世界第3位の大国として、主張すべきは堂々と主張しなければならない。
ロシアとの関係については、プーチン政権が今後とも盤石かどうかは疑問であるが、憲法を改正して領土の割譲を禁じるなど、ロシアの態度は硬い。容易には北方領土問題は解決されそうもないが、対話路線は継続していく必要がある。
韓国との関係については、文在寅政権が続く限り、懸案の問題の解決は極めて困難である。菅首相が下手に妥協をすれば、日本国内での反発が強まるであろう。文化交流などで、解決の糸口を見出すしかないのが現状である。
拉致問題についても、金正恩体制下では進展の見込みはあまりないが、水面下での接触を含め、何らかの打開策を模索する努力は続けるべきである。
不慣れな外交も首相としては蔑ろにするわけにはいかないのであるが、できるところから、着実に駒を進めるしかあるまい。拙速主義で手柄を焦ると、大きな禍根を残す。
安倍外交の成果と課題から見る、菅外交 |
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(政治)
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