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時代錯誤の「安保土地取引等規制法」成立が間近

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【軍事の展望台】最大のスパイと言われた大島ドイツ大使の失態に学べ

公開日: 2021/06/08 (政治)

大島浩元駐ドイツ大使(陸軍中将)=PD 大島浩元駐ドイツ大使(陸軍中将)=PD

 3月29日配信の「ニュース・ソクラ」の記事で「外国人の不動産取得規制法」は日本に対する他国の情報活動やテロ行為の防止に役立たないことを述べたが、5月28日衆議院内閣委員会で自民党、維新の会、公明党だけでなく、国民民主党の賛成も得て可決され、今国会会期中に成立しそうな形勢となった。

 3月の私の論評は、当時報じられていた同法の骨子に関するものだったが、委員会で可決された法案を読んで「こんな法案が国会を通るのか」とあきれざるをえなかった。

 法案の第3条は「内閣総理大臣は、国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する基本的な方針を定めなければならない」としている。

 基本方針すらまだ定まらず、法律の具体的な内容は今後政令で定めるとして内閣に一任するのだから、立法府は白地手形を切る形になる。こんなあやふやな法案を通すのは議会の責務を果たしていない、と言うしかない。こうした白紙立法が先例となれば日本は有司専制の独裁国になりかねない。

 法案の第4条は「土地等の取引が国家安全保障の観点から重大な支障となるおそれがある区域を第一種重要国土区域として指定する」とし、防衛施設、原子力発電施設等の敷地並びにその周辺や「国境の離島」を取引規制の対象としている。またそれほど重大でない「支障となるおそれがある区域」は第二種重要国土区域に指定する、とする。

 骨子の段階では、自衛隊の司令部、米軍基地、原発から約1キロメートルの圏内で外国人への不動産の売却を規制する考え、と報じられていたが、法案の蓋を開けると距離は限定されておらず、政府の一存で決定できる。

 さらに、売買だけではなく、「取引等」を対象とし、所有権、地上権、永小作権、賃権、使用貸借による権利、賃貸権など、不動産に関する権利の変動すべてを規制することにしている。取引規制の相手を外国人に限る条文もないから日本人同士の取引も規制の対象となる。

 第一種区域内の物件取引をする際にはあらかじめ内閣総理大臣に当事者の氏名、住所、内容、利用目的、実行の時期などを届けなければならず、届け出から30日以内は取引をしてはならない、とし、内容によっては4カ月、5カ月間取引を禁じて総理大臣が審査し取引内容の変更、中止を勧告、勧告に従わなければ命令ができる。

 あらかじめ届けを出さずに取引をしたり、取引禁止期間内に取引した者、取引中止などの命令に従わなかった者は「3年以下の懲役に処し、若しくは300万円以下の罰金、又はその併科」とされている。

 第二種地域では無届け取引などの処罰は「6カ月以下の懲役、又は100万円以下の罰金」とし、企業には1億円以下の罰金を定めている。

 この法案では係官が、土地、建物に立ち入って調査することを認め、それを拒否する者は「6カ月以下の懲役、又は30万円以下の罰金」としている。だが、憲法第35条は「住居の不可侵」を定め「何人もその住居に侵入、捜索、押収を受けることはない」とし、侵入をするには「司法官憲(裁判官)」の令状が必要だ。これは必ずしも刑事事件に限られないと解釈されている。

 重要国土地域の指定にあたっては総理大臣は関係行政機関、地方公共団体の意見を聴く、としているが、意見を聴くだけで同意を得る必要はない。今後、内閣府に設置する「重要国土審議会」の議を経る、ことにもなっているが、委員(7人以内)は総理大臣が任命し「意見を述べることができる」だけだ。

 この規制の実施にあたり、まず現実の問題になりそうなのは不動産の取引をしようとする者はあらかじめ届け出をし、3カ月ないし、状況によっては5カ月間その取引を禁じられることだろう。転勤、入学、婚姻などでアパート等を借りようとしても、申し込みから3カ月は契約できないから、重要国土区域には事実上住めない。

 仲介する不動産会社は他の地域の物件を勧めるだろうから、指定された地域ではアパート・マンションは空室が増え、所有者の収益は減少し、それに困って売却するとしても価格が低下し多大の損失となる。

 また「質権」も取引規制の対象となるから、銀行等が不動産を抵当に取って融資することも難しくなるだろう。

 骨子の段階で言われたように、外国人による不動産購入を規制対象とするだけなら件数は少なく、スパイやテロリストが大金を払って不動産を買い、身元を明らかににして法務局に登記し、地方自治体に固定資産税を払うような馬鹿気た行動をすることはまずないから、取締まりの効果が乏しい代り実害も少ないと思われた。

 だが、日本人による賃貸借や抵当権設定を含む不動産取引を監視するなら、全国の届け出件数は莫大になり、もしその内の1戸にスパイやテロリストが入居しているのを見落とせば、審査した係官や仲介業者、所有者の責任が問研われることになりそうだ。

 戦前の日本には日清戦争後の1899年公布の「要塞地帯法」があり、国防上重要な地域での水陸の形状の測量、撮影、写生などが禁止された。東京湾に面する三浦半島全域と房総半島西岸をはじめ、日本各地と属領の港湾、海峡、岬、島々や航空基地周辺などはほぼ立入禁止となり、列車がそこを通る際には窓のブラインドを下した。

 風光明媚な地点が要塞地帯となることが多かったから、魚釣りやハイキングに行った人々やスケッチをした児童が憲兵に叱られたて追い出されたり、青函連絡船上で団体旅行の記念撮影をしたところ「背景に要塞の一部である函館山が入っている」と警官に難癖を付けられカメラは没収、罰金十円を払わされた、など怨嗟の声が少なくなかった。

 第2次世界大戦前、戦中の日本政府・軍は一般の国民に対して「防諜」(スパイ防止)の重要性を唱え、厳しく取り締まったが、肝心なところでは全く間抜けだった。

 もっとも酷い側は駐ドイツ大使、大島浩(ひろし)中将が米英にとって最大の情報提供者だったことだ。

 大島中将は1916年から18年にかけ陸軍大臣を務めた大島建一中将(ドイツ留学組)の長男として1896年に生まれ、幼年期から在日ドイツ人の家庭に預けられてドイツ語を学んだ。陸軍士官学校を優等で卒業。砲兵将校となり陸軍大学校を出て25歳で駐ドイツ大使館付の武官補佐官となり、34歳で大佐に昇進、1934年に駐ドイツ大使館付武官となり翌35年に39歳で少将になる急速な昇進を続けた。

 快活な性格で完璧なドイツ語を話し、挙措も思想もドイツ的、ドイツ人が「ドイツ人以上にドイツ人」と称した程だった。そのためナチス党外交部長(後に外相)リッベントロップと親友になり、ヒトラー総統の知遇を得てナチスに心酔した。

 当時の日本外務省はナチスとは距離を置こうとしていたが、大島少将は日本陸軍の親独派と提携、大使館付き武官の職務を超えて「日独防共協定」を推進、36年に調印され、彼は38年に駐独大使となった。

 ところが、ヒトラーはソ連のスターリンとポーランド分割占領を策し、39年に「独ソ不可侵条約」を結んで同盟関係となったから、日独防共協定は反故となった。

 ドイツに裏切られた日本では右派勢力中心の平沼騏一郎内閣が総辞職し、大島大使も責任が問われて辞職したが、日本は懲りずに39年に「日独伊三国同盟」を締結、40年に大島はドイツの要請もあって再び駐独大使となりドイツ追随を続け「日ソ中立条約」締結に尽力した。

 一途にナチスドイツに忠実な大島大使はヒトラーのお気に入りとなって出入りし、禁酒禁煙主義者のヒトラーの執務室には大島専用の酒が置いてあったといわれる。

 大島はヒトラー総統やリッペントロップ外相に食い込み、軍首脳と懇談する機会が多く、41年に始まった独ソ戦の前線やフランス沿岸の陣地の視察なども出来たから、ドイツの作戦の企図、政策、進捗状況、兵力配備など重要な機密を知る立場にいた。

 彼はそれを東京に外交暗号で報告したから直ちに米国に解読された。なかにはドイツ必勝を信じる誤情報もあったが、米陸軍参謀総長だったジョージ・マーシャル元帥は終戦後「大島は計り知れない程重要な情報提供者だった。ヒトラーの欧州での企図に関する我々の情報の主たる基礎は彼の情報だった」と書いている。

 彼が東京へ送って解読された公電は1941年から45年までで約1475通に達した。大島中将は戦犯裁判で終身刑となり1955年に釈放された。「ドイツとの共謀」の罪では死刑になった広田弘毅首相兼外相よりはるかに積極的だったが死刑を免れたのは、はからずも最大の情報提供者だったことへの連合軍のささやかな謝礼かもしれない。

 日本の政府・軍は国民に要塞地帯への立ち入りを禁止するほどの厳しい取締りをする一方、駐独大使の中将が自分も知らない間に敵側に”絶賛”される大物スパイになっていたのだから、世界の戦史上、最大の喜劇だろう。

 1943年4月ソロモン諸島(オーストラリアの北東)の前線基地を視察中の連合艦隊司令長官・山本五十六大将が搭乗する1式陸上攻撃機がブーケンビル島上空で米軍のP38戦闘機16機に襲われ、撃墜された事件では、視察計画の電文が解読され待ち伏せされた公算が大といわれた。だが、暗号当局は「我々の暗号は解読不可能」と主張、暗号の変更は行われず、次々と敗北を重ねる要因となった。

 45年4月の戦艦「大和」の最後の出撃では3日前から「沖縄に出撃のための燃料補給」を命じている電文が傍受されていた。出動前には上空からの掩護のため航空部隊に「大和」部隊の予定コースや地点通過の予定時刻まで打電していたから米海軍第58機動部隊は空母9隻から発進した約400機で待ち構え「大和」などを迎撃した。手の内をすべて読まれているとは知らず特攻に出撃するとは余りにも悲劇的だ。

 戦局が暗転した42年6月のミッドウェイ海戦でも、日本海軍は空母の数(4対3)や艦載機の性能、操縦士の練度などで明らかに優勢でありながら。米軍は暗号解読によりミッドウェイ攻撃計画を知って必死で準備していたため、日本側は空母4隻、約300機と歴戦の操縦士を失い、その後立ち直れなかった。

 今から約80年も前でも諜報活動の主力は暗号解読であり、それが勝敗に決定的影響を及ぼした。サイバー技術が飛躍的に発展し、普及した現在、要塞地帯を設定して安全保障をはかるという発想は竹槍とバケツリレーでB29に対抗しようとするに似た時代錯誤だ。

 スパイが自衛隊、米軍の基地に近づいて中をのぞくのを阻止しても偵察衛星や領空外の高空から撮影する大型のドローンに対処はできない。半径1キロや2キロの区域に外国人が居住することを監視しても、軍の使用する電波はそれ以上の距離に届くものがほとんどだから傍受の防止にはならない。

 「自衛隊などの無線通信を妨害するのを防ぐ」との説明もあったが、妨害電波を一定の地点から出し続ければ、その地点を探知するのは容易だ。妨害をはかる者は車など発信装置を積み、移動しつつ電波を出すだろう。

 原発がテロ攻撃の対象となるのを防ごうとしても、最近の口径6センチの軽迫撃砲は重量20キロほどで1人で担げ、射程は3600メートルだから広い範囲を監視しなければ原発を守れない。

 しかもスパイやテロリストは「重要国土区域」外に住んだり、宿泊して移動できるから、不動産の取引を規制しても効果があるとは思えない。

 3月29日配信の本欄でも述べたが「中国人が山林を買って化学兵器などの毒物を流す」という説もあるが、それをするなら山林を買ったり賃貸契約を結ぶ必要はなく、水源地や貯水池に潜入する方が簡単だ。

 「中国人が北海道の水源地を買い、水が不足している中国に送る」という説もあるが、河川法で水利権が定めれているから、勝手にダムを作ることはできない。ニセコなど北海道の山地から水を室蘭などにトラックで運び、タンカーで天津港に送り、北京まで輸送しては非常に高価な水になる。

 「対馬の韓国系のホテルから海上自衛隊の泊地が望める」との危機感を示す人々もいるが、韓国が偵察衛星を持たなくても相当精度の高い衛星画像が市販されているから外国資本のホテル建設を阻止しても何の役にも立たない。

 外国人が日本で土地等を取得することが「侵略」であるように感じる人々は少なくないが、これは不動産の「所有権」と国家の「領有権」を混同した幼稚な論だ。外国人が土地を買っても日本の領土であることは変わらず、日本の法令がすべて適用されるから、それに違反した犯罪的行為が行われている疑いがあれば令状を取って捜索すればよい。

 日本企業が海外で工場などを造る際、用地を買ったり長期の賃貸契約をすることはよくあり、企業を買収したり合弁企業を起こせば土地もついてくる。個人がハワイなどに別荘を買うこともあり、富豪が欧州で城やブドウ畑や牧場を買うこともある。ときに近隣住民の反感が生じることもあるようだが、それが日本による「侵略」とまで言う声はないようだ。

 「国家の安全保障に重要な土地に係る取引等の規制に関する法律案」を精読しても、この法案が安全保障に資することはほとんどなく、不動産取引を複雑、困難にするだけで百害あって一利もないと思わざる得ない。

 今日の情報戦の主戦場は明らかにサイバー空間であり、米国が2010年に創設したサイバー軍(司令官ポール・ナカソネ大将の祖父母は沖縄出身)は約3万8000人の人員を持ち、年間予算は約100億ドル(1兆円あまり)と推定されている。

 他に陸、海、空軍、海兵隊などにもサイバー部隊がいる。米国のサイバー戦力が断然トップとされているが、他国も当然対応し、ロシア、中国、北朝鮮、イスラエルなども有力とみられる。

 日本では自衛隊のサイバー防衛隊は290人、自衛隊の情報システム・ネットワークへのサイバー攻撃を防止することを期すまさに「自衛隊」で、他の重要な公共、民間組織に対するハッキングを防衛する能力も意図もない。

 防衛省は年収2000-3000万円の高給でサイバー安全保障のプロを募集しているが、人数、質ともに他国と並ぶサイバー戦力を持つことは困難で、民間企業と自衛隊の連携もどれだけできるか疑問だ。

 サイバー攻撃は国家組織ではない海賊的ハッカー集団による身代金収奪でも行われ、常時戦争が起きているに近い状況だ。情報戦の先進国の情報機関であるサイバー軍が他国の情報システムに侵入して情報を取ろうとすることも行われている様子だ。

 国家安全保障のために「防諜」を考えるなら、はからずも大物スパイとなった大島中将を他山の石とし、最先端の情報戦対策の強化に努めるべきで、明治時代のような要塞地帯的発想はくずかごに入れるほうが適切だろう。

田岡 俊次 (軍事評論家、元朝日新聞編集委員)

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田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。
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