菅政権の新型コロナ対策が国民の不評を買っている。GoToトラベルの突然の停止で内閣支持率は急落。こんなことだったら政権発足直後に解散総選挙をやっていれば、と思っても後の祭りである。
翻って小池都政はどうか。この1年を振り返ってみたい。
相次ぐ国政の失策に比べ、小池知事は目立った傷も負わずに年の瀬を迎えた。だが、大きな失点がないのは、大きな得点もなかったということに過ぎない。実際、小池知事のコロナ対策で目立ったのは、得意のフリップ芸と国との対立をことさらに強調する姿である。期待された強力なリーダーシップを示すことはほとんどなかった。
小池知事が国やその他の道府県に先んじて、独自の判断で踏み込んだ対策を打ち出したのは1回のみ、第1波の際、休業要請に対する協力金を大盤振る舞いした時だけである。当時、国からの補助が未確定だった中、東京都だけが1兆円近い財政調整基金を裏付けに、1事業者50万円、2店舗以上100万円を約束した。他の知事からは潤沢な都財政をうらやむ声が漏れた。
だたしこれにしても、7月に迫った都知事選向けのパフォーマンスと見えなくもない。その証拠に、10月以降、小池知事は時短や休業要請に対して終始消極的な態度をとってきた。要は、第1波・第2波で貯金を使い果たし、国から予算を引っ張ってこなければ立ちゆかなくなっただけでの話である。
▽GoToトラベルで国に罠を仕掛けた
菅氏との対立が表面化したのは7月だ。GoToトラベルの対象から東京都を外す外さないで第1ラウンドが繰り広げられた。7月11日、菅官房長官(当時)が(感染拡大は)「圧倒的に東京問題」と挑発すれば、2日後の13日には小池知事が「冷房と暖房、両方かける」と痛烈に揶揄した。
遺恨は菅氏が総理大臣になった後も尾を引いた。10月1日、GoToトラベルに東京が追加されたが、その後、第3波の感染拡大はじわじわと広がり、一次停止を巡って北海道知事などが国に要請する事態になった。しかし、小池知事は一貫して「GoToは国の事業。国がお決めのなること」と突っぱね続けた。都民の目には意固地と映ったに違いない。
頑なな小池知事の態度は、単に責任論の押し付け合いに起因していたわけではない。東京都が動かないことで国のGoTo停止判断を遅らせ、結果として菅政権を窮地に追い込むための深謀遠慮だったのではないか、そう深読みすることができる。正に、「動かざること山のごとし」だ。菅政権に対して7月の意趣返しをするとともに、政権を窮地に追い込む罠を仕掛けたのである。小池知事の戦略は見事に功を奏したように見える。GoTo停止の機を逸した挙げ句に全国一斉の停止に追い込まれた菅政権は窮地に立たされているのである。
▽小池知事は都知事である意味を失った
コロナ禍の日本で、ほくそ笑んでいるのは小池知事ただ一人である。なぜなら、小池知事は性懲りもなく国政復帰をもくろんでいるからである。今すぐに、ではない。来年中に、である。
そう小池知事に思わせたきっかけの一つは4月の緊急事態宣言の発出だった。このとき、小池知事は休業要請の線引きで国と意見を異にした。加えて、言うことを聞かない地方を押さえ込むため、国は後付けで「休業要請は国との協議が必要」とルールを変更した。国の身勝手に黙っている小池知事ではない。「天の声が聞こえてきて、中間管理職になったようだ」と反応した。
この言葉、今考えれば、なかなか意味深である。解読するとこうなる。「首都東京のトップとして何でも自分が決められると思っていたのに、結局、国のほうが上に位置して、知事の私に命令してくる。知事なんて所詮その程度の存在なのだ」ということである。
さらに都財政の悪化が知事の力を削ぐ。コロナ対策で財政調整基金を使い果たし、景気の低迷で都税収入の急減は必至の情勢である。自主財源あっての都政が、財力を失ってしまっては国への従属度合いを高めるしか道がない。つまり、東京都も他の道府県と同じワン・オブ・ゼムに転落してしまうことを意味する。
常に自らの政治的価値の最大化を目指す小池知事にとって、もはや都知事であり続ける意味はなくなったのだ。いつもと違う特別な年末年始、小池知事は国政復帰への戦略を虎視眈々と練ることであろう。
菅政権の失政続きの裏で小池知事がほくそ笑んでいる |
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【都政を考える 小池知事の国政復帰は】知事が踏み込んだのは第一波のときだけ
公開日:
(政治)
Reuters
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澤 章(都政ウォッチャー)
1958年、長崎生まれ。一橋大学経済学部卒、1986年、東京都庁入都。総務局人事部人事課長、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任。(公)東京都環境公社前理事長。2020年3月に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓。著書に『軍艦防波堤へ』(栄光出版社)、『ワン・ディケイド・ボーイ』(パレードブックス)、最新作に「ハダカの東京都庁」(文藝春秋)、「自治体係長のきほん 係長スイッチ」(公職研)。
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