4月12日から高齢者へのワクチン接種が始まる。
しかし、全高齢者分のワクチンが揃うのは6月であり、全高齢者が2回の接種を終えるのは8月以降になるのではなかろうか。
一方、昨年の12月8日に接種を開始したイギリスでは、すでに半分以上の国民が接種を完了しており、4月12日からはパブも再開されるなど、日常生活が戻りつつある。1月初めには6万人を超えていた一日の感染者数は、今では2~3千人にまで激減している。ワクチン接種効果であり、集団免疫的状況が生まれつつあると行ってもよい。
アストラゼネカはイギリスに本社を置く製薬会社であり、国産ワクチンを持つ国の強みを発揮していると言ってよい。今、日本では、アメリカのファイザーとドイツのビオンテックが合同で開発したワクチンを使っている。モデルナもジョンソン&ジョンソンもアメリカの会社である。
国産の強みで、英米ではワクチン接種が進んでいる。イスラエルは国産ワクチンがないにもかかわらず、イギリス以上に接種が進んでいる。
なぜ、イスラエルは早期の供給を受けることができたのか。その背景には、モサドなど諜報機関を駆使したワクチン開発情報の早期入手、高額の購入価格の提示、さらには製薬会社に副反応などについてリアルタイムの情報提供を申し出たことなどがある。
日本でワクチン開発が遅れている理由については、前回に、研究者・開発予算の不足、治験の不足などの諸問題を指摘したが、今回は輸入に手間取った背景について考えてみたい。
2009年に新型インフルエンザが流行したとき、厚労大臣の私は、ワクチンの確保にも苦労した。そのときの経験を繙いてみると、問題の根の深さがわかる。
当時、国内のワクチン接種対象者は5400万人であったが、2009年中に製造可能な国産ワクチンは1800万人分に限られ、残りは海外からの輸入で賄うしかない。
この時点でも、日本のメーカーは開発能力で世界に遅れをとっていた。
日本は、卵の有精卵を使って製造する旧来の方法を採用しており、出荷までに半年以上の時間がかかったのである。すでに海外では細胞培養が行われており、2ヶ月で、つまり日本の3倍のスピードで出荷できていたのである。
国民の命を救うためには、一刻も早く海外から輸入すべきであるが、医系技官は、「大臣、国産は安全なのですが、外国産にはアジュバントという免疫を高める物質が入っていて、副作用の危険があります。輸入を許可しないで下さい」と言ってきた。
しかし、「アジュバントが原因の副反応で死者」というデータは見つからなかったので、私の東大医学部の教え子のワクチン専門家たちに直接意見を求めると、答えは逆で、アジュバントの免疫効果によってワクチンの効果が高まるという。
この教え子ネットワークがなければ、私は技官に騙されていたはずである。自分たちの天下り先となる日本の老舗メーカーの利益のために、大臣にまで嘘をつくのである。政官業の癒着の酷さを再認識させられたものである。
私は、官僚の嘘をはねつけ、大臣判断で、イギリスのGSK(グラクソ・スミスクライン)から3700万人分、スイスのノバルティスから1250万人分を購入することにした。国産分と合わせて6750万人分である。新型インフルエンザが流行し始めてからわずか数ヶ月以内にこの手を打ったので、国民は安心したのである。
競争力の無いメーカーを守る護送船団方式が結局は日本のメーカーのワクチン開発能力を低下させ、世界から周回遅れとなってしまったのである。その体質がまた、今回のコロナワクチン輸入の遅れにも繋がっているようである。
厚労省、とくに医系・薬系技官システムの抜本的改革が必要である。
2009年の新型インフル・ワクチン輸入でも技官が嘘つき抵抗 |
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【舛添要一が語る世界と日本(85)】ワクチン輸入の遅れには厚労省技官の問題がある
公開日:
(政治)
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舛添 要一(国際政治学者)
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