4月25日に行われた衆議院北海道2区補選、参議院長野選挙区補欠選挙、参議院広島選挙区再選挙は、いずれも野党の候補が勝ち、自民党は全敗であった。
北海道は、吉川貴盛元農水相の辞任に伴うもので、自民党は候補者を立てず、不戦敗。当選したのは松木謙公候補で、立民、国民、社民、共産の野党統一候補であった。
長野は、コロナに感染して死去した羽田雄一郎議員の弟、羽田次郎候補が当選した。これも立憲、共産、国民、社民の統一候補であった。羽田孜元首相の強固な地盤があり、しかも弔い合戦とあって、自民党の小松裕候補は及ばなかった。
広島は、公選法違反で有罪が確定した河井案里議員の当選が無効となったために行われた。野党は、宮口治子候補に野党が候補者を一本化し、自民党の西田英範候補に競り勝った。
また、名古屋市長選は現職の河村たかし候補が当選し、4期目を目指すことになった。自公に国政野党が相乗りした横井利明候補は競り合ったものの敗北した。リコール署名偽造問題は大きな争点にはならなかったようである。
これは、国政選挙と異なり、与野党対決の図式ではないので同列には論じられないが、自民党にとっては、負けは負けである。
その意味では4戦4敗の全敗である。自民党は、せめて広島では勝てるという期待を抱いていたようであるが、結果は逆であった。なぜこのような結果となったのか、またそれは今後の政局にどのような影響を及ぼすのであろうか。
とくに広島での敗北は、安倍長期政権の問題が背景にある。それは、安倍政権下で官邸主導が貫徹されたことである。
加計・森友問題で明らかになったように、官僚の忖度を生んだことは周知の通りである。そして、選挙の公認や金の配分も官邸の意のままになっていったのである。
中選挙区と異なり、小選挙区では、一つの選挙区で党から公認されるのは一人である。選挙は幹事長が仕切るのだが、幹事長よりも上位に総裁がいる。つまり、安倍・菅の官邸コンビが候補者も資金の配分も最終的に決めていた。
参議院なので小選挙区制の衆議院とは異なるが、2019年の広島の参院選挙は、官邸の意向が前面に出た典型的な選挙である。岸田派に所属する現職で溝手顕正議員が立候補したが、彼は「安倍は終わっている」と発言したこともあり、安倍首相は不快の念を持ち続けていた。
そのこともあってか、夫で側近の河井克行前法相の依頼を容れて、河井案里候補を承認し、しかも党本部から溝手候補に対する10倍もの選挙資金を提供したのである。
建前は、定数2で2人立てても自民党が独占できるということであったが、その予測が甘かったことは誰もが認めるところであり、溝手追い落とし、そして岸田前政調会長の影響力低下を図ったとしか考えられないのである。
このような私憤を晴らすというという動機も不純であり、政権の私物化、党の私物化以外の何物でもない。
そして、党から提供された潤沢な資金を使って、河井陣営が買収という公選法違反事件を引き起こしたのである。有権者はその一連の流れを見ており、それが今回の審判となった。長期政権の腐敗がもたらした敗北と言う他はない。
さらには、今回の全敗は、政府のコロナ対策の失敗が大きな原因である。
東京都など3度目の緊急事態宣言に追い込まれ、しかもワクチン接種が遅々として進まないことが国民の不満を生んでいる。イギリスやイスラエルで国民の半分がワクチンを接種し、日常が戻りつつある状況は、連日テレビで報道されており、日本との落差が際立っていることを全国民が認識している。
菅首相には、ワクチン接種の加速化しか打つ手はなく、政府自民党は、1万人収容する接種会場を用意するとか、24時間体制で行うなど、焦りとも言えるような発言を繰り返している。
今回の国政三選挙は、野党統一候補の勝利であった。つまり、野党が分裂しなければ勝てるということである。実は、そのことの意味は大きいのだが、敗北した自民党は、意図的にその点を無視している。
また、候補一本化に成功した野党は勝ったが、それは野党諸政党にとっても大きな教訓である。野党は来たるべき衆議院選挙で選挙協力を実現させることができるのだろうか。
補選で野党全勝 「一本化すれば勝機あり」を証明 |
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【舛添要一が語る世界と日本(87)】国政三選挙、自民党全敗
公開日:
(政治)
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舛添 要一(国際政治学者)
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