11月1日に行われた大阪都構想についての住民投票の結果は、反対69万2996票、賛成67万5829票と、僅差で反対が賛成を上回った。
大阪の有権者220万人の投票率は62.35%で、前回の住民投票よりも4.48%低い。
都構想推進派の主張は、大阪府と大阪市の二重行政は無駄だということである。2025年に政令指定都市の大阪市を廃止し、現在の24の区を4つの特別区に再編しようとすることを提案した。
これに対して、反対派は二重行政は解消しつつあり、大阪市を無くせば住民サービスが低下すると反論した。また、この改革には200億円を超すコストがかかかり、特別区を支える財源が不足するという議論も展開した。
昨年の知事選挙、市長選挙、府議会選挙、市議会選挙で維新の会が勝利・躍進し、その結果を受けて、前回反対していた公明党が、来たるべき総選挙をにらんで今回は賛成に回った。
しかし、その甲斐もなく賛成派は敗北した。出口調査によると、公明党支持者の半数は反対したようである。維新の会の代表である松井市長は、市長の任期を務めた後、政治家を引退することを表明した。
国政への影響については、菅政権与党の自民党と公明党が対立したことは両党間で何らかのしこりを残すだろう。また、維新の会は菅政権を支える補完勢力となっており、その力が弱まることは、松井代表と昵懇の中である菅首相にとっては、好ましくない。
ただ、次の総選挙を考えると、自民党の議席を伸ばすために、維新の会の弱体化は願ってもないことである。
以下は、私が考える今回の敗因である。
第一は、5年前の住民投票で否決されたテーマをまた争点化し、有権者を動員したことである。
この手法を採用すれば、賛成されるまで際限なく住民投票が続くことになる。間接民主主義の日本で、憲法96条に定められている場合以外は、住民投票という直接民主主義手法に訴えるのは慎重であるべきである。
第二に、新型コロナウイルスの感染下、経済社会活動が大きく制約される中で住民投票を行うというタイミングの問題である。
前回よりも投票率が下がったのは、そのことも影響しているかもしれない。
第三に、その関連でコストの問題がある。
住民投票を実施するための経費も必要だし、大阪市を廃止して4つの特別区に再編するのにも、先述したようにコストがかかる。コロナで大幅な財政出動を強いられており、コロナ前の経済状態、財政状態に戻るのに数年はかかる。都構想に使うカネがあるのだろうかという疑問を大阪市民が持つのは当然である。
第四に、都構想という制度改革は打ち出の小槌ではないということである。
無駄な二重行政の解消は必要だが、一番大事なのは住民が必要な行政サービスを受けられるかどうかということである。
東京都には市町村とともに23の特別区があるが、都と区の関係もまた複雑である。
たとえば、児童相談所の区への移管という問題を取り上げてみよう。私が都知事のときにも、児童相談所の都から区への移管要望が多くの区長から寄せられが、今では区も児童相談所を開設できることになっている。
しかし、こういう問題もある。
たとえば、荒川区に住所のある家庭で親から虐待される子どもがいた場合、荒川区以外の、たとえば多摩地域の児童相談所に預けたほうが、親から引き離すためのより良い環境を確保できる。しかし、荒川区の児童相談所は、受け入れ先の他の区市町村と相談せねばならない。すべての児童相談所が都の管轄下にあれば、都が一元的に調整できる。
また、新宿区や世田谷区は、都の児童相談所と区の児童相談所を二つ持つことになる。これこそ無駄ではないか。
このような具体的問題について、住民が最適なサービスを得ることができるようにすることが大事なのであって、制度いじりのみで問題が解決するわけではない。
今回の大阪都構想の挫折は、日本における地方自治の問題を国民に再認識させることになったのではあるまいか。
打ち出の小槌でない大阪都構想 公明賛成でも否決 |
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【舛添要一が語る世界と日本(62)】維新の弱体化は菅政権に打撃
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(政治)
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