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朝日、毎日、東京、日経 同性婚差別発言に政権の姿勢問う

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【論調比較・荒井秘書官の発言】LGBT法案、産経が自民内難航を予想

公開日: 2023/02/07 (政治)

岸田首相所信表明演説2023年1月=官邸HP 岸田首相所信表明演説2023年1月=官邸HP

岸井 雄作 (ジャーナリスト)

 LGBTQなど性的少数者や同性婚について岸田文雄政権中枢から飛び出した差別発言の波紋が広がっている。岸田首相は問題の発言をした荒井勝喜秘書官を急ぎ更迭したが、「先進国水準」に達していない日本の「後進性」を内外に印象付けた。政権の政策スタンスが国際的にも問われる事態に発展する気配だ。

 大手紙は朝日、毎日、東京、日経が発言の問題性、さらに岸田政権の性的少数者に対する政策スタンスも問う一方、読売、産経はもっぱら政治的な影響などの報道に終始し、多様性を正面から論じるのを避けている印象だ。

 荒井氏の発言(その後の釈明を含む)はネットニュースなどでも詳報されている(例え
ば毎日新聞=Yahooニュース)。

 確認しておくと、2月3日夜、首相官邸で、1日の衆院予算委員会での岸田首相の答弁の「背景説明」という形で、録音・録画なしで、その場にいた記者たちの質問に「オフレコ(オフ・ザ・レコード)」で答えた。

 岸田首相は、同性婚の法制化について「社会が変わっていく、こういった問題でもあります。すべての国民にとっても家族観や価値観、社会が変わってしまう課題であります」と、法制化に否定的な姿勢を鮮明にした。

 首相答弁に関する荒井氏の発言で問題になったのは「社会が変わる。社会に与える影響が大きい」「マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などだ。このうち「顔をみるのも嫌だ」については「そういうふうには言っていない」と、荒井氏は否定している。

 オフレコ発言は、報道する場合も匿名で行うのがルールになっており、首相秘書官の場合、報じられる場合でも「首相周辺」となる。ちなみに、官房長官のオフレコ発言は「政府首脳」とするのが慣例だ。

 今回、毎日新聞が真っ先に報じた。取材した記者の報告を受け、編集局が「差別的な内容であり、岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だ」と判断。

 新井氏に「実名で報道する」と通告して、3日午後11時前、ネットニュースに流した。これを受けて荒井氏は11時半ごろに再度取材に応じ、他紙やテレビなども報じるところとなった。2回目の取材は実名報道が前提の「オンレコ(オン・ザ・レコード)」だった。

 毎日新聞は自社の判断と対応の経緯を5日朝刊5面で詳報した。毎日が発言を実名で報じたことを評価する声が多いという。

 更迭に至る各紙の報道ぶりは大きく異なる。

 2月4日朝刊の「第一報」は、朝日が対社面(見開きの右側ページ)4段見出し、毎日が社会面左肩3段見出しで報じ、毎日は「進退が問われかねない」として首相の任命責任にも言及した。読売は4面(政治面)の一番下2段見出しで本文は26行、事実関係を簡単に書いただけ。産経は1行も報じなかった。

 4日朝に岸田首相が更迭の考えを表明し、夕刊は各紙、1面で大きく「更迭へ」と報道。更迭を受けた5日朝刊は朝日、読売が1面トップ、毎日は日曜の1面トップは3面を連動した大型の読み物に決まっているため、1面左肩だが、実質トップの扱い。

 産経、東京は左肩2番手で伝えた。各紙とも2面や3面などで大ぶりの解説記事を掲載したが、報道内容、トーンに差が出た。

 朝日は荒井氏の差別発言が岸田首相の国会答弁について説明する中でのものだっただけに、1面記事にも「首相の人権意識に疑問も」との見出しを取った。

 東京は2面の半分以上を割き、「同性婚否定の首相 矢面」との大きな見出しを載せ、荒井氏が「社会の在り方は変わるでしょうね」と、首相の答弁に足並みをそろえた直後に「隣に住むのは嫌」などの差別発言が出たことを指摘し、「首相答弁の正しさを説明しようとする中で、口を突いて出た『暴言』だ」と解説した。

 朝日、毎日、東京は「官邸内の人権感覚も問われる」(泉健太・立憲民主党代表)など野党からの批判も詳しく報じたほか、社会面でも、LGBTQ当事者、関係団体からの批判の声なども大きく扱い、発言内容のどこが問題なのか、丁寧に書いた。

 一方、政権寄りの読売は3面「スキャナー」で解説。今回の発言が「弁解したり、擁護したりする余地の全くないひどい内容」との首相周辺の声とともに、3日深夜に更迭の方向が決まったなど、政権の対応の素早さを伝えた。

 さらに、旧統一教会との関係など昨年来の4閣僚更迭などによる打撃からの立て直しの機運に水をさされ、自民党内からも首相に不満の声が出ていることなど、政局絡みの書きぶりに終始している。

 同じく産経も、3面に大ぶりの解説記事を載せたが、「政権浮揚に打撃/目玉の子供政策 出鼻くじかれ」と見出しで謳い、政権運営への影響を中心に書いた。

 社説(産経は「主張」)は5日に朝日、毎日、産経が更迭を受け即日掲載、読売、東京、日経も7日に取り上げた。

 朝日は「『包摂社会』は口だけか」、毎日は「露呈した政権の人権感覚」、東京が「差別解消、法整備で示せ」、日経も「政権の信頼揺るがす差別発言」と、それぞれ題し、岸田首相の国会での同性婚への極めて否定的な発言が「発端」だったなどとして、単なる個人の問題発言ではなく、岸田政権の基本姿勢に疑念を向ける。

 〈首相は就任当初から、「多様性のある包摂社会」を掲げながら、内実が伴わずにきた。……首相はきのう朝、荒井氏の発言は「政権の方針と全く相いれない。言語道断だ」と述べ、早々に更迭を決めた。しかし、自身の先日の衆院予算委員会での答弁が伏線になったことを忘れてはならない〉(朝日)
 〈「多様性を認め合う社会を目指す」との政権の姿勢は、口先だけだったと言われても仕方がない。……(首相答弁は)国民の不安感をあおるような発言である。当事者への配慮も欠いている〉(毎日)
 〈首相は人事で幕引きを図ろうとしたのだろうが、問われているのは首相自身の人権意識だ。多様性を尊重するというなら、差別解消に向けた法整備にこそ指導力を発揮すべきではないか〉(東京)
 〈古い固定的な家族観は同性カップルのみならず、多くの人の生きづらさの要因になっている。大事なのは、現実を直視し、今後どんな取り組みが必要か、政府や国会などで幅広く議論することだ。……問われているのは政権の人権感覚だ〉(日経)

 朝日と毎日は世論調査でも同性婚容認が反対を上回っていることも指摘。東京は、国レベルで同性婚やパートナーシップ制度を整備していないのは先進7カ国(G7)で日本だけであることを指摘し、〈同性婚法制化で国を捨てる人の行く先はG7には存在しない。法制化で「社会が変わってしまう」との認識こそ変える必要がある〉と皮肉交じりに書いた。

 朝日と日経は、性的少数者差別やジェンダー平等を否定する言動を繰り返していた杉田水脈衆院議員を総務省政務官に起用し、その更迭が遅れたことにも触れ〈政権や自民党は当初かばう姿勢を見せ、対応は後手に回った〉(日経)などと批判している。

 これに対し、読売は「重責を担う自覚を欠いていた」とのタイトルでもわかるように、〈重責を考えれば、荒井氏の発言は、個人の印象を語っただけ、ではすまなくなる〉など、もっぱら荒井氏個人の問題点を強調した書きぶり。

 同性婚自体については〈海外では、同性婚を認める国が増えているという。……だからといって、「日本が遅れている」という言説には違和感を覚える。

 各国にはそれぞれ歴史や文化の違いがある。それを認め合うのも、多様性の尊重だろう。社会の意識や時代の変化を踏まえつつ、冷静に、また慎重に議論を進めるべき問題だ〉と、自民党右派(保守派)寄りの主張を展開している。

 産経は「緊張感の欠如が目に余る」と題し、〈荒井氏の発言は、ただただ対立感情を深めるだけで、冷静な議論の妨げとしかならない〉と、批判しつつ、同性婚に後ろ向きな首相の答弁については〈この認識は正しい。同性婚制度の問題は一朝一夕に結論が出るものではなく、慎重に議論を重ねることが重要である〉と、従来からの反同性婚の立場から首相を擁護。

 その論拠に〈憲法第24条は、「婚姻は両性の合意のみに基づき成立する」と定めている。これは明らかに異性婚について定めたものと解釈するのが自然だ〉との憲法解釈を大上段に掲げた。

 この論を読んで、思い出したのはジャガイモだ。南米原産で、15世紀末~16世紀、大航海時代
にヨーロッパに伝えられ、やがて17~18世紀、「30年戦争」などで荒廃したドイツをはじめ、各国で国民を飢餓から救い、現代でも「世界の四大作物」の一つに数えられるが、当初は「悪魔の植物」とされていた。

 聖書に書かれていないからという話だ。憲法に「同性」と書いてないからダメという論が、聖書とジャガイモに重なって見える。解釈改憲で集団安保をも認めるのと同じ口が……と、突っ込みを入れたくなるところだ。

 また、読売は毎日がオフレコ発言を記事化したことについて〈本人に伝えれば、オフレコも一方的に「オン」にして構わないというなら、オフレコの意味がなくなる。取材される側が口をつぐんでしまえば、情報の入手は困難になり、かえって国民の知る権利を阻害することになりかねない〉と批判した。

 こういう形で取り上げたのは読売だけだが、こうした問題は過去にもあり、具体的な発言内容、発言者の地位・立場などケース・バイ・ケースでメディアも対応を判断してきた。ひどい発言でも表に出なかった話は数限りないはずだ。

 今回の問題を具体的に論じず、一般論としてオフレコは守れとだけ言う読売の主張は、ジャーナリズムの世界にいる立場の主張としては暴論のそしりは免れないだろう。

 発言をきっかけに、「LGBT理解増進法案」の話が、ここにきて急浮上している。LGBTの人たちへの理解を促進しようという法律で、同性婚を認めるどころか、「差別禁止法」でもない緩いものだ。

 それでも、東京五輪を前に、世界の目を気にして制定機運が高まり、2021年5月、一度は超党派の議員連盟が合意したものの、法の目的に「差別は許されない」と明記することなどに対し、自民党内右派が猛反対し、国会に提出できないままになっている、いわくつきの法案だ。

 自民党の茂木敏充幹事長、遠藤利明総務会長、萩生田光一政調会長が6日午後に協議し、LGBT理解増進法案について、首相の指示を受け、前向きに進めていく方向で一致し、茂木幹事長は「(法案)提出に向けた準備を進めていきたい」と明言した。

 公明党の山口那津男代表も5日、同法案について「自民党が(法案成立に向けた議論に)応じてこない」と批判。「今回のことを契機に、国民の理解を広げる動きをつくるべきだ」と語っていた。

 政権や与党の意向をよく知る政治ジャーナリストの田﨑史郎氏は6日のTBSテレビ「ひるおび」で、岸田政権が事態を打開するために、同法案を今国会で成立させるしかないとの見立てを披露し、「自民党の保守系の人を説得しないといけない。今週中に首相が保守系の人に会うだろう」と述べている。

 秘書官のトンデモ発言が、懸案の法案を前進させるとしたら、瓢箪から駒か、棚から牡丹餅か、怪我の功名か、とにかく、それ自体は結構なことではある。

 ただし、右派を説得ができる保証はない。産経は2月7日3面で大きく取り上げ、自民党内の異論で国会提出が見送られた経緯を改めて指摘し、〈(自民党内で)法案を再び議論する際は(「差別は許されない」などの)書きぶりなどを巡り、紛糾する可能性もある〉と牽制している。

 そもそもこの法案は、同性婚はもちろん、LGBTQの人たちの権利を守るという意味でも、その入り口の何歩も手前でしかない。多様性を認める社会への道のりは、なお遠いことを忘れてはいけない。
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。東京農業大学応用生物科学部非常勤講師。元立教大学経済学部非常勤講師。著書に『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大課題』(中経出版=共著)。
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