第49回衆院選は、自民が単独で「絶対安定多数」を確保する一方、野党第1党の立憲民主は議席を減らし、日本維新の会が第3党に躍進した。事前の予想を裏切る結果を、大手紙各紙はどう報じたか。
自民は261議席と、公示前から15議席減らしたものの、衆院の常任委員長ポストを独占したうえで各委員会の過半数を押さえる絶対安定多数の議席を、単独でぴったり確保した。公明党も公示前から3議席増の32議席で、与党は計293議席となった。
岸田文雄首相は11月1日午後記者会見し、「引き続き自公政権の安定した政治のもとで、この国の未来を作り上げていってほしいという民意が示されたことを、身が引き締まる思いで受け止めている」と述べた。
一方の野党は、立民、共産など5党が289小選挙区の7割以上となる213選挙区で候補者を一本化し、132選挙区で事実上の与野党一騎打ちの構図にしたが、立民57議席、国民民主6議席、共産、社民各1議席の当選にとどまった。
比例でも野党全体では振るわず、選挙区・比例を合わせ、中心となった立民が96議席(公示前比14減)、共産が10議席(2減)と後退。国民11議席(3増)、れいわ新選組は比例で3議席を獲得した。
躍進した維新は他の野党と一線を画し、「是々非々」を掲げる「準与党」の立ち位置だが、選挙では岸田政権批判を強め、地盤の大阪の小選挙区で全立候補者が当選したほか、全国の比例でも次々に当選を出し、公示前の11議席から41議席へと4倍近くに伸ばし、公明も抜いた。
投開票から一夜明けた1日朝刊で、この結果を、各紙、どう報じ、評価したか。
各紙、締め切り時間を大幅に繰り下げたが、全議席確定は未明にずれ込み、10~20議席程度は未確定の段階で、自民の獲得議席は最も多い読売が259議席、少ない毎日が254議席で、絶対安定多数の261議席が未確定ということになった。
各紙の主な1面見出しに、基本的な評価も反映している。
読売「自民単独過半数/立民惨敗 議席減/維新躍進 第3党に」
朝日「自民伸びず 過半数は維持/立憲後退 共闘生かせず/維新3倍増」
毎日「自民堅調 安定多数/立憲伸びず 維新躍進」
産経「自民単独で安定多数/立民『共闘』失敗 維新は躍進/会見勢力3分の2超」
東京「自民単独過半数/野党共闘振るわず立民減/維新3倍超 第3党」
日経「自民、単独で安定多数/立民は議席減、共闘不発/維新躍進、第3党」
このほか、甘利明自民党幹事長の選挙区での落選(比例で復活当選)など、今回の特徴の一つだった大物の落選も、各紙、ほぼそろってメイン記事と別に見出しをとって報じた。
読売が「安定多数」を見出しに取らなかったのは、261にわずかに届いていなかったからだろうが、慎重さが目を引く。朝日がやっと過半数を獲得したかのような見出しで、冷ややかさが際立った。
議席確定後の夕刊では毎日が「大敗立憲 枝野氏に責任論」と、立憲の敗北をより明確化。他紙を含め、「福山氏辞任を検討」(日経)など、立民内の責任論に触れる記事が各紙に目立った。甘利氏の辞意は朝刊段階で報じられていて、夕刊では後任を含め首相の対応は未定のため、報道は少なかった。
朝刊は多くの社が政治部長などの「論文」(囲み記事)を掲載した。
例えば、安倍晋三政権、菅義偉政権に批判的だった朝日は、坂尻ゼネラルエディター兼東京編集局長が〈新政権へのご祝儀とまではいかなかった〉として、森友学園に絡む公文書改ざんの再調査の前言撤回や選択的夫婦別姓やLGBT(性的マイノリティ)など多様性について選挙戦の中で岸田首相だけが法案への賛成に手を上げなかったことなどを列記し、〈忖度がともなう「聞く力」は、強みにならない〉とくぎを刺している。
毎日は中田政治部長が「勝者なし」が民意だったと分析。与党多数の結果が〈戦術は奏功したものの、各地で守りの選挙を強いられ、風は吹かなかった〉とする一方、野党の共闘にも〈選挙のための数合わせという批判は常につきまとう〉とし、維新の躍進が〈与野党どちらにも共感できない有権者が少なくなかった〉と指摘している。
一方、自民党政権を支持してきた読売も、与党の勝利を手放しで評価するわけではない。村尾政治部長は〈岸田首相にとって、……ほろ苦さを伴う結果となった〉として、議席減、甘利氏落選などが〈新型コロナウイルス対策への不満や長期政権のおごりが影響したのだろう。謙虚に受け止めて、これまで以上に「丁寧で寛容な政治」を心がけてほしい〉と求めている。
社説は、岸田首相の政治姿勢、特に「信頼と共感に基づいて丁寧で寛容な政治」をどう進めるかを重視したものが多い。
朝日は自民議席減、甘利氏落選を〈首相や与党は重く受け止める必要がある。「1強」体制に歯止めをかけ、政治に緊張感を求める民意の表れとみるべきだ〉など辛口の指摘。〈首相が掲げる「丁寧で寛容な政治」の真価が問われるのは、これからである〉と強調し、特に国会の機能不全について、〈これまで首相官邸に追従し、内部から自浄作用を発揮できなかった与党議員は自らを省み、進んで「言論の府」の再生に尽くすべきだ〉と求めている。
毎日も議席減や甘利氏落選について〈9年間に及ぶ自民党政治に対する国民の不満も表れた〉と厳しく指摘。首相が「信頼と共感」を訴えたことを挙げ、〈そうであるならば、安倍・菅政治の問題点を率直に認め、脱却することから始めなければならない。謙虚で丁寧な政権運営が求められる〉と強調している。
東京は朝日など以上に政権に厳しく、〈(甘利氏落選は)権力の私物化が指摘された「安倍・菅」政治を清算しようとしない岸田政権に、有権者が不信感を募らせたからにほかならない〉、与党勝利も〈有権者は岸田政権に信頼を置いたわけではなく、首相のお手並み拝見という結果に過ぎないと、政権は受け止めた方がよい〉、森友、加計、桜を見る会などについて〈前政権の「負の遺産」を清算しようとしないことで募る有権者の不信を直視せねばなるまい〉など、何本もくぎを刺す格好になっている。
ふだんは政権支持の読売も冒頭、〈長期政権の緩みに反省を求め、緊張感のある政治を期待したい。それが今回示された民意であろう〉と、あれだけ支持してきた長期政権に問題があったとの認識で書き出した。〈「1強」の驕りに対する批判もあった〉とも書く。ただし、「緩み」「驕り」の具体的中身には踏み込まない。コロナ対策で後手に回ったことを指摘する程度で、森友、加計、桜を見る会、国会審議の形骸化、与党や官僚の官邸への忖度などに言及はない。この9年間の反省を踏まえ岸田首相が掲げた「丁寧」「寛容」といった政治姿勢にも触れていない。
産経の「主張」(社説に相当)は、自民の議席減、甘利氏落選について〈結果を真摯に受け止めなければならない。国会で丁寧な議論を重ねていくべきだ〉とさらりと触れるが、これまでの9年間の評価、総括はなく、政策課題、特に安保、なかでも「対中抑止」への取り組みを強く迫るほか、躍進した維新に〈憲法改正論議をリード〉するよう求めるというように、産経カラーの主張を打ち出している。
野党共闘については、朝日が〈「野党共闘」の効果は限定的だった〉としたうえで、〈立憲は来夏の参院選に向け、共産党などとの協力の効果を選挙区ごとに徹底して検証するとともに、自公に代わる政策の選択肢の肉付けに地道な努力を続けねばならない〉と、慎重な分析の必要性を指摘。
一方、読売は〈野党は、共闘に一定の効果があったとしているものの、立民は公示前の議席数を下回った。立民は「現実的外交」を掲げるが、日米安保条約廃棄を主張する共産と連携して、どのような政権を目指すのか。それが不明確だったのが敗北の要因だろう〉と、共闘が失敗だったと断じ、自民党からの野合批判に沿う見方を示している。
投開票当日に制作した紙面は、分析の深さには自ずと限界がある。今回、自民発・立民行きとなるはずの票が維新に途中下車して大方の予想を覆す結果になったが、11月2日以降の紙面でも様々に論じられるだろう。
甘利氏の後任に内定した茂木敏充新幹事長がどのような党運営、野党との関係構築を進めるか、また、立民が執行部の責任も含めた選挙総括の論議がどう進め、どのような体制を組んでいくのか。
与野党ともまだ先行きは不透明だが、「聞く耳」を持つ政権の下で、極限まで劣化していた国会の論議を少しでも正常に戻すという重い重い責任が、新しい国会に課されていることだけは、間違いない。
読売も「『1強』の驕りに批判」、野党共闘は失敗と断罪 |
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【論調比較・自民が絶対多数】朝毎東は甘利氏落選など自民に辛口
公開日:
(政治)
Reuters
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧
大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易 業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。東 京農業大学応用生物科学部非常勤講師。元立教大学経済学部非常勤講師。著書に 『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大 課題』(中経出版=共著)。 |
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