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インフレが酪農を直撃「もうやっていけない」 

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【農を考える】日本の酪農縮小の危機

公開日: 2022/12/22 (政治)

酪農=Reuters 酪農=Reuters

山田 優 (農業ジャーナリスト)

 インフレが進み、食品価格の値上げがテレビや新聞で盛んに報じられている。一方で農家の多くは値上げの「恩恵」に浴していない。肥料や飼料などの生産資材価格は高騰を続け、収益性が急速に悪化している。とくに多額の融資で規模拡大をめざした酪農農家の苦境が深刻だ。

 東北地方で酪農を経営するAさんの自宅に、最近夜遅く全国各地の酪農家から電話が掛かってくるようになった。

 「もうやっていけない」「近いうちに経営をたたむ」という内容だ。Aさんはかつて酪農団体の役員をしていて、その時につながりのあった酪農家からの相談が相次ぐ。

▽餌値上がりが直撃

 Aさんは、牛に与える牧草の8割を購入する。多くが米国やオーストラリアなどからの輸入品で、農地が限られる本州ではごく普通だ。価格は1年半前に比べ1キロ110円ほどに倍増したという。現地での需給ひっ迫と円安が大きい。牛乳生産費の半分近くを飼料費が占める。餌の値上がりは経営にとって大打撃だ。

 Aさんの近隣でも中小規模の酪農家の離農が増えている。まだ余力のある人が離農を決意することに、Aさんは問題の根深さを感じている。

 「今経営をたためる人たちの多くは、まだ傷が浅い。本当に深刻なのは、借金が多くて止めるに止められない人たちだ。今後、コロナ関係の緊急融資など支援策が切れる段階で大型経営の破たんが増えるだろう」

 農水省が毎月調べている農業物価指数(2020年平均を100で計算)によると、農業の交易条件が悪化していることがはっきりと読み取れる

 米や畜産物、野菜などの販売した価格(農産物総合)は、20年以降、上げ下げはあるものの横ばいだ。肥料や農薬、燃料、農業機械などの価格(生産資材総合)は、20年夏を底に、急上昇している。

 販売する価格は横ばいの一方で、原料費が大幅に値上がり。これでは経営は立ちゆかない。

 食品主要105社の値上げを調べている帝国データバンクによれば、22年11月はパック牛乳を含む乳製品の値上げが目立った。年間の乳製品値上げ率は12%と比較的高い伸びを示しているが、乳製品の中で中心となるのは加工したチーズ、バター、ヨーグルトなどで、原料の生乳を出荷する農家の恩恵は限られる。

 酪農家が販売する生乳のうち、飲用牛乳に振り向けられる分は、11月から1割に相当する1キロ当たり10円ほど引き上げられたものの、「新しい乳価が精算されて振り込まれるのは年内ぎりぎりか」(Aさん)。一方で資材値上げの波は次から次へと襲ってくる。

▽農水省は増産からブレーキへ

 酪農家が気を揉むのは生乳の過剰だ。

 8年前に「バターが消えた」と騒ぎになった事態を受けて農水省は、牛乳の増産にかじを切った。畜産クラスター事業と呼ばれる手厚い補助事業や政策融資で、乳牛の頭数を増やしたり最新の設備の導入を後押ししたりした。当時は餌が安く、乳価が良かったことから、酪農家は販売する生乳を増やすほどもうかった。数年前、北海道の酪農地帯を回ると、「バブル」という声をあちこちで聞いた。既存の酪農家の他、大型の肉牛経営なども融資を受け施設を新増設して参入した。

 ところがコロナ禍でチーズなどの需要が伸び悩み、環境は一転。生乳の大切な販路である学校給食の中止も痛手だった。

 あっという間に生乳需給は緩和した。農水省や生産者団体は、生乳の「大量廃棄」を避けるため生乳減産の方針を相次いで決めた。

 こうした急ブレーキは、融資を受けて規模拡大した大型の酪農家を直撃する。コストが上がっているところに販売数量を制限されてしまえば、経営計画は狂わざるを得ない。

 酪農家を苦しめているのは、生乳の緩和だけではない。北海道大学の東山寛教授は、乳牛が産む子牛販売の不振も響いているという。酪農家は搾乳する牛に和牛や乳牛、交雑牛の子牛を産ませることで大切な副収入にしている。ところが、和牛以外は値段がつかないほど暴落している。「乳価が多少下がっても子牛を売って帳尻を合わせたという酪農家は多い。ところが、その手法がまったく機能していない。借金をしているところは苦しいだろう」と東山教授は話す。

 農水省は、飼料値上がり分の一部穴埋め、高齢搾乳牛のとう太支援など酪農家の後押しを始めたが、危機の深刻さには追いついていないように見える。

 国内の酪農家は1万3000戸。ここ10年ほどは年率4%ほどのペースで数が減ってきた。これまで小さな農家が引退し、大きな農家が規模を拡大して、牛の数は横ばいを続けてきた。今回は急激な規模拡大に走った農家の苦境が予想されており、日本の酪農全体が縮小する可能性もありそうだ。
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山田 優(農業ジャーナリスト)
農学博士。1955年生まれ。日本農業新聞記者出身で海外農業を担当してきた。著書に『亡国の密約』(共著、新潮社、2016年)、『農業問題の基層とは何か』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)、『緊迫アジアの米――相次ぐ輸出規制』(筑波書房、2005年)などがある。
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