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政府の「外国人の不動産取得制限法」はマヌケだ

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【軍事の展望台】安全保障の効果全くない 攘夷より開国を

公開日: 2021/03/30 (政治)

北海道=PD 北海道=PD

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

 政府は3月26日の閣議で、自衛隊と米軍の基地、原子力発電所の周辺約1キロや、国境付近の離島など安全保障上重要な土地が外国人に取得されないよう監視する「重要土地等調査・規制法案」を決定し、今国会で成立を目指している。

 これらの地域は「注視区域」に指定し、土地、建物の利用実態を調査する。さらに自衛隊司令部など特に重要性が高い施設は「特別注視区域」と定め、土地、建物の売買は事前届を義務付ける。指定区域の不適切な利用には中止命令を出し、それに従わないと2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処すことになる。

 加藤官房長官は記者会見で「安全保障の観点から、防衛関係施設の機能を阻害する行為を防止するため重要な法案だ」と語った。

 だが、日本に潜入したスパイやテロリストが大金を払って不動産を買って登記し、住所、氏名、国籍等々を法務局や税務署に申告するとは考え難い。賃貸のアパートやマンションに住み、それも日本人名義で借りて同居するとか、短期の行動ならホテルに宿泊するなど、足の付きにくい方法で潜伏する可能性が高いだろう。

 外国人が日本で不動産を買うと、あたかもそれが外国領土になるような無知な説を唱える人々も少なくない。だが所有者が誰になろうが日本の主権下の領土であることは変わらず、大使館や米軍基地のような治外法権的な区域ではないから、日本の法令が全て適用され、違法行為を行っている疑いがあれば家宅捜索令状を取って調べることになる。もし武器や無許可の通信機器などがあれば現行法で当然処罰できる。

 「自衛隊司令部などの近くに工作員が住み、無線通信を妨害することを阻止する」との説明が出るが、一定の地点から妨害電波を出し続ければ位置はすぐ突き止められる。それをするなら小型トラックなどで移動しつつ電波を出すのではないか、と考えられる。

 妨害電波を出すよりも、自衛隊、米軍などの無線通信を傍受する活動の方が起こりやすいだろうが、そうした電波は1キロ以上到達するのが普通で、外国人による1キロ以内の不動産売買を調べても無意味だ。無線通信をする場合には傍受されるのは不可避だから、暗号化して通信するのが当然で、それを解読される方が悪いのだ。

 今日では通信傍受に衛星が使われ、電離層を突き抜ける高周波の電波は衛星で捉えられる。米国はレーダーの周波数など、電子兵器の情報を収集する「電子情報衛星」と、通信情報を取る「信号(通信)衛星」計27機を持ち、中国は計41機を持っている。

 スマートフォンや携帯電話の電波は宇宙で傍受されるから、外国人が日本で土地を買うのを心配するよりは、自衛隊員や防衛に関係する官僚、政治家がスマートフォンや携帯電話を使用することを禁止すべきだ。通話内容は機密に属さなくても、人員の位置や移動を知られ、こちらの行動や状況を読まれることになる。

 偵察衛星は天候が良い昼間には写真衛星、雲があるとか夜間には精密レーダー衛星が有効だが、いずれも約90分で地球を南北方向に周回し、1日に1回、各地点上空を数分間で通過するから、固定目標の偵察しかできず、移動目標は撮影できない。艦艇や航空機、ミサイル発射機などの移動は偵察機やドローン、潜水艦などでつかむとしても、内陸の目標は偵察しにくいから、特殊部隊や工作員が潜伏して情報を探ることも行われる。

 それを防ぐために外国人が居住することを規制しようとするなら半径1キロ圏内の規制では役に立たない。例えば、スパイが横須賀での日本や米国艦艇の出入りを見張るのを防ぐためには浦賀水道の対岸である房総半島の西岸や、三浦半島の東岸、南岸に外国人が立ち入ることを監視せざるをえない。

 また賃貸物件に入居する外国人の素性を調べることも必要となり、怪しげな外国人に部屋を貸した家主や、仲介をした不動産業者を処罰するような法改正が次には必要となってくる。

 今日の情報収集活動の主体は種々の偵察衛星やコンピューターへのハッキング、通信傍受と暗号解読、長時間滞空可能な大型無人機等の技術手段である。仮にスパイが日本に潜伏するとしても賃貸物件に入居する方が容易だから、スパイ対策として外国人の不動産購入を規制しようとするのは間が抜けている。

 主として北海道で中国人(大部分は香港人)が山林を買っているため「水源地を取得し有事の際に生物、化学兵器を流す危険がある」と危機感を煽る説もでたが、万一そんなことをするなら秘かに水源地に忍び込んで毒物を放流できるから山林を買う必要はない。

 「中国、特に北京周辺は水不足だから、日本の水を奪おうとする」との説もでたが、北海道のニセコなどの山中からタンク車で水を室蘭港などに運び、タンカーで中国北部の天津港などに輸送するのはコストが高すぎ、現実性に乏しい。ペットボトルに入れればさらに高くなるだろう。

 また、水の利用は河川法の水利権で統制されていて、外国人が水源地の山林を所有しても水を独り占めすることはできそうにない。

 こうした反中派のデマが流布するのは国家の「領有権」と、私人や法人の「所有権」が混同され、外国人が土地を買えばそこが外国領土になるような印象があるためだろう。

 過激な反中論者はこれを「中国による侵略」と唱えるが、日本の企業が海外進出し、工場、商店、ホテルなどを建設する際には用地を買収するか、租借に似た長期の利用権を確保している。会社ごと買収したり合併しても土地はついてくる。個人がハワイなどに別荘を買うこともあるが、こうした日本人による海外不動産取得も「侵略」なのかと笑わざるをえない。

 「WTO(世界貿易機関)」はその前身「GATT(関税及び貿易に関する一般協定)」を受け継いでおり、その協定の一つである「サービス貿易に関する一般協定」の17条は加盟国のサービス提供者に対し、自国民に与える待遇よりも不利でない待遇を与えることを定めている。加盟国の国民が不動産を購入する際には、自国民と差別せず、同等に扱うことが求められるのだ。

 だが、14条の2項には「安全保障のための例外」として「軍事施設のため直接、間接に行われるサービスの提供に関する措置」を取ることは認められている。中国人の北海道の山林買収や韓国人の対馬でのホテル買収や建設に対して地元民から「乗っ取られる」との反感が出たため、外国人の不動産取得を規制する口実として「安全保障上の重大な利益の保護のため必要な措置」と言わざるをえないのだ。

 ところが、政府は2013年8月に「不動産市場における国際展開戦略」を発表し、「日本の持続的成長のためにはアジアをはじめ諸外国の成長を取り込むことが不可欠。日本は2500兆円の不動産ストックを有し、海外投資家による投資を進めて不動産市場を活性化させる必要がある」と述べている。政府、地方自治体が持つ公的不動産は570兆円あることも指摘、その外国人への売却を視野に入れることを示した。

 この不動産戦略は第二次安倍政権で国土交通省が発表したもので、今回の法案とは逆方向の政策だ。

 国の利害得失を考えれば、外国人が土地を買っても日本の領土が減るわけではないから、国家にとっては代金は只どり同然で、外国人が固定資産税を払ってくれれば、それも利得になる。

 海外の不動産に投資した企業や個人は相手国が成功して不動産の価値が高まることを期待する。自国と投資先の国が紛争を起こせば元も子もないから、良好な関係を政府に求める側に傾くだろう。外国からの投資を受け入れることは人質を取るのに似ている。

 外国資本のホテルが建てられ、日本への観光客を誘ってくれれば、インバウンドの客が増えて外貨獲得になるだけではない。「日本は清潔で日本人は意外に親切」と好印象を持って帰る人々が多いようで、これも敵意を減じて安全保障の一石となる。

 だが、テリトリー意識はすべての動物の強い本能だから、外国人の不動産購入に反感を抱く人が少なくないのは不可避だ。バブル時代の1989年に日本の不動産会社がニューヨークのロックフェラーセンターのビル14棟を約1200億円で買ったときには米国民の怒りが集中した。

 この米国人の反応には合理性がなく、単なる情緒にすぎないが、開発途上国には外国人が不動産を買いまくると価格があがり、地元民が家を持てなくなるとの理由で外国人の不動産購入を認めない国も少なくない。

 こうした問題では「レシプロシティ(相互主義)」が有力な論拠になるから、日本が外国人の不動産購入を規制すると他国もそれを唱え、日本の企業が海外進出する際、それと競合関係になる地元企業や以前から進出している他国系企業が「日本は安全保障を口実にして外国人の不動産取得を規制しているではないか」と進出妨害の手段にすることも考えられる。

 今回の法案の是非を考えると。外国人投資家の日本への「侵入」を防ごうとする「攘夷論」よりは、こちらも進出しようとする「開国論」の方が、ボーダーレス化が進む世界経済の方向に適合し、2013年の不動産に関する「国際展開戦略」が大局的国益に資すると考えざるをえない。
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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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