コロナ感染急拡大の中で2021年を迎えた。衆院の任期が10月に迫り、総選挙がいずれかの時点で行われる「政治決戦」の年だ。
早々と総選挙の獲得議席予測をするところも含め、主要週刊誌は新年号で、一斉に政局を展望する記事を掲載したが、菅義偉政権の短命論が見出しに踊った。年末年始にコロナ対策の不手際を指摘されていることを踏まえても、かつてない厳しい論調のオンパレードとなった。
まず、主要6誌の見出しを並べてみよう。
サンデー毎日(1月17日号)=政治記者匿名座談会 菅政権は負のスパイラルに入った/春解散総選挙 自民10減 野党13増
週刊朝日(1月15日号)=2021年はこうなる 「ポスト菅」抗争が本格化 本命・岸田、対抗・河野、西村、大穴は…
週刊現代(1月9・16日合併号)=2021年日本の大問題 次の首相は誰か
週刊新潮(12月31日・1月7日新年特大号)=「菅総理」を引っ張り回す!「二階俊博」面妖なるドンの正体 連載第1回
週刊文春(12月31日・1月7日合併号)=深層レポート 菅〝孤立の官邸〟
週刊ポスト(1月15・22日合併号)=さらば菅総理 総選挙465議席完全予測 自民40議席減の惨敗で退陣へ
二階自民党幹事長に焦点を当てた連載を始めた新潮を除き、菅政権の先行きの厳しさを書いている。
週刊現代は評論家、学者、ジャーナリスト22人へのアンケートで、菅政権がいつまで続くかについて、9月、10月まで(総裁任期または解散まで)が約半分を占め、最短で3、4月までとの答えも6人という結果。
オリンピック成功、解散、選挙勝利、総裁無投票再選が菅首相のベストシナリオであり、〈オリンピックを開催できるか否かが菅政権にとって最重要課題になる〉としたうえで、秋口の解散の可能性が高いものの春の可能性もあるとし、菅首相で与党が勝てるかについて、〈政局のプロたる政治部記者たちの見解は「勝てない」でほぼ一致している〉と書く。
週刊朝日は新年を占う特集の1コマとして政局を解説。支持率が30%を切れば、政権支持に赤信号がともり、3月末の予算成立と引き換えに退陣表明もあり得るとの政治評論家の見立てを載せ、さらに金銭疑惑で吉川貴盛・元農相が辞職したのを受けた4月25日の衆院補欠選挙で惨敗すれば、与党内で〈菅おろしが始まりかねない〉と指摘している。
サンデー毎日は総選挙予測(後述)とは別建ての政治記者座談会で菅首相、菅政権について〈意外に相談できる人がいないかな。秘書官らも……「イエスマン」ばかり〉〈(国民に)不安を鎮めるようなメッセージを出せていない〉
〈なにをやっても「なぜもっと早くやらない」「足りない」となる。菅政権は負のスパイラルに入ったと思う〉などとする一方、リーマン・ショックの対策に追われ、任期満了ぎりぎりの解散で惨敗して下野した麻生政権と比較し、〈野党が弱すぎる。菅さんは、支持率が上がるような対策が打て、国民に強いメッセージを出せるかだ〉と、今後の対応を注視する見方も報じている。
週刊ポストは総選挙自民惨敗の予測(後述)を踏まえて、〈菅政権の命運は尽きかけている〉と結論づける。
週刊文春はタイトルからも、今後を展望するというより、現状を分析した記事。首相を支える二本柱である二階幹事長と公明党との関係が、Go To見直しなどでがギクシャクするなか、ワクチンの2月接種開始に躍起――という官邸の風景を描き出し、〈自信を喪失し、周囲との溝も深まる首相に、総合的・俯瞰的な政策判断は可能なのか〉と、先行きを危ぶんでいる。
では、週刊ポストとサンデー毎日の総選挙の予測みてみよう。
週刊ポストは時期について、予測に協力した政治ジャーナリストの野上忠興氏の〈オリンピックで支持率を盛り返したうえで……9月解散・総選挙に望みを託すシナリオでしょう〉との見方をメインに見たうえで情勢分析。「1区現象」、つまり無党派層が自民批判に動き各都道府県の1区でドミノ的に野党に議席を奪われることが起こりえると指摘。そのうえで、予想獲得議席を、自民242(229~255)、公明28、立件民主37(126~148)、共産17、維新21、国民10などとして、自民党が現有282から40議席減らし、最悪の場合、単独過半数233を自民だけでは下回る可能性もあるとした。
サンデー毎日は3~4月の「春解散」を前提に選挙プランナーの三浦博史氏が予測したもので、週刊ポストとは逆に、10議席減の272議席(与党では8議席減)を確保し、自民単独での過半数はもちろん、全委員会で多数をとれる絶対安定多数(261)も維持。ただし、与党では303議席と、憲法発議に必要な3分の2(310)は割り込むと指摘。三浦氏は、内閣支持率は落ちても、「政権交代を望む人は少ないでしょう」と、選挙では与党が地力を見せると分析している。
総選挙の見通しが厳しいということで、菅首相の後継は誰かにも、各誌、書き進んでいる。
週刊現代は〈菅政権の支持率急落で、永田町では新年早々から政局の突風が吹き始めている。……「菅政権の次」を意識した大物たちの動きが活発化しているのだ〉として、ポスト菅の候補として、河野太郎行革相、岸田文雄前自民党政調会長を挙げた人が多く、自民の支持率が低迷した場合のサプライズとして、野田聖子幹事長代行、石破茂元幹事長の可能性を指摘する声も紹介している。
週刊朝日は岸田氏が有力とし、河野氏、西村氏らへの世代交代、さらに大穴としての野田氏を挙げるのは週刊現代と同じだが、安倍晋三前首相復活の「ウルトラC」の道は残されているとして、安倍氏が議員辞職、総選挙で返り咲き、禊(みそぎ)は済んだとして「再々登板の待望論ももう一度、盛り上がるはずだ」との自民党幹部のコメントを紹介している。
サンデー毎日の記者座談会は、〈基本は「菅―二階vs安倍―麻生」という大きな構図がある。岸田さんは安倍―麻生に指示されることを狙っている〉〈(二階氏は)自分が幹事長にいられるなら、何でもあり。野田さんも石破さんもあり〉といった見方を示している。
週刊ポストは、あり得るシナリオとして〈予算成立後、東京五輪の開催断念など大きな方針転換をした段階で菅首相が退陣表明する可能性は少なくない〉と分析している。その場合は新総裁の下での解散・総選挙になり、状況は一変する。
週刊誌は、新聞に比べ幅広さ、バランス感覚を欠く一方で建前をすっ飛ばした「本音」で読ませる。やや強引な結論ありきの書きぶりも、あえて逆張りで読ませようという記事も見受けられるが、国民の間の「空気」を敏感に反映する部分は間違いなくある。
菅首相への厳しい書きぶりが、まさに今の空気を映しているとすれば、ここから盛り返すのは、容易ではないだろう。
週刊誌新年号 菅政権短命論あふれる |
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【論調比較・週刊誌】国民の空気を反映か
公開日:
(政治)
Reuters
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。東京農業大学応用生物科学部非常勤講師。元立教大学経済学部非常勤講師。著書に『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大課題』(中経出版=共著)。
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