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湧き出た「敵基地攻撃能力」保有論の馬鹿げた欠陥

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【軍事の展望台】イージス・アショア配備計画の停止で、元の計画に戻っただけ

公開日: 2020/07/21 (政治)

CC BY-SA 建造中のイージス艦「はぐろ」(2019年7月)=CC BY-SA /Hunini

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 河野太郎防衛大臣は6月15日、イージス・アショア配備計画の停止を発表、24日に国家安全保障会議はそれを確認した。

 これに対し自民党内では「北朝鮮の弾道ミサイルに対する防衛網に穴があく」との反発が出て、それに代わり、「敵基地攻撃能力」の保有が論じられている。

 だが、この論は「どうやって敵のミサイルの位置を知るか」というもっとも肝心な視点が欠けている。

敵のミサイルの位置、どうやって知る?

 偵察衛星で北朝鮮を常時監視できるように思う人が多いが、偵察衛星は地球を南北方向に、1周約90分で周回する。時速約2万9000㎞で世界各地上空をほぼ1日1回通過するから、1地点を撮影できるのはカメラの「首振り機能」を生かしてもせいぜい2分程度だ。夜間や雲があれば光学カメラは役に立たないから、レーダー衛星を使うが、当然その解像力は低くなる。

 米軍は光学偵察衛星「クリスタル改」5機、レーダー衛星「FIA」7機、他に小型の戦術衛星5機(試験段階)を持っている。日本は光学衛星3機、レーダー衛星5機を持つが、日、米合わせても、常時北朝鮮を監視するには程遠い数だ。

 偵察衛星は飛行場、造船所など固定目標を撮影するためのもので、移動目標を捉えるのは偶然でしかない。衛星は遠心力で浮いているから、1地点上空で止まれば当然落下する。

 数百の衛星を1列に並ばせ、1つが通過すると次の衛星が上空に来る様にすれば常時監視もできなくはないが、膨大な経費が必要だ。

 「静止衛星で見張れないのか」と言う人もいるが、静止衛星は地球の直径の2・8倍、約3万6000㎞の高度で赤道上上空を回っている。そこだと、衛星の周回速度と地球の自転の速度が合致し、地表からみれば停止したような形になるから電波の中継には大いに役立つ。だがこのような距離では弾道ミサイルのような目標を探知するのはもちろん不可能だ。

 ミサイル発射の際に出る大量の熱(赤外線)は感知できるから、ミサイル防衛のための第1報を出すことには使えるが、それは発射の後だから攻撃目標の位置を知る役には立たない。

 ジェットエンジン付きの大型グライダーのような無人偵察機「グローバル・ホーク」などを北朝鮮上空で常に旋回させておけば弾道ミサイルを積んだ移動発射機が山腹に掘られたトンネルから出て、ミサイルを直立させ発射する状況を撮影することが出来る場合もあるだう。

 だが、「グローバル・ホーク」の実用上昇限度は2万m弱、北朝鮮が保有する旧ソ連製の対空ミサイル「アンガラ」(NATO名SA5)は高度3万m以上に達する。北朝鮮がロシア製のS300をモデルに国産している「ボンゲ5」対空ミサイルはより高性能と見られ、北朝鮮上空を低速の無人偵察機や有人のU2S偵察機(今日も韓国烏山基地に4機配備)が旋回していれば撃墜される公算が大だ。

 日本も「グローバル・ホーク」3機の導入を決めたが、その20年間の経費は3269億円に達する。政府は平時にはそれを北朝鮮領空では飛行させず、公海上空から斜めに撮影する、としているが、山腹のトンネルから谷底に出て発射する弾道ミサイルは直上からしか発見できない。

 北朝鮮の弾道ミサイルの多くは、その北部山岳地帯の渓谷の山腹に掘られたトンネルに移動式発射機に載せて隠され、待機地点を変えることができる。いざとなればトンネルから出て、ミサイルを立て発射する。

 ミサイル陣地があるのはこのあたり、と大体の見当はついても精密な位置が分からないと攻撃はできない。トンネルの入り口と見せかけたダミーの横穴を掘るのは簡単だし、山腹の横穴の奥を上空からの攻撃で破壊するには、地中への貫徹力の強い特殊な爆弾を使うにしても、トンネルが地中でどちらに曲がったり枝分かれしているかわからない。

 旧式の弾道ミサイルは直立させてから液体燃料を注入したため、発射準備に1時間以上かかると推定されたが、近年では液体燃料を注入したまま待機できる貯蔵可能液体燃料や固体燃料を使うように進化し、発射準備に要する時間は短縮しつつある。ミサイルが出て来たところを発見し、発射の前に攻撃、破壊することはますます困難になっている。

 最初の弾道ミサイル、ドイツのA4ロケット(通称V2号)は第2次世界大戦末期にオランダ西海岸のハーグ近郊の森林からイギリスに向け発射された。これは分解してトラック数台で運び、1日掛って組み立てるという機動性に乏しいものだった。当時はすでに米、英軍は圧倒的な航空優勢を確保していたから、多数の戦闘機、軽爆撃機をV2号の発射地域に出動させ、低空をはい回って探したがV2号の発射は止まず、英軍の地上部隊がその地域を占領してやっと発射が停止した。

 1991年の湾岸戦争中、米空軍はイラク上空の完全な制空権を握っており、イラクの弾道ミサイル破壊に1日平均64機が出撃、主として2個所の発射地域上空を飛び回ったが、発射の情報を聞いて駆けつけてもカラの発射機を叩くだけだった。

 イラクは開戦の翌日91年1月18日から、停戦2日前の2月26日まで「アル・フセイン」(スカッド改)88発の発射を続けた。米軍は「スカッド・ハント」の成功を発表していたが、停戦後の調査でその報告はほぼ全て誤りで、バスやコンテナーなどを攻撃していたことも多いことが判明した。

 発射前に破壊に成功したのはただ1例だけだ。発射地域に潜伏し「スカッド」の位置を探っていた特殊部隊への補給のため、ヘリコプターが夜間飛行中、闇の中に弾道ミサイル発射の火柱を目撃、そちらに向かって見たところ、付近でもう1機のミサイルが発射準備中であるのを発見、ドアからの機関銃襲撃で破壊した、という偶然の成功だった。

 湾岸戦争以来すでに30年近いから、精密なレーダーや高性能の暗視装置など、地上目標の探知装備が進歩したが、他方弾道ミサイルの方も移動発射機が普及し、即時発射能力も向上したから進歩はたがいに打ち消し合う要素だ。

 目標の位置を知ることは、いかなる攻撃にも不可欠だが、日本では政治家だけでなく、自衛隊の上級幹部にも「敵基地攻撃」の兵器さえあれば、発射前に破壊することが可能と思い、「どうやって発見するか」を考える人が少ないのは不思議な現象だ。

 その原因としては、航空自衛隊が青森県三沢の射爆場で行っている対地攻撃訓練では、当然目標の位置が定まっており、標的は誤爆を避けるため、はっきり見えるように設置されているため、隠れた目標を探して攻撃する困難を実感していないためではないか、と考えられる。

 また、海上自衛隊は艦艇や航空機相手の海での戦闘に専念し、陸上の目標を攻撃することはほとんど考えていなかったから、漠然と「敵基地攻撃」を唱えているのではなかろうか。

 対潜水艦作戦では潜水艦の位置を把握することが主たる要素だが、陸上目標に対してもそれは同じ、と気づいていないようだ。いかに敵地攻撃用の巡航ミサイルなどの装備を搭載しても、目標の精密な緯度、経度が分からなければ発射はできないのは自明のことだ。

 米軍、韓国軍との情報交換により、攻撃目標の位置は分る、と言う人もいたが、もし戦時に米軍、韓国軍が北朝鮮の弾道ミサイルが発射準備をしている状況をつかめば、即座に攻撃するはずだ。情報を日本に伝えて自衛隊に攻撃させ、手柄を譲るような悠長なことをするとは考えられない。

 北朝鮮に対して日本が戦闘行動に入る際には、米軍、韓国軍と十分調整しないと味方射ちや妨害が起こりかねない。日本は何時何分から、どこを攻撃するか、米韓合同司令部に割り当ててもらうしかないが、日本が朝鮮半島で攻撃作戦をすることを韓国軍が許す公算は低い。

 韓国軍、在韓米軍の攻撃能力が低ければ、自衛隊に来援を求める可能性もなくはないが、韓国空軍は戦闘機・攻撃機約480機を有し、在韓米空軍は約60機だから、航空自衛隊の約330機を上回る。

 北朝鮮空軍機は旧式で部品も乏しく、いまやほとんど空軍が無いのも同然だ。そのため、韓国空軍は防空の必要が薄く、大部分が対地攻撃を指向する特異な空軍となっている。そのF15K戦闘機59機は複座(後席は攻撃兵器担当)で、対地ミサイル、爆弾計11トンを積む。実質的には爆撃機で、防空用の日本のF15Jとは別物だ。

「先制攻撃」論の愚

 「先制攻撃」はもっと馬鹿げた論だ。

 戦争が始まる前でも、「相手が日本に対しミサイル発射の準備を始めれば、それを攻撃するのは正当防衛、自衛権の範囲」との説は法的には一理があるが、実際にはミサイルがトンネルから出て来て直立しているのを発見しても、それが日本に向かうのか、韓国など他国を狙うのか、発射実験や単なる訓練かは分からない。それを攻撃し、相手が「日常の訓練中、突如攻撃された」と非難しても反証をあげるのは難しい。

 「どうやって敵ミサイルの位置を特定するのか」という肝心要めの論議、説明もないまま日本で「敵基地攻撃論」が台頭する背景には、テレビで見た「テポドン」の姿が頭にあるためでは、とも考えられる。

 テポドン(銀河2号)は全長約30m、直径約2.4m、重量約92tの大型で、巨大な固定発射台の側で約2週間掛けて組み立てられ、燃料を注入して発射される。これまで2012年と2016年の2回、北朝鮮は人工衛星を軌道に乗せることに成功している。

 こうした大型のロケットは衆人環視の中、長期間の発射準備を行い、移動はできないから、戦時には簡単に破壊される。

 他方、軍用の弾道ミサイル、例えば「ムスダン」は全長12.5m、直径1.5m、重量12tで、燃料を充填したまま待機できる。移動発射台に載せられてトンネルに隠れ、出て来て間もなく発射される。固体燃料を使い即時に発射可能な弾道ミサイルも開発されている。

 「衛星打ち上げ用ロケットも弾道ミサイルも基本的技術は同じだ」として、テポドンを「ミサイル」と呼ぶことが日本では一般的だ。

 たしかに1950年代にソ連と米国は初期的な大陸間弾道ミサイルを転用した人工衛星の打ち揚げに成功した。その後衛星用ロケットと弾道ミサイルは別の方向に進化した。弾道ミサイルは立て穴に入れるにも、潜水艦や車輛で移動するにも軽量小型が望ましく、即時発射が必須だった。

 逆に衛星用ロケットは地下に隠したり、移動することはなく、急いで発射する必要もない。衛星には大型の反射望遠鏡や、多くの電子装備を積み、数年間もの寿命を持つよう姿勢制御用の燃料を大量に積みたいから、どんどん大型化し、米国の「スペース・シャトル」は重量2000tを超えた。

 この別物の2者を同一視するのは「大型旅客機も戦闘機も基本技術は同じ」と言うに似る。

 防衛省は1998年に日本列島を超えて「テポドン」発射が行われた当時、よく分からないまま「ミサイル」と称し、それを今も続けている。そのため、弾道ミサイルとはテポドンのように大型で、固定発射台から発射されるような印象を抱き、それを攻撃すれば破壊できるような甘い考えを持つ人が出てくる。テポドンを壊してみても核ミサイルの脅威は全く減殺しない。これはケネディ宇宙センターを攻撃しても米国の戦力が低下しないのと同じだ。

 今回「敵基地攻撃能力」保有論が出るのは「イージス・アショア」の配備中止で「ミサイル防衛に穴があく」との論があるためで、メディアも漫然とそれを伝えている。

 だが防衛省は2013年の「防衛計画の大綱(約10年先を見通す)」で、弾道ミサイルを長距離で迎撃する「SM3」ミサイルを搭載するイージス艦を4隻から8隻にすることを決めていた。

 軍艦は1年に約3か月、定期点検・修理のためドックに入るから、4隻中の3隻が行動可能だ。日本海などに常時2隻を常に配備すると各艦は年間8か月も外洋に出ていることになり、乗組員は長く家に帰れず疲労がつのる。8隻になれば6隻は可動になるから、常に2隻ずつを交代で日本海などに出しても余裕があるとの考えだった。

 そこに突然、トランプ氏の要求で陸上2か所にイージス・システムを配備することが決まった。トップダウンの押し付けを実施しようとしたのだから調査は杜撰、地元への説明も間違いだらけで、経費も当初は2基で1600億円程と米国は言ったが、当面4664億円、別売りのミサイル48発などを含むと7000億円は掛かりそうになった。

 河野太郎防衛相が中止を決意したのは勇断で、元の防衛省の計画に戻すのだから「穴があく」訳ではない。

 「今後はイージス艦に頼るとしても、船を作るには5年程はかかる」と言う政治家の声も報じられたが、実は8隻目のイージス艦「はぐろ」(満載1万250t)は昨年7月進水し、現在艤装中で来年3月に就役する。

弾数8発は、最初から抱えている弱点

 だがイージス艦の最大の弱点は搭載する迎撃ミサイル「SM3」が1隻に8発しかないことだ。イージス艦の垂直配射装置には対空ミサイル、対潜水艦ミサイルなどを含め90発ないし96発の各種ミサイルが入れられるが「SM3」は1発約40億円もするから多くは買えないのだ。

 北朝鮮の弾道ミサイルは約300発で、うち30発程が核弾頭付きと推定される。核付きと火薬弾頭付きとを
交ぜて発射されれば、1700億円もするイージス艦は最初の8発に対して迎撃ミサイルを発射すると「任務終了、帰港します」とならざるをえない。ミサイル防衛は形ばかりなのだ。

 イージス・アショアの導入が2017年に決まった当時から、私はミサイル防衛に関わった自衛隊の将官たちに「イージス・アショアを入れるよりは、各艦が積むSM3ミサイルの弾数を増やすほうが合理的では」と言ったところ、ほぼ例外なく「おっしゃる通り」との反応があった。

 日本海などで弾道ミサイルに対する警戒配備に付くイージス艦2隻だけでも、いまの1隻8発に加えて24発、計32発を搭載して出港させればミサイル防衛戦力は4倍になる。

 「どうやって目標を発見するのか」を考えない「敵基地攻撃能力保有論」はイージス・アショア配備計画以上に馬鹿げている。

 日本のタカ派の軍事常識の乏しさ、あるいは戦争を現実的、具体的に考える能力の欠如には背筋が寒くなる思いだ。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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