前日に開いていた後援会主催の夕食会の費用の一部を、安倍氏側が負担していた疑いがあるとして、東京地検特捜部が安倍氏の安倍後援会代表を務める公設第一秘書らを聴取していたことが発覚し、安倍氏側が一定額を補填していたことを認めているというのだ。
新聞の報道も一気にヒートアップしている。
「桜を見る会」を巡っては、反社会勢力などが招待客に含まれていたことなどが指摘されていたが、一気に社会の注目を集めるようになったのは、1年前の2019年11月8日、参院予算委で、共産党の田村智子氏が、安倍後援会の親睦に桜を見る会を利用しているなどと質問したのがきっかけ。
この後、安倍事務所が「ツアー案内」として「桜を見る会」参加者を募っていたこと、さらに「前夜祭」として850人規模のパーティーをホテルニューオータニで開催しながら政治資金収支報告書に一切記載がないこと、パーティー参加者から集めた会費が5000円のみで足りない差額を安倍氏側が補填していたのではないか――など疑惑が膨らみ、参加者名簿の廃棄など政権の対応にも批判が広がった。
この中で、今回問題になっているのが、前夜祭の費用負担だ。安倍氏の政治資金収支報告書には、この関係の記載が1円もないが、安倍氏側が差額を補填していたなら政治資金規正法違反になる可能性がある。あるいは、補填分は参加者への「寄付」ということになれば、地元の有権者だから、公選法違反に該当する可能性もある。
安部氏は首相在任時の国会答弁で、「安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡した」「収入、支出は一切なく、政治資金収支報告書への記載は必要ない」「安倍事務所が補填した事実は全くない」などと繰り返し、一切の疑惑を否定してきた。この答弁が虚偽だった疑いが濃厚になってきたのだ。
大手紙も、この問題を報じているが、今回は読売のスクープで報道合戦が始まった。連休最終日の11月23日

11月23日朝刊1面
ただ、扱いは各紙のスタンスを反映している。何より驚くのは、特ダネで真っ先に報じた読売が1面左肩3段見出しと、抑え目な扱いだったこと。24日の紙面は朝日、毎日は1面トップ、東京は1面左肩3段、産経は社会面右側左肩3段活字見出しと、大きく差がついた。
その後の扱いも傾向は変わらない。読売は24日朝刊でも1面左肩3段で「800万円補填か/『桜』前

11月24日朝刊1面
極めつけは26日朝刊で、「安倍氏側、記載方法照会/13年 補填巡り総務省に」と、特ダネを載せたが、扱いは1面の下の方で3段活字見出しに〝格下げ〟した。総務省に問い合わせていたということは、安倍事務所が法律に抵触することを知りながら、収支報告書に記載しなかったという「犯意」を裏付ける重要な事実だけに、扱いの冷たさが際立つ。ネタをとってきた記者はさぞかし悔しいだろうと同情したくなる。

11月24日朝刊1面
この間、朝日、毎日、東京は連日、朝刊1面トップまたは2番手(左肩)で報じ、朝日が25日朝刊1面で「5年で916万円補填」と、細かい金額を書いて一矢報いたほか、関連記事として「安倍前首相 揺らぐ答弁/多額の原資 解明不可欠」(毎日25日3面上半分)、「安倍答弁 矛盾あらわ」(朝日25日2面左半分)、「安倍前首相 解明果たさず」(東京25日2面左半分)など大きく紙面展開し、国会で安倍氏がどういう答弁をしてきて、何が問題かなどを詳しく報道。
読売と産経は、紙面展開としては他紙にやや見劣りするが、25日の衆参予算委の質疑を受け、菅義偉政権への影響を中心に解説。読売が26日3面で「『桜』再燃 政権に痛手/野党追及 解散戦略に影響も」、産経も26日5面(政治面)で「秋に『桜』首相の鬼門再燃」と大振りの記事を載せている。
ただ、安倍氏、菅政権に真相解明などを強く迫るというよりは、国会のやり取りを中心に、安倍政権の大番頭(官房長官)だった菅首相への波及を懸念する書きぶりだ。社説(産経は「主張」)では26日までに読売を除いて取り上げた。
朝日、毎日、東京は3日間のうちにそれぞれ2回掲載し、〈時の首相が国会などで、国民にウソをつき続けたことになる。立法府の行政監視機能をないがしろにし、政治への信頼を揺るがす由々しき事態だ〉(朝日25日
)、〈虚偽答弁は、立法府を愚弄(ぐろう)するものだ。国会は安倍氏に説明を求め、真相を解明すべきだ〉(毎日26日)、〈激しい憤りを禁じ得ない。国会はいつから「虚偽答弁」がこれほどまかり通るような場に堕落したのか〉(東京26日)など、安倍氏を厳しく断罪している。
安部氏の説明責任はもちろん、国会の場での虚偽答弁の疑いだけに、国会での解明の必要も強調。
〈首相として行った国会答弁は重い。それとの矛盾が生じた以上、国会で改めて説明すべきだ。やましいことはないというのならば、政治倫理審査会の開催を求める方法もある〉、(毎日25日)
〈国会は放置せず、行政監視機能や国政調査権を駆使して事実関係を徹底解明すべきだ。安倍氏には国会で説明責任を果たすよう求めるべきであり、虚偽答弁をすれば罰せられる証人として喚問してはどうか。……国権の最高機関である国会の存在意義を脅かす重大事態であるとの問題意識を、与党を含む全国会議員が持つべきである〉(東京26日)
安倍氏側、安倍氏周辺が「秘書が首相に虚偽の説明をしていた」と釈明しているとされることについても、
〈そうだとしても、重要な事実関係を詰めきることなく鵜呑(うの)みにした安倍氏の責任は重い〉(朝日25日)、〈(安倍氏は)仮に補塡を知らなかったとしても、政治への信頼を損ねた責任は免れない。政治家として「秘書の責任」では済まされず、国会で自ら説明しなければならない〉(毎日26日)、
〈仮に知らなかったとしても、野党が「ホテル側などに確認を」などと求めていたのだから、前首相側はいくらでも事態を把握できたはずである。どちらであっても議会や国民への背信行為には違いなかろう〉(東京25日)など、厳しく批判している。
25日の国会でこの問題を追及された菅首相について朝日は、〈人ごとのような答弁に終始した。……立法府と行政府の信頼関係にかかわる重大事だという問題意識は少しも感じられない。前政権で官房長官だった菅氏は、……結果的にしろ、自らもウソを語ったことへの反省や忸怩(じくじ)たる思いはないのか〉(26日)と指摘した。
東京は「『桜』疑惑で聴取 検察の独立を示すとき」(25日)と題して、黒川検事長問題にも触れ、〈検察が独立していないと政治権力へのチェックはできない。「桜」の疑惑解明は、検察の独立と良心を示す機会でもある〉(東京25日)と、検察にエールを送った。
産経は一般記事の扱いは抑え気味だが、26日主張で安倍氏に対し、〈政治家には説明責任がある。……自ら進んで経緯をつまびらかにすべきだろう〉と求めた。
実は産経は1年前、問題が発覚した当時の2019年11月15日、24日の「主張」で会自体の招待者の選考の不明朗さなどは批判したものの、〈野党も、国会の使命を放棄していると言わざるを得ない〉(24日)など、この問題の幕引きを求めると言わんばかりの論調を掲げ、主要紙で唯一、前夜祭に「主張」で一言も触れなかった。
今回、1年遅れでやっと、前夜祭問題を正面から論じ、説明責任を指摘したことになる。
今回の「主張」では、安倍氏の国会招致に消極的な菅首相についても〈疑惑の構図は単純である。特捜部の捜査を待たずとも、事務所の内部調査で十分に事足りる。調査の不十分がこの事態を招いたとの反省があるなら、正確で詳細な内部調査結果を自ら公にし、謝るべきは謝ればいい〉と、安倍政権、菅政権支持の論陣を張ってきた産経としては厳しい書きぶりだ。
産経はさらに、〈政治とカネをめぐるさまざまな事件で、「秘書が」「秘書が」と繰り返す政治家の情けない姿をみてきた。安倍氏には前首相として、そうした過去の醜態とは一線を画す潔い姿をみせてほしい〉と書いて〆た。武士道の勧めなのかは定かではないが、安倍氏を支持してきた保守勢力の、この問題への苛立ちの一端を映している表現かもしれない。