「女性蔑視」発言の責任をとって、2月12日、五輪組織委員会の森会長が辞任した。
しかも、後継に川淵三郎氏を指名したことが明らかになって、猛反発を受け、後任人事も白紙になっている。
ここまで事態が悪化したことの背景について記してみる。
第一は、世論の反発である。
「女性蔑視」だとして、テレビのワイドショーをはじめ、連日この問題がトップニュースとなり、まさに炎上してしまった。森発言を擁護でもしようものなら、袋叩きに遭うような状況になってしまったのである。
とりわけ決定的だったのは、国際社会の反響である。海外のマスコミの反応を見ると、森発言は「sexist(性差別論者)」だという批判が前面に出ていた。
森発言を丹念に検討すれば、さほど大騒ぎする内容かと思うだろうが、多様性を尊重する国際社会はジェンダーの問題には極めて敏感である。LGBTという性的少数派への差別は厳しく糾弾される。
したがって、「女性は」とか「男性は」とかいう主語そのものが不適切なのである。
とりわけオリンピック・パラリンピックは、国際的なイベントであり、国籍、信教、人種など、あらゆる差別が禁止されている。それだけに、森発言は、五輪の精神に背反すると糾弾されたのである。
第二は、選挙が迫っているという事情である。
7月4日には都議会選挙が行われる。そして、秋までには衆議院の選挙がある。
小池都知事時は、2月17日に予定されていた4者会談(都、国、組織委、IOC)に「出席しない」と早々に表明したが、それは、森失言を利用して、自分に世間の注目を集め、選挙に勝とうと目論んだからである。
4年前には、豊洲市場が「危険だ」と国民を扇動して、子飼いの政党、「都民ファースト」を圧勝させた。二匹目のドジョウを狙ったのである。
そして、首相になるという野望を実現するために、衆議院選挙の際には、都政を捨てて国政への復帰を狙う可能性もある。
小池都知事以外にも、菅内閣打倒を目指す野党などの勢力がいる。東京五輪中止ということになれば、菅政権が窮地に陥る可能性が高まるので、そのような文脈で森失言を道具に使おうというのである。
第三は、東京五輪に絡むカネや利権の話である。
1984年のロサンゼルス五輪以来、オリンピックは商業主義に陥っている。東京五輪も開催には約3兆円が必要である。そして、「完全な形」で開催されれば、約33兆円の経済効果があるとされてきた。
そこで、経済的見返りを前提にして、多くの企業がスポンサーになった。トヨタやJR東日本など、スポンサーである大企業のいくつかが森発言を批判したため、いわば兵糧攻めにあったのである。
とりわけ、放映権を持つアメリカのテレビ局NBCが公然と森退任を求めたことは、辞任の決定的な引き金となった。
そもそも、経済効果については、無観客試合となったり、海外からの観光客が来なかったりする可能性があり、すでに「完全な形」で行うのは極めて難しくなっている。
以上のような森辞任の背景を考えると、後任会長を選ぶのは容易な作業ではない。
まず、調整力が必要であっても、政治家は拒否される。
安倍晋三氏には元首相という肩書きはあるが、「桜を見る会」前夜祭の経理などの問題を引きずっている。
橋本聖子五輪担当相も政治家であり、会長になるのなら、大臣も国会議員も辞職せねばならない。彼女は五輪経験もあるが、スポーツ選手が最適とはかぎらない。それは、自分の専門以外の競技も公平に扱えるかという問題が出てくるからである。
また、森会長の対極にある女性、若者でというのも、逆の意味での性差別、年齢差別となる。
このように考えてくると、後任会長の選考はますます難しくなる。しかし、時間は無くなりつつある。3月25日には聖火リレーが始まる。それまでには東京五輪の開催か中止を決めるだろうから、新会長の責任はますます重くなる。
利害錯綜の五輪組織委、難しすぎる森後継 |
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(政治)
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舛添 要一(国際政治学者)
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