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国葬が安倍氏への評価揺るがす皮肉

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【論調比較・安倍元首相の国葬】けしかけた産経、沖縄紙が反対 被災地東北も慎重

公開日: 2022/07/25 (政治, 統一教会)

安倍元首相の遺影=Reuters 安倍元首相の遺影=Reuters

岸井 雄作 (ジャーナリスト)

 岸田文雄政権が2022年7月22日、銃撃され死亡した安倍晋三元首相の国葬を9月27日に東京の日本武道館で行うと閣議決定した。国葬の基準が曖昧との疑問も指摘される中の「見切り発車」。

 前首相の政治的評価は割れ、国葬の是非でも国民の意見は割れ、新聞の論調も割れている。国葬を積極的に推す新聞が一部ある半面、国葬への疑問の声があふれるが、真っ向から国葬反対を打ち出すのは一部地方紙に限られ、その他の大手紙はやや腰が引けている印象だ。

 首相経験者の国葬は、連合軍の占領に終止符を打って独立を回復した吉田茂氏(1967年死去)以来、55年ぶり、戦後2人目。松野博一官房長官は国葬を行う事について、7月22日の閣議決定後の記者会見で、安倍氏が憲政史上最長の8年8カ月にわたって首相を務めたこと、国内外から幅広い哀悼・追悼の意が寄せられていることなどを挙げた。

 葬儀委員長は岸田首相が務め、費用は政府が全額負担する。松野氏は「一般予備費の使用を想定しているが、詳細は今後検討していく。無宗教形式で、かつ簡素、厳粛に行う」と述べた。

 戦前は国葬の実施を規定した「国葬令」(天皇の勅令)があり、1909年の伊藤博文(初代首相)をはじめ、山形有朋ら首相経験者の国葬が行われたほか、戦死した山本五十六連合艦隊司令長官のように、露骨な国威発揚のケースもあったが、1947年に失効。以後、国葬に関する法令はない。

 政府は今回も総理府設置法に基づいて実施した吉田元首相のケースを踏襲し、「内閣府設置法」を根拠に内閣府の所掌事務とされる「国の儀式」として実施する。

 ただ、吉田氏のときも、政権の判断に委ねるのでなく国会で法整備するのが筋だとの声が上がった。

 戦後、吉田氏を除く歴代首相の葬儀をみると、安倍氏に抜かれるまでの最長政権記録を保持していた佐藤栄作氏は、沖縄返還を実現し、非核三原則を唱え、ノーベル平和賞を受賞したが、吉田氏の国葬の際の疑義を踏まえ、法的根拠がないことを理由に国葬が見送られ、内閣、自民党、国民有志による「国民葬」で行われた。

 大平正芳氏以降は政府・自民党の「合同葬」の形式が定着しており、安倍氏が「特別扱い」なのは明らかだ。

 ちなみに、吉田氏の国葬では、閣議了解で当日のルールを決め、省庁での弔旗掲揚、黙とう、職員の午後退庁、歌舞音曲の自粛まで網羅。さらに、民間企業や学校にも協力要請し、国会でも問題にされた。2年前の中曽根康弘元首相の合同葬では、政府が全国の国立大や自治体などに弔意を表明するよう求める通知を出して批判された。

 今回、国民の批判を恐れてか、「(政府は)国民に喪に服すよう強制する考えはないと説明している。国葬の日は火曜日だが、学校や官公庁は休みにしない方針だ」(読売新聞7月23日)。

 自民党が国葬を支持するのは当然として、連立与党である公明党の山口那津男代表は当初、コメントを控えていたが、19日に岸田首相と会談後、「総理の決断を支持したい」と公式に支持を表明した。

 野党は、選挙中に銃撃され現役政治家が死亡したというショッキングな事件だったこともあり、状況判断に迷う様子もうかがえたが、まず共産党が「安倍氏の政治姿勢を国家として全面的に公認することになる」などと反対を表明。

 国会の集中審議を求めていた立憲民主党も閣議決定を受け、泉健太代表が「なし崩し的な形で国葬の準備が進められようとしている。反対だと表明したい」と反対を明確にした。日本維新の会の松井一郎代表は反対しないとしつつ「賛成する人ばかりではない」と、国会での審議を求めている。

 野党の主張に自民党も神経をとがらせているようで、茂木敏充幹事長は19日、「野党の主張は国民の認識とかなりずれている」と批判している。

 SNS上でも賛否の意見が飛び交うが、世論が割れているのは明らかだ。NHKが7月16~18日に実施した世論調査では、国葬実施を「評価する」49%、「評価しない」38%だった。

 世論調査ではないが、熊本日日新聞が「SNSこちら編集局」の登録者を対象にアンケートを実施したところ、「どちらかといえば」を含めて賛成42.9%、反対49.6%となり、30代以下の若い世代では賛成が50%を超える一方、50代以上では反対が半数以上だった。

 今回の国葬は、岸田首相が安倍氏の死亡から2日後の参院選投票日(7月10日)にはすでに意向を周辺に語っていたなどと報じられている。そして14日に記者会見で国葬を行うと発表、22日に閣議決定するという「即断即決」だった。安倍氏に近かったことで知られる政治ジャーナリストの田崎史郎氏は「国葬は保守派への配慮」(テレビ朝日「モーニングショー」)と解説している。

 安倍氏の国葬の論点は、大きく2つになる。そもそも国葬で行うべきか、また、国葬にするなら根拠の説明を含め国会で議論すべきではないか――の2点だ。「暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜くという決意を示す」と岸田首相は説明するが、民主主義と国葬がどうリンクするのか、論理的説明はない。

 大手紙の論調を見てみよう。真っ先に国葬を「けしかけた」のが、産経だ。岸田首相が会見で方針を明らかにする前、14日の「主張」(社説に相当)で「心を込めた国葬で送りたい」と題し、〈安倍氏の葬送では、憲政史上最長の首相在任による業績を踏まえることに加え、国際社会が示してくれた追悼にふさわしい礼遇を示すことが大切だ〉〈これほど世界から惜しまれた政治家が日本にいただろうか。日本にとどまらず、世界のリーダーだった。国民が安倍氏を悼み、外国からの弔問を受け入れるには国葬こそ当然の礼節である〉〈安倍氏の功績は吉田氏に劣らない〉と、美辞麗句を連ね、〈岸田文雄政権はその方針(国葬)を固め、ただちに準備に入ってもらいたい〉と、政権の尻を叩いた形だ。

 ただ、その後の報道で、前述の通り、この時には岸田首相はすでに国葬を決断していたことになる。

 また、産経はこの前日、13日の1面トップで「安倍氏『国葬』待望論」との記事を掲載したが、小見出しに「法整備や国費投入課題」と取り、〈元首相の葬儀に国費を投じることには批判的な意見も根強い〉と指摘したうえで、〈過去の例に照らせば、国葬となる可能性は高くない。法的根拠となる国葬令は昭和22年に失効している〉〈最近では内閣と自民による「合同葬」が主流で、安倍氏もこの形式となる可能性が有力視される〉と、国葬実現は難しいとの見方を示すなど、14日の「主張」とは趣が異なり、極めてバランスの取れた書きぶりだった。国葬反対論の根強さを認識している証だろう。

 自民党政権を基本的に支持している読売(16日)も、産経の「主張」ほど煽りはしないが、〈国葬には、海外の多くの首脳や要人が出席する見通しだ。外交上も重要な場となる。国家的行事として、責任を持って執り行おうという政府の姿勢は理解できる〉と、支持を表明。

 ただ、さすがに反対論は無視できず、〈国葬という最高の形式に、異論がある人もいよう。だが、不慮の死を遂げた元首相の追悼方法を巡って日本国内が論争となれば、国際社会にどう映るか。そんな事態を、遺族も望んではいまい。政府は、不必要な混乱を招かないよう、国葬の規模や運営方法などについて、丁寧に説明を尽くしてもらいたい〉と、産経よりは理性的に書いている。

 ただし、森友・加計・桜を見る会など安倍政治の「マイナス面」には具体的に一言も触れていない。

 日経(23日)は、〈内政や外交の実績を総合的に評価した判断は理解できる〉と基本的に肯定しつつ、丁寧な説明などを求め、茂木幹事長の野党批判を〈今回の政府判断や自らの政治的評価を他者に押しつけるような言動は慎むべきだ〉とたしなめるなど、最低限のバランスをとっている。

 一方、安倍政治に批判的だった朝日、毎日、東京は、国民の間に国葬への反対があること、国会での審議無しに決めたこと――の2点を中心に、国葬に批判的な論を展開する。

 毎日(16日)は〈国葬に関する法律や基準はない。首相経験者の業績で判断することになれば、時の政権によって恣意(しい)的に運用されることがあり得る。退陣から2年弱で、現役の政治家だった安倍氏の歴史的評価は定まっていない。野党は「公文書改ざん問題や国会での虚偽答弁などがあったことも忘れてはならない」と指摘している〉と、安倍政治の評価が割れていることを強調。

 東京(20日)も〈自民党保守派への配慮という岸田首相の政治判断があったのだろう。しかし、通算八年八カ月にわたる安倍政権には評価の一方、根強い批判があることも事実だ〉と指摘する。

 朝日(20日)は〈安倍氏を支持してきた党内外の保守勢力への配慮だとしたら、幅広い国民の理解からは遠ざかるだけだ〉と疑問を呈する。

 岸田政権が国会審議を避けていることについても、毎日(23日)は、首相が国葬とすることによって「暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜くという決意を示す」と強調していることを指摘し、〈日本の民主主義の基盤は、国民の代表で構成する国会である。国民の疑問に答えるには、政府が国会で説明し、議論することが欠かせない〉と訴え、東京も〈国葬に法令上の明確な定めがない以上、唯一の立法府である国会が議論を尽くすべきだ〉と主張している。

 ただ、朝日、毎日、東京の3紙も、国葬に疑問を呈しつつ、明確に反対までは明言していない。選挙中の銃撃という衝撃的な亡くなり方が影響しているのかもしれない。

 地方紙は、それぞれの地域事情も含め、多くが安倍政治への否定的側面を指摘。その中で、琉球新報(沖縄県、16日)が、確認できた中では唯一、「国葬反対」を明言した。

〈沖縄の立場からはさらに厳しい評価をせざるを得ない。安倍元首相は、沖縄の民意を踏みにじりながら辺野古新基地建設を力ずくで進めてきた。地位協定見直し要求も無視し続けた〉〈憲法が保障する内心の自由に抵触する国葬には反対する〉

 沖縄タイムス(17日)は〈辺野古の新基地建設をはじめ、こと沖縄政策に対しては強硬姿勢が目立つ政治家でもあった。……吉田氏に続いて安倍氏が国葬で送られることに対し、県民からは反発の声が上がっているが当然だ〉〈国論を二分した安倍氏の政策は評価が定まっているとは言えない。なぜ国葬なのか。政府は追悼の在り方を再考すべきだ〉と、限りなく反対に近いニュアンスで書く。

 京都新聞(17日)も〈ムードに乗じて岸田氏の判断で決めていいのか。政治利用ともみえるだけに疑問と危うさを禁じ得ない。再考を求めたい〉と、「再考」を求めているのは、反対に近い主張だ。

 東北のブロック紙、河北新報(宮城県)は〈安倍氏の「実績」について……特に東北の被災地に刻まれている記憶は複雑だ。東京電力福島第1原発の状況を「アンダーコントロール」と語って招致した東京五輪は、いつの間にか「復興五輪」から「コロナに打ち勝った証し」にすり替わった〉と指摘。

 信濃毎日新聞(23日)は〈コロナ禍、近親者のみで葬儀を済ませる世帯が目立つ。故人との別れとなる弔問を控えたという人も多かろう。そんな折、国は海外から要人を招き、盛大に儀式を催す。「国民の声」を認識できていないなら、ずれているのは政府・与党の方だろう。……急拡大する新型コロナ感染が収束しているかどうかも気がかりだ〉と、コロナ禍を踏まえて批判。

 全国紙、ブロック紙、県紙などの多くは、多様な視点で安倍政治のマイナス面を冷静に指摘し、国葬にひた走る岸田政権の判断に反対または疑問を呈している。

 また、〈極めて異例の「国葬」という形式が、かえって社会の溝を広げ、政治指導者に対する冷静な評価を妨げはしないか〉(朝日)、〈国葬の形式を取ることで、有形無形に弔意を強いるムードが広がりかねない。国民の分断を招く恐れもある〉(北海道新聞23日)、〈安倍氏を静かに送ることができるように、賛否を巡って国民が激しく対立する事態は避けたい〉(西日本新聞=福岡県16日)など、強引な国葬決定が国民の分断を加速することへの懸念も目立った。

 本稿では触れなかったが、安倍氏銃撃の背景にある旧統一教会の反社会的な活動、そして旧統一教会の自民党との癒着問題が、国葬論議に影を落としてもいる。自民党・岸田政権が国会での議論を避ける一因が、旧統一教会問題を追及されるのを避けるためとの見方もある。

 いずれにせよ、岸田首相が安倍支持派(保守派、右派)に配慮して国葬を早々に決断した結果、安倍政治の否定的側面を含め、安倍氏の評価に改めて光が当たる事態は皮肉といえる。国の分断も進めてしまうとしたら、その政治責任は岸田首相にのしかかる。
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。東京農業大学応用生物科学部非常勤講師。元立教大学経済学部非常勤講師。著書に『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大課題』(中経出版=共著)。
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