「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」と題した共同声明はこのほか、日本の防衛力強化への決意表明、沖縄県・尖閣諸島への日米安保条約第5条(対日防衛義務)の適用、北朝鮮の非核化、拉致問題への米国の関与などを確認。さらに、経済安全保障問題で半導体などのサプライチェーン(供給網)での連携のほか、新型コロナ感染症対策や気候変動(地球温暖化)に対する「日米パートナーシップ」立ち上げ、高速通信規格5Gや次世代の6G 、人工知能(AI)分野の技術開発での協力なども盛り込んだ。
大手紙6紙は17日夕刊で軽く報じたのに続き、18日朝刊で1面トップ、2~3面などで関連記事、声明全文(要旨)などを掲載して詳報、社説(産経は「主張」)でも論じた。
18日朝刊1面の本記と、関連記事のうちメイン記事の主要見出しを比べた。
▽読売1面=対中へ同盟深化/台湾の平和 重要性強調/香港・ウイグル人権懸念
3面スキャナー=日本慎重 米強硬/「台湾」文言難航 「平和」強調で折衷
▽朝日1面=声明に台湾明記/中国との競争 連携強調
2、3面時々刻々=台湾海峡 踏み込む日米/対中国 経済と安保一体化
▽毎日1面=52年ぶり台湾言及/「海峡の平和重要」
3面クローズアップ=対中 牽制と配慮/海洋進出懸念 対話にも重き
▽産経1面=声明「台湾」を明記/対中国結束で一致/香港・ウイグル人権に懸念
3面=日米同盟 新ステージ/変わる戦略環境 役割見直し
▽日経1面=「中国」「脱炭素」米が問う覚悟/「台湾」52年ぶり共同声明に
3面=中国と対峙鮮明/日本「防衛力を強化」
▽東京1面=気候変動へ「確たる行動」/「台湾」明記/対中国で協調
2面核心=台湾海峡 巻き込まれる懸念/中国にらみ同盟誇示
東京は見出しこそ気候変動がトップだが、記事の中身は台湾がメインで、各紙、台湾問題を中心にした対中国関係を最大の焦点として報じたのは、今回の会談のポイントがそこにあったということだ。
今回の会談でバイデン政権は、「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」と位置づける中国に対抗する地理的「最前線」といえる日本の役割を重視し、対中国をメインに位置づけた。「中国が6年以内に台湾に侵攻する可能性がある」(インド太平洋軍のデービッドソン司令官の3月の議会証言)という危機感が背景にある。
菅政権としては、「日米会談を成功させて4月解散」などと一時、永田町で公然と語られたように、政権浮揚のツールという側面も小さくなかったが、尖閣諸島はじめ中国への対応を迫られている一方で、台湾を「核心的利益」と位置付ける中国との経済関係も重要とあって、このあたりにどう折り合いをつけるかが注目されていた。
この点で、3月の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の共同声明に盛り込まれた「台湾海峡の平和と安定の重要性」という全く同じ文言を首脳会談の共同声明も踏襲しており、意外性はなかった。
同時に、日本側は、米国がもっと強い表現を求めたのを押し返し、逆に「両岸(中台)問題の平和的解決を促す」との文言も盛り込んだとされる。こうした修辞学的な要素も、外交の一要素ではある。
日米のこうした「攻防」は各紙がそれなりに報じているが、特に詳しく報じたのが読売と日経だ。
読売18日3面「『台湾』文言難航 『平和』強調で折衷」との記事で、中国を過度に刺激することを懸念し、日本政府が米国とやりあったことを書き込んだ。日経19日朝刊2面「台湾明記 首相ぶれず/『平和』強調で対中配慮」と、交渉経過をさらに詳しく報じた。よく取材して細部まで書き込まれた記事ともいえるが、両紙の安保問題での保守的論調も考えると、政権からの積極的リークもうかがわれる。政権の「成果」あるいは「努力」のPRもあるだろうし、中国に対し「強硬一点張りではない」とのサインを送る色合いもあるのだろう。
社説は各社のスタンスの違いが改めてはっきり出た。
違いは、まず扱いに出た。読売、産経、日経は、普段は2本の社説を載せているのを、この日は「1本社説」とした。重大なテーマだというのはもちろんだが、会談が外交・安保政策上、大きな転換点になる可能性がある、あるいは転換するべきだという位置づけもあるのかもしれない。
これに対し、朝日、毎日は2本社説の1本目という同じ扱い。こちらは、まだ今後の動向を注視する必要があり、少なくとも現時点で、大きな転換点と判断すべきではないということか。東京は「日米首脳会談」「首相『防衛強化』」の2本立てという変則の形だった。
各紙の中身を読み比べてみよう。
台湾への言及については、立憲民主党の枝野幸男代表が17日、「およそ半世紀ぶりに日米間で明確にしたことは一定の評価をすべき成果だ」と述べたほどで、各紙論調も、尖閣諸島や台湾を含む東シナ海、南シナ海での中国の「海洋進出」や、香港、新疆ウイグル自治区の人権状況への懸念などに異論はない。
▽読売 〈日米は、緊密に連携し、地域の平和と繁栄を確保しなければならない。……台湾を威圧する中国に対し、日米が共同で警告を発したのは適切である。……(人権問題は)状況の改善を直接求めるなど、より明確なメッセージを発していくべきだ〉
▽産経 〈対中国を念頭に「抑止の重要性」を確認し、同盟の一層の強化を約した。極めて妥当である。とりわけ評価できるのは、共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調した点だ〉
▽日経 〈民主主義や人権などの価値を前面に打ち出し、ルールにもとづく国際秩序に挑戦する中国に日米同盟を深化させて対処する姿勢を明確にした意義は大きい〉
▽朝日 〈日米首脳間の文書に「台湾」が明記された意味は重い〉
▽毎日 〈中国の脅威に対し、米国の抑止力に頼る日本が歩調を合わせ、慎重な行動を促そうというのは、理解できる〉
このように保守的論調3紙だけでなく、朝日、毎日も書く。ただ、東京も「軍拡競争を危惧する」との社説で〈中国の「力による現状変更の試みと地域の他者への威圧」に反対する姿勢を連帯して示し、問題の平和的解決を促すことは望ましい〉と中国への懸念を示している。
中国に問題ありとしても、具体的にどうしていくかは、論が分かれる。
保守的論調の3紙は、日米の役割分担、つまり日本の防衛力強化の必要を説く。
▽読売 〈日本は、米国と対中戦略を十分にすり合わせ、責任を共有する覚悟が必要となろう。……(台湾問題で)あらゆる事態を想定し、日米であらかじめ役割分担を議論しておくことが不可欠だ〉
▽日経 〈抑止力を高めるうえで、日本は応分の負担が避けて通れない。……日本がどこまでの役割を担うのか米国と入念に擦り合わせ、国民の理解を得ながら備えを固める必要がある〉
2紙が、やや抽象的に書くにとどめたのに対し、産経は〈防衛力を強化するとしたのは役割分担の表明だが、具体策を示してもらいたかった。……敵基地攻撃能力の導入決定も急務である〉など、従来から主張する防衛力強化を改めて具体的に求めるなど、より前のめりだ。
これらに対し、朝日、毎日、東京は米国との協調一辺倒を戒める点で共通する。
▽朝日 〈日本にとっても、尖閣周辺での活動を活発化させる中国に対応するには、米国の後ろ盾が欠かせない。ただ、中国は隣国であり、経済の相互依存関係も深い。米国と完全に同じ立ち位置とはいかない。……日本が果たすべき役割は、米中双方に自制を求め、武力紛争を回避するための外交努力にほかならない〉
▽毎日 〈首相自らが、隣り合う中国が外交的、経済的に重要な国だというメッセージを送るべきだろう。人権や法の支配、貿易ルールが大事だと訴えるのは重要だ。それは中国と共存するためであり、排除を目的とすべきではない。中国と協力できる領域を広げることも必要だ〉
東京は、もう1本の社説「米中との間合いを測れ」で、〈米中は互いが国内世論を意識して激しい言葉をぶつけ合っている。これでは外交上の選択肢が狭まり、衝突軌道を突き進むだけではないか。強い危惧を覚える。求められるのは自制と理性である〉として、〈米中が意思疎通を積み重ねるような環境づくりに日本が貢献できる余地はあるはずだ〉と指摘している。
中国を警戒し、「誤り」を正すべきなのは言うまでもない。それでも、勇ましく対峙するだけで済まない。例えば台湾については、日本も米国も、基本的に「一つの中国」を認めてきた。1国2制度のような形の統一は、当面は現実性が皆無だとはいえ、長い年月をかけてどう実現していくか、息長い取り組みが必要になる。
〈自らの主体的な戦略を描いたうえで……対立をエスカレートさせないことを最優先に取り組むべきだ〉(朝日)
〈日米合意を実のあるものにするため、日本の主体的な貢献がますます重要になる〉(日経)
米中の狭間で、どんな「主体性」を発揮すべきか。重苦しいが、避けて通れない課題だ。
保守的論調の3紙は、日米の役割分担、つまり日本の防衛力強化の必要を説く。
▽読売 〈日本は、米国と対中戦略を十分にすり合わせ、責任を共有する覚悟が必要となろう。……(台湾問題で)あらゆる事態を想定し、日米であらかじめ役割分担を議論しておくことが不可欠だ〉
▽日経 〈抑止力を高めるうえで、日本は応分の負担が避けて通れない。……日本がどこまでの役割を担うのか米国と入念に擦り合わせ、国民の理解を得ながら備えを固める必要がある〉
2紙が、やや抽象的に書くにとどめたのに対し、産経は〈防衛力を強化するとしたのは役割分担の表明だが、具体策を示してもらいたかった。……敵基地攻撃能力の導入決定も急務である〉など、従来から主張する防衛力強化を改めて具体的に求めるなど、より前のめりだ。
これらに対し、朝日、毎日、東京は米国との協調一辺倒を戒める点で共通する。
▽朝日 〈日本にとっても、尖閣周辺での活動を活発化させる中国に対応するには、米国の後ろ盾が欠かせない。ただ、中国は隣国であり、経済の相互依存関係も深い。米国と完全に同じ立ち位置とはいかない。……日本が果たすべき役割は、米中双方に自制を求め、武力紛争を回避するための外交努力にほかならない〉
▽毎日 〈首相自らが、隣り合う中国が外交的、経済的に重要な国だというメッセージを送るべきだろう。人権や法の支配、貿易ルールが大事だと訴えるのは重要だ。それは中国と共存するためであり、排除を目的とすべきではない。中国と協力できる領域を広げることも必要だ〉
東京は、もう1本の社説「米中との間合いを測れ」で、〈米中は互いが国内世論を意識して激しい言葉をぶつけ合っている。これでは外交上の選択肢が狭まり、衝突軌道を突き進むだけではないか。強い危惧を覚える。求められるのは自制と理性である〉として、〈米中が意思疎通を積み重ねるような環境づくりに日本が貢献できる余地はあるはずだ〉と指摘している。
中国を警戒し、「誤り」を正すべきなのは言うまでもない。それでも、勇ましく対峙するだけで済まない。例えば台湾については、日本も米国も、基本的に「一つの中国」を認めてきた。1国2制度のような形の統一は、当面は現実性が皆無だとはいえ、長い年月をかけてどう実現していくか、息長い取り組みが必要になる。
〈自らの主体的な戦略を描いたうえで……対立をエスカレートさせないことを最優先に取り組むべきだ〉(朝日)
〈日米合意を実のあるものにするため、日本の主体的な貢献がますます重要になる〉(日経)
米中の狭間で、どんな「主体性」を発揮すべきか。重苦しいが、避けて通れない課題だ。