新型コロナウイルス感染再拡大に伴って、重症化する患者が増え、しかも入院できずに自宅で死亡するケースが出始めた。
先進国の中でも医療資源が潤沢なはずの日本で、医療崩壊が叫ばれている。なぜなのか。まずデータを見てみる。
人口1000人当たりの病床数は、日本13.0、韓国12.4、ドイツ8.0、フランス5.9、イタリア3.1,アメリカ2.9、イギリス2.5である。
人口1000人当たりの医師数は、日本2.5、ドイツ4.3、イタリア4.0、フランス3.4、イギリス3.0、アメリカ2.6、韓国2.4である。
これに加えて、人口、感染者の数を見ると、欧米先進国に比べて、日本の人口当たりの感染者数は圧倒的に少ない。それにもかかわらず、医療資源が逼迫するのはなぜだろうか。答えは、資源の最適配分がなされていないということである。簡単に言えば、コロナ感染症治療に当たる医療スタッフも病床も不足しているのである。
東京について言えば、大学病院や専門病院は多いが、数日間の入院が必要な胃腸炎、ぜんそく発作などの患者を受け入れる中小病院が少ない。前者では病床は過剰で、後者は不足している。
東京の病院の89.1%は民間病院であり、病床数で見ると77.8%が民間である。したがって、民間病院の活用ということになる。政府は、一病床あたり、コロナ重症者用病床に1500万円、一般病床に450万円を補助することを決めたが、それだけで問題は解決しない。
もし、集団感染が発生すれば、赤字になってしまうし、風評被害で将来的にも患者が減ることになりかねない。病床だけではなく、医療スタッフにも賃金増などが必要である。
医療機関の間での連携も上手く行っていない。
コロナ重症者が危機を脱したときに、また中・軽症者を受け入れる病院がもっと増えれば、医療崩壊は起きない。そのためには、行政と各地域の医師会との連携が不可欠である。都道府県知事には、法的には民間病院に命令を下す権限はないが、日頃から地域の医師会と緊密な連携をとれば、病院間連携は十分にとれるはずである。
病院も商売であるから、儲からないことはやらない。日本は国民皆保険であり、診療報酬、薬価など医療の価格は中医協が決める公的価格である。私は厚労大臣経験者であるが、いかにして価格が決まるかは、大臣にもよく分からないし、細かいからくりを知っているのは限られた数の官僚である。
多くの厚労官僚が医療機関に天下りする。彼らの力を借りて自らの利益につながるような公定価格を決定できれば、受け入れ側の医療機関にもメリットはある。診療報酬や薬価の決定メカニズムの透明化も課題である。
マスコミが大きく報道するような政治問題化すれば、政治的に診療報酬の変更は可能であるが、そうでないかぎり、ブラックボックスのままであり、そこに医療機関などの利権が入り込む。
新型コロナウイルスは、今はSARSやMERSのような2類相当の指定感染症になっているが、そのことによる様々な規制が民間病院のコロナ治療参入を難しくしている。もっと言えば、指定感染症を理由に、民間病院が協力しないことが起こっている。指定感染症の指定を2021年1月31日からさらに1年間延期することが決まったが、ワクチン接種が始まったら、この指定を緩和することを考えても良いのではないか。
以上のようなことを実行せずに、感染症法や特措法の拙劣な改正を行っても、効果が無いどころか、禍根を残すことになる。たとえば、入院拒否者に刑事罰を科すような措置は、検査を受けない人を増やすだけで、むしろ感染を拡大させてしまうであろう。国会は立法府である。十分な審議を尽くしてもらいたいと思う。
医療崩壊の危機 法改正前にできることは山ほど |
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【舛添要一が語る世界と日本(74)】病床数の多い日本でなぜ崩壊
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(政治)
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舛添 要一(国際政治学者)
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