政府は、首都圏の緊急事態宣言を21日で解除した。
これ以上宣言を延長しても効果が無いという何とも無様な理由でだ。再再延長を決めたときに、新規な対策を講じず、全ては国民の自助努力任せというのでは、そうなるのは当然である。
フランスやイタリアでは、ここに来て感染が再拡大している。そこで、政府は都市封鎖、夜間外出禁止令などの措置をとり、抑え込みに懸命である。
感染者が減少すれば規制を緩め、増えれば規制を強化するというのが、感染症対策の基本であるが、緊急事態宣言を延長しても効果が無いから止めるという前代未聞の理由を言ったのは、私の知るかぎり、日本政府だけである。
今回は5つの感染再拡大防止策を講じることを決めている。具体的には、
(1)飲食店対策、(2)変異ウイルス対策、(3)PCR検査強化、(4)ワクチン接種推進、(5)医療提供体制充実であるが、あまり新味を感じない。
たとえば、飲食店の時短要請を午後8時から9時までに変更したら、感染防止と売り上げにそれぞれどれだけの変化があるのか。一時金を6万円から4万円に引き下げるが、一律給付では、一方で雀の涙にもならない大手があり、他方で通常の稼ぎ以上になる中小の店がある。
なぜ、ドイツのように通常の売り上げの75%といった常識的なことをしないのか。税務データを見れば、前年度の売り上げなど直ぐに分かる。
要するに、財務担当者がサボりたいだけの話で、役人はできるだけ自分の仕事を減らし、責任逃れをしようとする。その役人を動かせない政治家トップでは、対策は前に進まない。
変異株対策も、今は東京都は検査を5~10%しか行っておらず、40%に引き上げることができるのか。実行する意志も能力も無ければ机上の空論である。
神戸市で変異株感染者が多く見つかっているのは、60%以上の検査をしているからである。神戸並みの検査をすれば、一気に増えるのではないか。
しかも、海外では1回のPCR検査で、イギリス型、南アフリカ型、ブラジル型などの変異株も発見できるのに、日本では、まず感染研にデータを集めてからという2段階検査であり、無駄な労力と時間がかかりすぎている。
PCR検査も、やっと無症状者の検査である。4月から、1日に5000件実施というが、これも本当に実行できるのだろうか。これまで1年余の経緯を振り返ると、まともな検査など行わないと見られても仕方がない。
ワクチン接種にしても、世界中でワクチンの争奪戦が行われている中で、日本へ予定通りに供給されるか否かは不明である。実施に当たっても、医師の数も限られており、通常診療との両立という問題もある。
世界に先駆けて接種を行ったイスラエルでは、接種済みの人は通常の生活ができるようになっているし、イギリスでも接種の効果が出始めている。日本ではまだ医療従事者への接種も終わっていないし、高齢者の接種も4月半ば以降である。
東京都の感染者数の推移を見ると、前の週よりも増加している。
3月18日現在の実効再生産数は、東京都1.06、埼玉県1.07、神奈川県0.94、千葉県0.97である。この傾向が続けば、確実に感染は再拡大する。
実際に、一足先に緊急事態宣言を解除した関西では感染が拡大している。実効再生産数は、大阪府が1.27、兵庫県が1.44である。愛知県は0.98、福岡県は1.11である。全国平均でも、1.07で感染拡大である。
首都圏に限らず、仙台市や山形市でも感染者が急増しており、宮城県・仙台市と山形県・山形市は、4月11日までの独自の緊急事態宣言を発している。
政府の5つの再感染防止対策で、この傾向を逆転させることができるのであろうか。
実際に最近は人出は多くなっており、緊急事態宣言疲れもある。花見、卒業式、入学式、人事異動などの年度末・年度初めの行事もあり、外出自粛を要請しても効果はあまり期待できない。
つまり、今後、感染者数は増加に転じると考えるしかない。検査も、医療体制の整備も、ワクチン接種も全て後手後手である。同じ先進民主主義国の中でも褒められた対応ではない。
感染者や死者の数では欧米に比べて少ないと誇る前に、東アジアの中では劣等生であることを認識すべきである。菅政権が安倍政権の初動からの対応ミスを引き継ぐようでは、日本でのコロナ収束は遙かに先のことになってしまうであろう。
5つの再拡大防止策に新味なし 感染再爆発か |
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【舛添要一が語る世界と日本(82)】変異種対策も不十分
CC BY /Dick Thomas Johnson
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舛添 要一(国際政治学者)
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