3月25日、都議会が閉会した。過去最大7兆8千億円の新年度予算が可決成立し、小池知事もまずはホッとひと安心であろう。合わせて教育長に女性幹部を当てるなど、女性の味方を演出することにも抜かりない。
しかし、小池知事にとっての主戦場はその先にある。夏までの間、都政に目立ったイベントは予定されていない。例年6月に第二回都議会定例会が開催されるが、これは年4回の定例会のうちで最も波風の立たない議会である。
つまり、新年度開始からの3か月間、都政は実質的に空白期間に突入する。そして、待ち構えているのが参議院議員選挙だ。自民党の茂木幹事長が表明しているとおり、6月22日公示、7月10日投開票の線で進められていくだろう。
小池知事にとって好条件がそろった。まん延防止等重点措置が解除され、コロナ第6波は徐々に落ち着きを見せている。ウクライナ危機による景気動向は気になるところだが、コロナ対策に忙殺されることなく政局に専念できる。願ってもない時期を迎えた。
▽昨秋の衆院選で空振り
実際、この2年間、小池知事はコロナの感染拡大に振り回され、思うように事を運べていない。自らの実績として大々的に喧伝する好機だったオリンピック・パラリンピックは無観客開催となった上に、大会期間中の2021年8月、東京では自宅待機者という名の医療難民が2万にのぼり、医療崩壊といっても過言ではない状況に陥った。
さらに、小池知事の国政復帰戦略では昨秋の衆院選が天王山のはずだったが、菅氏に代わって登場した岸田首相に予想より早い衆院選を仕掛けられ、都民ファーストの会が立ち上げた国政政党「ファーストの会」はあえなく時間切れに追い込まれ、候補者擁立を断念せざるを得なくなった。
「希望の党」騒動に続いて二度目のチャンスも逸したのだ。それもこれも、小池知事個人ではどうすることもできないコロナ感染拡大という不確定要素が大きく絡んでいたことは否定できない。
▽国政への橋頭堡
そうした状況からすれば、今ほど恵まれた環境はあるまい。時間はある。都政は凪状態だ。コロナに煩わされることも激減する。小なりと言えども国会に勢力を有する国民民主党との連携も進み、共同選対で合意した。
小池知事の子分筆頭である荒木ちはる都議の東京選挙区からの参院選立候補も決まった。国政復帰まで一足飛びとは行かないまでも、国政関与の足がかりはどうやらこの夏に実現しそうである。
だが、ファーストの会は都ファと同様、所詮、小池人気頼みのマイナーな政党に過ぎない。しかも、仮に都議ひとりが当選したからと言って、国会に化学反応が起こるとは思えない。
▽小池知事出馬は?
では、大将自らが出陣する可能性はあるのか。参院選のいわゆる比例区は非拘束方式である。政党名よりも候補者本人の名前が書かれた票を多く獲得したほうが有利な制度である。大願成就の第一歩として、小池百合子の絶大なネームバリューを使わない手はないのではないか。
加えて小池知事は今年7月、古希を迎える。満70歳である。政治家に年齢は関係ないとは言うものの、タイムリミットが徐々に迫っていることを本人も意識しているであろう。
一方、岸田首相には参院選を戦った先に「黄金の3年間」が待っている。衆院選も参院選もない3年間である。つまり、小池知事が参議院議員より衆議院議員のほうが良いといくら駄々をこねても願望は叶わないということだ。国政復帰を人生の最終目標に掲げるのであれば、手っ取り早く参議院議員のバッジを手に入れたほうが得策と考えるのが普通である。
▽二匹目のドジョウ
しかし、小池知事はそうした素振りを微塵も見せない。では、小池知事の頭の中には「維新の会」方式があるのだろうか。地域政党「大阪維新の会」が国政政党「日本維新の会」をコントロールして国政に深く関与するやり方である。
維新の会は地域政党立ち上げから10年以上をかけてやっと現在の勢力にたどり着いたのだ。いくら二匹目のドジョウとは言え、小池知事にそれだけの時間が残されているとは考えにくい。小池知事のことだ、「ファーストの会」で戦うと見せかけて、もっと大きな別の仕掛けを用意して勝負に出るのかもしれない。
いずれにせよ、これからの3か月間が政治家・小池百合子にとっての正念場である。本業の都政は役人に丸投げしても大丈夫だ。自身は得意とする政局をにらんで様々な策を巡らすことになるだろう。都知事を続けながら国政を遠隔操作するにせよ、一気呵成に国政復帰を目指すにせよ、小池知事が自らの出処進退を明らかにする時が近づいている。
小池知事、参院選まで「空白の3か月」でどう動く |
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【都政を考える】次期衆院選は3年後? 参院選への出馬はあるか
公開日:
(政治)
Reuters
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澤 章(都政ウォッチャー)
1958年、長崎生まれ。一橋大学経済学部卒、1986年、東京都庁入都。総務局人事部人事課長、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任。(公)東京都環境公社前理事長。2020年3月に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓。著書に『軍艦防波堤へ』(栄光出版社)、『ワン・ディケイド・ボーイ』(パレードブックス)、最新作に「ハダカの東京都庁」(文藝春秋)、「自治体係長のきほん 係長スイッチ」(公職研)。
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