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菅政権 日豪で「無用」の軍事同盟結ぶ

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【軍事の展望台】これは軍事同盟の先例になる 危機感なき日本人

公開日: 2020/12/02 (政治)

日豪首脳会談=Reuters 日豪首脳会談=Reuters

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 「アジア版NATOはアジア敵味方を作ってしまい、反中包囲網にならざるをえない。戦略的な外交のあり方や、国益の観点から正しくない」、自民党総裁選挙を前に9月12日に日本記者クラブで開かれた公開討論会で菅義偉官房長官はこう述べた。

 同月16日首相に就任した菅氏は25日に習近平中国主席と電話会談し「首脳間を含むハイレベルで2国間および地域、国際社会の諸問題について緊密に連携して行く」ことで合意した。

 ところが11月17日オーストラリアのスコット・モリソン首相が来日、菅首相との首脳会談で自衛隊と豪州軍の協力強化の重要性を確認し、相互に訪問して行う共同訓練や演習のための法的地位の明確化、その際の刑事裁判や、部隊運用などに関する「日豪円滑化協定」(地位協定)締結で合意し、早期署名に向け作業を加速させることになった。

 これに先立ち10月19日来日したリンダ・レイノルズ豪国防大臣と、岸信彦防衛大臣の会談で、自衛隊が豪州軍の艦艇や航空機を守る「武器等防護」を行うための調整を始めることを合意している。これと今回合意した部隊の相互訪問、共同演習、運用の連携を重ねると事実上の同盟関係となる。

 第二次世界大戦後は戦勝国の米国、ソ連などの軍が同盟国に基地を獲得したので、同盟関係と部隊の駐留は一体のように思われがちだ。だが本来は同盟国に部隊を常駐させることは稀だった。

 日英同盟も日、独、伊の3国同盟も他国軍の駐留を伴っていなかった。今日でも米軍がほとんど駐留していない米国の同盟国は少なくない。

 豪州軍が日本に常駐したり、自衛隊が豪州に長期駐留しない点では日米同盟とは異なるが、米軍に対すると同様、豪州軍の艦艇、航空機を自衛隊が守り、共に戦うことを定めるのは軍事同盟だ。

 日豪の防衛相は「中国が海洋進出を強め、力を背景にした現状変更を試みる」としてそれに反対し、両国部隊が協力して対抗できるよう「相互運用性」を高めることでも一致した。

 11月3日から20日にかけては、インド洋東部のベンガル湾とアラビア海北部で米国、日本、インド、オーストラリアの海軍共同演習「マラバール2020」が行われた。オーストラリア海軍の参加ははじめてだ。中国を仮想敵として「自由で開かれたインド・太平洋」を旗印にする「QUAD」(4か国戦略対話)が具体化した。

 現実的に考えればその必要性は低い。米国の海軍力は圧倒的で10万トン級原子力空母11隻、原子力潜水艦67隻(うち弾道ミサイル原潜14隻)巡洋艦・駆逐艦・クリゲート艦110隻、対潜哨戒機107隻を持つ。

 中国海軍は約6万トン級の空母2隻(カタパルトなし)原潜10隻(うち弾道ミサイル原潜4隻)、電池推進潜水艦48隻、駆逐船・フリゲート艦81隻を持つが、それらの性能は米海軍よりはるかに低く、特に対潜水艦能力(音波探知など)が貧弱だから、米海軍には全く太刀打ちできない。

 中国海軍が質、量ともに米海軍に匹敵するにいたることは予見しうる将来ないだろう。

 中国が広域経済圏構想「一帯一路」の一環としてインド洋沿岸などに港を建設していることに対し、米国などでは中国は「軍港を造って海洋支配を狙う」との説が強い。

 もし中国海軍が米海軍より強大であるなら、海外の軍港は拠点として役に立つが、そうでなければ港から出れば撃沈されるから、日露戦争中に旅順港に引き籠もったロシア艦隊のようになる。

 その当時と違い、今日では港内にいても航空攻撃、巡航ミサイル攻撃の標的になるだけだから、弱い海軍が遠隔地の港を基地にすることは有害無益だ。中国が外国に港を建造したり買収するのは交易や政治目的のためと考える方が自然だろう。

 中国の貿易額は米国の1.5倍、日本の3.5倍で断然世界最大の貿易国だ。インド洋、太平洋は中国にとり、不可欠の通商路で、その航行の自由こそ中国の「核心的利益」だから、中国が商船の航行を妨げたことはない。

 南シナ海は海南島を主な基地とする中国潜水艦隊の待機海面だから、米海軍は対中戦争に備えて嘉手納から出る対潜哨戒機、グアムを基地とする潜水艦、横須賀を母港とする水上艦や海洋調査などを南シナ海に入れて中国潜水艦の音紋を収集したり、水温、海底など水中音響調査を行っている。

 中国海軍はそれを妨害しようとし、空中衝突や艦艇の異常接近が起きてきた。南シナ海の人工島の建設もその対立の一環だ。米国の言う「航行の自由」は実は「情報活動の自由」だ。

 こんなことのために日本がオーストラリアと同盟を結び、インドとの軍事協力を進めるのは非合理だ。2019年の日本の輸出の19・1%(香港を含むと23・9%)は中国向けで、さらに拡大を続ける中国市場の確保は日本にとって死活的国益だ。それだけではない。もし米、豪が中国と武力衝突を起こせば、米国の海軍力は圧倒的だから、中国沿岸の海上封鎖はできようが、中国の食糧自給率は100%で、輸入しているのは大豆だけだ。エネルギー自給率も石炭が豊富だから約80%で、ロシアからの石油、天然ガスのパイプラインもあるから、海上封鎖で中国が屈服する可能性は低い。

 米軍は爆撃・ミサイル攻撃やサイバー攻撃を中国に打撃を与えることはできるが、それがエスカレートすれば、中国はICBM98発、中距離弾道ミサイル約300隻を持つから、米国は報復攻撃を受け、核戦争に発展するおそれが大きい。

 中国主要部の破壊はできても支配をするには陸上兵力による占領が必要だ。渤海湾奥の天津付近に上陸して、北京まで約180キロを進撃するには大量の死傷者を覚悟する必要がある。

 首都を取っても中国政府が内陸に後退すれば、首都南京を日本軍に占領された蒋介石が重慶に籠って抗戦したと同様、長期のゲリラ戦になりそうだ。日本軍は最大時140万人以上を中国に投入したが「点と線」しか確保できなかった。

 もし米中戦争が起これば、米軍に基地を貸し、策源地となる日本は当然中国の敵となるから、弾道ミサイル等による攻撃を受けることになる。

 このような事態が起きかねないことを考えれば、豪州との同盟関係を結び、米国が中国との戦争に向かうことを支援するのは危険であり、日本はむしろ米国と中国の関係が今以上に悪化しないように努力することが真の安全保障だろう。

 菅首相との会談後の記者会見でモリソン首相は「日本と豪州の『円滑化協定』で大きな特別な一歩を踏み出した」と述べた。この協定はそれ以外の国々との同盟関係の先例ともなり、辺野古にヘリコプター基地を造ることなどとは比較にならない重大な第一歩だ。 

 1960年に日米安全保障条約の改定が行われ、占領状態の継続的色彩が濃かった1951年の第一次安保条約に比べれば、ある程度対等な同盟である第2次安保条約に変わった際には反対が厳しく、全国的な「安保闘争」が起こった。今回の豪州との事実上の同盟締結に対しては野党とメディアもほとんど関心を示さないのは不思議だ。

 第二次世界大戦以来、75年、幸いにも2世代にわたって戦争をしていない日本人は、戦争を現実に起こりうることを考えられなくなったのかと思われる。平和ボケのタカ派は国家にとって極めて危険な存在なのだ。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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