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新イージス艦、読売も疑問視

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【論調比較・ミサイル防衛の新方針 】朝毎東は敵基地攻撃能力の「なし崩し容認」を懸念

公開日: 2020/12/25 (政治)

岸防衛相=Reuters 岸防衛相=Reuters

岸井 雄作 (ジャーナリスト)

 政府がミサイル防衛の新たな方針を決めた。

 断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代わりに、同じ装備を搭載した迎撃を主な任務とする新型イージス艦2隻を新造するほか、弾道ミサイル攻撃を阻止するために敵の拠点をたたく「敵基地攻撃」能力を持つかどうかについては結論を先送りした。

 一方、敵の射程圏外から攻撃できる長射程の巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」を国産で開発する方針を盛り込んだ。

 安倍晋三前政権から引き継いだイージス・アショアの後始末ということになるが、新たな艦船建造・運用の問題点のほか、スタンド・オフ・ミサイル導入決定には、専守防衛との関係で問題が指摘される。敵基地攻撃能力の保有を明確にするよう求める声もあり、大手紙の論調も割れている。

 この間の経緯を確認しておくと、まず6月、秋田、山口へのイージス・アショア配備を、技術的問題、コスト上の観点から断念。その代替として自民党国防族を中心に敵基地攻撃能力保有論が噴出。国家安全保障会議(NSC)で代替案の検討を開始し、外交・安全保障政策の基本方針である

 「国家安全保障戦略(NSS)」を見直して、年内の改定を目指すとした。自民党は7月に敵基地攻撃能力の検討を含む「提言」をまとめた。さらに、安倍首相は退陣表明を経て、菅義偉政権への申し送りとして、9月に安倍首相談話を出し、「抑止力を高め、我が国への攻撃の可能性を一層低下させていくことが必要ではないか」と、敵基地攻撃能力保有の必要をにじませていた。

 菅政権はNSSの改定は先送りし、12月18日にミサイル防衛の新たな方針を閣議決定したが、敵基地攻撃能力については、慎重な公明党に配慮し、「抑止力の強化について、引き続き政府内において検討を行う」と記しただけで、期限も切らず、年内に敵基地攻撃能力保有に道を開こうという安倍談話の方向性をあっさり反故にした。

 「スタンド・オフ防衛能力の強化」として、12式地対艦誘導弾の「能力向上型」の開発を盛り込んだ。具体的にはF15戦闘機に搭載予定の米国製ミサイル(射程900キロ)と同等の射程を見込んでいる。その位置づけは「島嶼(とうしょ)部を含む我が国への侵攻を試みる艦艇等に対して、脅威圏の外からの対処を行うため」と、「島嶼防衛」の枠をひとまずはめた格好だが、射程を考えると、将来的に敵基地攻撃に転用可能だ。

 今回の決定の論点は、イージス・アショアに代わるイージス艦2隻導入と、スタンド・オフ・ミサイルを含む敵基地攻撃能力の2点で、大手紙は19日前後に一斉に社説(産経は「主張」)を掲載(毎日は2回に分け、イージス艦と敵基地攻撃能力を別々に取り上げた)。

 論調は、基本的に、政権支持の読売と産経、慎重な朝日、毎日、東京、その真ん中の日経という構図だが、ニュアンス、問題点の認識では単純な2項対立でもない。

 敵基地攻撃能力については、十分な検討がされていないことには各紙、批判的だが、その〝心〟は異なる。

 そもそもの認識として、〈周辺国のミサイル技術が向上し、安全保障環境は厳しくなっている。これに応じて防衛力を整備する必要性はあるだろう〉(毎日20日)ということを正面から否定する主張はない。そこから敵基地攻撃まで一気に行くか、より慎重な議論が必要とするかが大きな分かれ目だ。

 敵基地攻撃能力を持つべきだと訴えてきた産経と読売は、結論先送りにいら立ちを隠さない。産経(19日)〈判
断を、期限も示さずに先送りにした。極めて残念である。菅義偉首相と岸信夫防衛相、自民、公明の与党が日本の守りを真剣に考えているのか疑わしい。……転用可能なスタンド・オフ・ミサイルを造っても、政策変更がなければ自衛隊は関連装備の調達も作戦計画の策定も訓練も困難だ。菅政権による敵基地攻撃能力保有の決断が急務である〉

 読売(19日)〈菅内閣は……判断を先送りした。……首相は、多様な脅威を深刻に受け止める必要がある。公明党に反対論があるのならば、防衛力強化の重要性を粘り強く説明し、理解を得るべきだ。それが国政を担う指導
者としての責務であろう〉

 これに対して、朝日など3紙は専守防衛に照らして敵基地攻撃能力に慎重な立場で、スタンド・オフ・ミサイルが実質的にその能力を持つことへの懸念を強調する。

 毎日〈他国に届く長射程ミサイルを保有することは、専守防衛を逸脱するおそれがある。政府はこれまで、敵基地攻撃能力について、他に手段がない場合に限り、自衛の範囲内だと解釈してきた。ただ、専守防衛の観点から、歴代内閣はそのための装備を持つことを見送ってきた。長射程の巡航ミサイルも保有することは考えていないと答弁してきた〉

 朝日(19日)〈離島防衛を名目に、国産の地対艦誘導弾の射程の延長を決めたのは、将来の保有に向けた布石ととられかねない〉

 東京(19日)〈自衛官の安全を確保しつつ、日本への侵攻を試みる艦艇を効果的に阻止するためとしているが、射程が延びれば、敵基地攻撃への転用も可能になる。専守防衛に反しないか、慎重な検討が必要だ〉

 日経(20日)は〈現行の防衛システムでは北朝鮮や中国のミサイル脅威に対処しきれない。抑止力を強めるのは重要な視点だ〉と、基本的に防衛力強化の立場は産経や読売に近い。

 イージス艦導入については、産経が〈防衛省は地上型の失敗を繰り返さぬよう努めつつ、「搭載艦」の設計や配備を急いでもらいたい〉と、具体的に問題点を指摘することなく評価するのは、もっぱら敵基地攻撃能力に関心があるからか。

 これに対し、他紙は、読売を含め、問題点を具体的に書き込んでいる。ポイントは、1隻300人という海上自衛隊の人員を中心とした艦の運営問題と、費用の2点。

 読売は費用には触れなかったが、〈(イージス・アショアは)最新鋭の装備で、幅広い地域をカバーできるという利点を重視していた。陸上自衛隊に運用を任せ、人手不足が顕著な海自の負担を軽減する狙いもあった。……護衛艦の導入に向けて課題となるのは、乗組員の確保である〉と、人員に絞ってではあるが、厳しい見通しを指摘した。

 他紙はさらに具体的、かつ辛辣で、〈(イージス・アショアは)そもそも……軍事的な合理性よりも、安倍晋三前首相が、米国製武器の購入を求めるトランプ米大統領に配慮した色合いが強かった〉(東京)こともあり、費用について厳しい目を向ける。

 朝日〈米国から陸上イージス用に購入を決めたレーダーなどの装備を、海上に転用するという前提には、海上自衛隊OBや専門家の間からも疑問の声があがっている。どれだけコストが膨らむか見通せず、それに見合う効果もはっきりしない。ここは違約金を払ってでも契約を解除し、追加的なミサイル防衛策が必要であるというなら、白紙から検討し直した方が合理的ではないのか〉

 毎日(15日)〈1隻2400億から2500億円超で、陸上イージス1基に比べて2割以上高い。具体化に従ってさらに膨らむ可能性があるうえ、30年間の経費総額は概算すら示されていない〉

 東京〈地上用レーダーを艦船に積む異例の転用で少なくとも五千億円とされた地上イージスを超える巨費を要する可能性も指摘される。……ずさんな計画の代償を国民に支払わせる責任を、誰がどう取るのか〉

 そして、〈詳細を詰めないままイージス艦2隻を新造すると決めた〉(毎日)と、問題点の検討・説明が十分されていないことを批判する。

 運用についても、〈陸上自衛隊が運用する予定だった陸上イージスから、海自が担う新造艦への転換は、ただでさえ深刻な要員不足に悩む海自にとってさらなる負担となる。態勢を整えるのは容易ではあるまい〉(朝日)、〈導入の目的は、北朝鮮の弾道ミサイルから「24時間365日、切れ目なく防護する」ことだった。海上案への回帰でそれは難しくなる。イージス艦は荒天に弱く、補給や整備のために任務を離れて港に入る期間も必要だからだ。

 既存のイージス艦をミサイル防衛から外し、中国を念頭に東シナ海などでの警戒・監視に当たらせることも十分にはできなくなる〉(毎日)、〈海上自衛隊の負担軽減が目的とされていたが、海上配備への回帰は当初の説明と矛盾するのではないか〉(東京)と手厳しい。

 日経も、〈政府は当初、陸上イージス導入で海上自衛隊の負担軽減や8隻体制のイージス艦の柔軟な展開につながると説いていた。日本周辺の安全保障環境が変容するなか、3年で洋上配備に回帰した迷走の代償は小さくない。最適なミサイル防衛を十分に詰めるべきだ〉と批判している。

 そして、防衛政策の進め方について、朝日は〈自衛隊は近年、戦闘機から発射する長距離巡航ミサイルの導入や護衛艦の空母への改修など、専守防衛の枠内といいながら、その原則をなし崩しに空洞化するような装備の導入を進めている。意図をあいまいにしたまま、兵器の能力だけを強化していく手法は、周辺国の誤解を招き、地域の不安定化や軍拡競争につながる懸念がある〉と説く。

 毎日(20日付)も、〈政府は今回、議論を積み重ねることなく、突然閣議決定し、予算を追加要求した。日米安全保障条約の下、日本は守りの「盾」、米国は打撃力の「矛」としてきた役割分担の見直しにもつながりかねない。専守防衛をなし崩しで変質させることは許されない。……防衛政策の根幹に関わる問題であるにもかかわらず、徹底した議論や国民の理解を得るというプロセスがなおざりにされている〉など強い懸念を示した。

 日経も〈日本の防衛戦略の変更につながるほか、実効性など論点も多い。専守防衛の原則を踏まえ、防衛構想全体の中で議論を深めるのが重要である〉と、慎重な議論を求めている。

 コロナ禍の対応に右往左往している菅政権は、中長期的な安保問題の検討に注ぐ余力がないと言ってしまえばそれまでだが、今回の問題は、各紙の社説が書く通り、単なるイージス・アショアの後始末というレベルの話ではない。バイデン米新政権との関係をはじめ、対中、対韓、対北朝鮮等々、課題が山積する中、菅外交、菅安保戦略の欠片さえ見えないのは、暗澹たる気持ちにさせられる。
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。著書に『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大課題』(中経出版=共著)。
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