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反米・親中の今のフィリピンに軍事援助してよいのか

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【軍事の展望台】ドゥテルテ大統領は親米にはならない

公開日: 2016/10/28 (政治)

ドゥテルテ大統領(左)と安倍首相=Reuters ドゥテルテ大統領(左)と安倍首相=Reuters

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 フィリピンのドゥテルテ大統領は25日来日、26日の安倍首相との会談では、南シナ海問題について「法の支配のもとに平和的に解決したい。いずれ語らねばならない問題だが、その時が来れば日本の側に立つ」など親日的態度を示した。

 他方、18日から4日間、中国を訪れ20日に習主席と会談、南シナ海問題はいずれ中国との直接対話でと棚上げにし、麻薬中毒者の更生施設に90億ドル(約9400億円)の借款、150億ドル(1兆5700億円)に達する13件の経済協力を得ることになった。

 北京での経済フォーラムでは「軍事面でも経済面でも米国と別れたことをご報告します」と中国に擦り寄る姿勢を明確に打ち出した。東京での経済人との昼食会でも「2年以内に米軍を全て撤退させる」と述べている。

 ドゥテルテ大統領は中国から帰国後の22日、ダバオ市の記者会見で「外交関係を断絶するわけではない。私が言いたいのは対外政策の分離だ」と答えている。これは当然で「国交断絶」は宣戦布告の一歩手前、冷戦期の米ソも外交関係は保っていた。大統領は1951年以来の米比相互防衛条約を廃棄しないことも以前から述べていた。

実はブレていない大統領発言

 フィリピン人は概して相手の気に入ることを言う癖があり、したたかな政治家であるドゥテルテ大統領は外交辞令が達者だから、発言が首尾一貫していないようにも聞こえるが、実は本筋ではほとんどブレていない。

 彼は①「中国に敵対するような米軍との南シナ海の共同パトロールには今後は参加しない」とし、正式に米太平洋軍に通告している

 ②「米軍はフィリピンから出ていくべきだ。米軍とともにいては平和は来ない」とし、反政府勢力との和解、懐柔をめざし、すでに8月26日には共産系ゲリラ新人民軍との停戦合意に達している

 ③アキノ前大統領が2014年4月に結んだ米軍の事実上の再駐留を認める「防衛協力強化協定」の実施延期を唱えている。

など、終始一貫して米軍との決別の方針を明らかにしている。

 米国との共同防衛条約は廃棄しない、と言いつつ軍事面での決別を語るのは一見矛盾のように思えるだろうが、中南米諸国の一部やフランス、ニュージーランドなどが名目上同盟に残りつつ、軍事面では米国と離別していた例はある。米国の同盟国約50か国のうち、米軍部隊が駐留しているのは約10か国にすぎない。

 日本は2011年9月、当時のアキノ比大統領が来日、南沙問題での日本の支援を求めたのに対し、野田首相が両国の海上保安・防衛当局の協力強化を約束し、翌12年6月に玄葉外相がロサリオ比外相を招いて「フィリピン沿岸警備隊の能力向上」を取り決めた。

 安倍首相はそれを継承し、2013年7月にマニラでアキノ大統領と会談し、全長44メートルの小型巡視船(約200トン)10隻(計187億円)を提供することで合意した。当初は無償援助のはずだったが、のちに円借款の形となった。

 さらに安倍首相は今年9月6日東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開催中のラオスのビエンチャンでドゥテルテ大統領と会談、全長90メートル(排水量約1800トンか)2隻(計165億円)を円借款で供与、洋上哨戒用に海上自衛隊の双発練習機TC90を5機貸与することで合意、今回の訪日で署名した。

 巡視船は引き渡し時点では砲は付けていないが台座があり、防弾仕様であるため、法的に「武器」であることを政府は認めており、武器輸出を公認した2014年4月の「防衛装備移転3原則」により供与される。

 フィリピンの親米マルコス政権が崩壊後、1987年に定められた憲法は外国部隊の駐留を原則的に禁止しており、上院は1991年に基地条約の延長を批准せず、米軍は92年に撤退した。

 だが、2002年から「テロとの戦い」のため米軍特殊部隊がミンダナオ島に派遣されるのをアロヨ政権は認め、2014年4月には親米的なアキノ政権が米軍の基地使用を認める「防衛協力強化協定」を結んだ。

 その見返りにフィリピンは老朽艦ばかりの海軍の更新を米国に求めたが、財政難の米国は廃棄予定の沿岸警備隊の巡視船2隻しか供与できず、日本が肩代わりすることになった。

 日本にもフィリピンの海上警備力を強化して中国をけん制する狙いがあり、海上自衛隊は南シナ海で米、比と共同訓練を行い、自衛隊の比国駐留に備え、地位協定の協議を始めるなど、密かにフィリピンと同盟関係に入りつつあった。

米国に征服されたフィリピン

 私は昨年6月、アキノ大統領が来日し日本との「共同作戦」の必要性まで語ったため、国会での審議、国民的論議も無いまま、安易に態度を変える国と同盟関係になる危険を説いた。

 特に艦艇は30年以上の寿命があるし、きわめて目立つから、将来、比国が中国と和解すれば、かつて日本が比国をけしかけた記念碑のようになると警告した。

 私はかなり先を読んだつもりで、そう述べたが、その1年後、意外に早く事態が展開、日本は反米・親中の国に軍事援助するという滑稽きわまる状況になった。南シナ海をパトロールしないなら何のために船や航空機を供与するのかわからない。

 間の悪いことに10隻の小型巡視船の最初の1隻はドゥテルテ大統領が米国大使を「ホモ野郎」となじって暴言騒ぎが始まったさなか、8月18日にマニラ湾に到着、今後2年間で残りの9隻が引き渡され、さらに大型の巡視船2隻や哨戒用航空機が続く。

 それらの運用や整備の教官として派遣される海上自衛官や海上保安官は反米・親中の国の軍を訓練するのだから気まずい立場になる。

 もし、ドゥテルテ大統領が姿勢を一転してくれれば日本政府は助かるが、彼が親日であるのは確かとしても、親米に転向することは期待しがたい。

 フィリピンはかつてスペイン領で、1898年の米西戦争の結果、アメリカに割譲された点でキューバと似た歴史がある。この戦争後、キューバは名目上独立し、米国の属国となった。フィリピンではこの戦争前からスペイン軍に抵抗していた独立派が米国の「独立支持」の約束を信じて一斉に蜂起し、米陸軍が来る前にスペイン軍を圧倒し独立を宣言した。

 だが、戦争終結後、米国は独立を認めなかったため激しいゲリラ戦が1899年から3年続き、フィリピン人は米政府によれば20万人、餓死を含めれば60万人ほどの死者が出て征服された。

 その後も植民地、属国として米国の支配下にあったため、フィリピン人には米国への反感と憧れが混在する。概して、有産・知識階層には反米意識が強く、1991年に基地条約を上院が否決した背景となったし、ドゥテルテ大統領の暴言に快感を覚えるのだろう。だが、貧困層には米国への移住、出稼ぎを夢見る人が多いようだ。

共産党から2人入閣

 ドゥテルテ氏の父親は法律家でダバオ州知事や総務長官(大臣)を歴任し、母は教師で社会活動家だった。ドゥテルテ氏はダバオ市の検事を10年務めたのち副市長から1988年市長に当選し、再選制限があるため、娘を市長にして自分は副市長に回ったり、一時同市選出の下院議員になるなどしたが、大統領になるまで事実上28年間ダバオ市に君臨してきた。

 自警団による麻薬犯の「処刑」を奨励するような強硬手段で犯罪を抑えると同時に、イスラム教徒と少数民族から各1名を副市長にするなどして懐柔に成功、同市の治安を大幅に改善した。その手腕は同国内では高く評価され、1992年以来、歴代の大統領4人から内務長官就任を求められたが、断り続けた。トップでなければ剛腕は振えないためだろう。

 彼は大学時代に、後に毛沢東主義のフィリピン共産党を創設したホセ・M・シソン氏を師とし、現在オランダ在住のシソン氏はドゥテルテ氏の大統領選出馬を支持したともいわれる。

 ドゥテルテ氏が共産党員ではないとしても、それに寛容であることは確かで、共産党から2人を農地改革相、社会福祉相として入閣させている。8月26日には米国がテロ組織としている共産ゲリラ「新人民軍」とノルウェーのオスロで停戦協定を結んでいる。得意の懐柔策で、彼が「米軍がいては平和は来ない」と言うのは米軍がその政略の妨げになるためだろう。

 ラモス元比国大統領(在任1992-98年)は米陸軍士官学校卒、イリノイ大学で工学博士となり、国軍参謀総長を経て大統領となった知将だが、彼はドゥテルテ氏の顧問となり、8月8日から特使として香港を訪れ、中国要人と会談、中国との関係改善の突破口を開いた。

 軍人の信望を集めているラモス大将が後ろ盾となっていることを見ても、ドゥテルテ氏の反米・親中路線は個人の感情ではなく、冷徹な国益の計算によると考えるべきだろう。

 日本が反米・親中の国に軍事援助をする結果となった喜劇的なこの事件は日本外務省の「先見能力の不足」というより、その意欲を欠き、ひたすら米国の要望に応えようとする習性に起因すると思われる。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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