新型コロナウイルスをめぐる状況について、いくつかの新しい要素が付け加わってきた。それへの対応に失敗すると、政権運営にも関わる事態となってしまう。
12月20日現在で、世界の感染者は7628万人、死者は168万人となっているが、第一は明るいニュースで、ファイザーのワクチンが英米などで、またロシアや中国が開発したワクチンも接種が始まった。
ファイザーは、日本でも承認を申請しており、早ければ来年の春には接種が可能となりそうである。また、米FDAは、モデルナのワクチンについても緊急使用を許可した。
しかし、第二に、イギリスで、新型コロナウイルスの変異種が感染拡大し、20日、ジョンソン首相は、ロンドンをはじめイングランド東部、南東部を都市封鎖した。三度目のロックダウンである。
この新しい変異種は70%以上、従来の種よりも感染力が強いという。そのため、欧州諸国に対して、WHOは、この変異種に注意を呼びかけ、厳重な感染防止策を講じるように求めた。
そのため、オランダ、ベルギー、イタリアがイギリスからの飛行機の着陸を禁止したが、その後、ドイツ、フランス、アイルランド、アルゼンチン、チリなども同様な飛行停止措置を採っている。
水際作戦で、何とかこの変異種の流入を防ごうとしているが、イタリア、デンマーク、オランダ、オーストリアでこの変異種に感染した患者がすでに出てきている。水際作戦の開始が遅すぎたようだ。そうなると、もう世界中に拡大するのは時間の問題かもしれない。
この変異種は、伝染力が強いのみで、重症化の確率が高いわけでも、これまで開発したワクチンが効かないわけでもないと、専門家は解説している。
しかし、本当にそうなのか、まだ検証したわけではない。万が一、既存のワクチンが効かないようなことがあれば、由々しき事態となる。そもそも、接種したワクチンが何ヶ月間有効なのかもまだ分からない。
新型コロナウイルスにはまだ未知の部分があるのであり、ワクチンが開発されたからといって、すべての問題が解決されるわけではない。イギリス発の変異種の特性と感染拡大の行方が心配である。
第三は、日本の感染状況である。12月17日には、感染者数は3210人と過去最多となった。この日、東京都も822人と過去最多である。その後も、日本列島各地で感染が高止まりしており、収束の兆しは見えていない。
この間、日本政府や東京都の対策は後手後手に回り、西村大臣の言った「勝負の3週間」は「敗北の3週間」に終わってしまった。そのため、菅内閣の支持率は急落した。
それに驚いた菅首相は、14日、唐突にGoToキャンペーンの全国一斉停止を決定した。この措置は、感染防止のためのブレーキとしては遅すぎ、また突然の方針転換に、観光などの関係業界、また国民に多大な迷惑をかけることになってしまった。
しかも、14日の夕方に、二階幹事長らと8人の会食をして、大きな批判を浴びている。国民に5人以上の会食自粛を要求したにもかかわらず、また「勝負の3週間」の真っ只中というタイミングは最悪である。
このようなミスが続き、12日の毎日新聞社に続き、19~20日に行われたANNの世論調査でも内閣支持率38.4(−17.5)%、不支持率39.6(+17.1)%と「支持しない」のほうが「支持する」を上回った。GoToTravelの一時停止措置については、「もっと早く判断する必要があった」が78%、8人の会食は「問題だ」69%に上っている。
19~20日に行われた朝日新聞の世論調査では、支持率と不支持率の逆転はなかったものの、内閣支持率は39%と17%も急落し、不支持率は35%と、15%も増えている。年齢層では、50代以上は不支持が支持を上回っている。GoTo停止は「遅すぎた」が79%、菅首相はコロナ対策で指導力を「発揮」が19%、「発揮していない」が70%と厳しい意見だ。
このような世論の動向に、自民党内からも菅離れが始まりそうである。
さらには、来年夏に延期された東京五輪についても、不確定要因が減ったとは言えない状況である。ワクチン開発が成功し、接種も始まったことから、安心感が広まっているが、イギリスで発生した変異種の問題もあり、五大陸から選手や観客が参集できるかどうか、まだ分からない。
このウイルスをまだ甘く見てはならないということである。
海外でのワクチン接種開始の傍ら、変異種の感染拡大 |
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【舛添要一が語る世界と日本(69)】コロナ感染再拡大 政局、どう動く?
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舛添 要一(国際政治学者)
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