小池知事が突如、副知事人事権を発動した。知事は都議会の最終日13日に人事案件を上程し、了承される見通しだ。
腹心とみられた多羅尾副知事と梶原副知事の2名の首をすげ替えると報道されたのは、令和3年第三回都議会の閉会日のわずか2日前だった。
副知事の指名は知事の専権事項である。しかし、議会の同意が必要である。通常はシャンシャンで済むが、過去には同意が得られず副知事人事が難航したこともあった。都議会の冒頭や途中で副知事案件を提案するのならまだしも、今回の場合、閉会直前とは都議会同意の手続きも軽く扱われたものである。
多羅尾氏は任期を8か月、梶原氏は1年8か月残しての退任である。しかも、小池知事は5年前に就任して以降、自ら指名した副知事を退任させたのはこれで4人目である。最も短い在任期間は1年9か月、まさに東京都の副知事は使い捨て同然の扱いと言っていい。
▽気がつけば周りは財務局主計部人脈だらけ
副知事の使い捨ては決して小池知事に始まったことではないが、小池知事の場合、ある特異な傾向が見て取れる。これまで都庁の副知事は、暗黙のうちに出身局のバランスを取ってきた。知事の頭脳である政策企画局長、人事の元締めである総務局長、金庫番の財務局長から副知事が選出されるケースがほとんどだ。
3局から順番に昇格させることで庁内均衡を保つという、いわば巨大組織の知恵が働いてきたのである。
ところが、小池知事は財務局出身者を重用して憚らない。すでに、特別秘書に財務局長出身(かつ副知事経験者)の村山氏を起用している。筆者が政策企画局の前身である政策報道室計画部の係長だったころ、主計部財政課長だった村山氏から「俺の目の黒いうちは、勝手に計画は作らせない」とすごまれた経験がある。今も昔も、主計部は都庁にあって泣く子も黙る部署なのだ。
さらに小池知事の横に黒子のように寄り添う長身の職員も主計部出身者である。彼の場合、50歳そこそこで局長級に異例の昇進を遂げている。そして、今回の副知事交代だ。新しい4人の副知事のうち2人が財務局長出身者という前例のない布陣が敷かれる。
これにより、小池知事は自分の周辺をがっちり財務局主計部人脈で固めることになったのである。
▽都財政「冬の時代」への備え
小池知事がここまで財務局を愛でるのはなぜなのか。舛添、猪瀬、小池の3代にわたり、都財政は順風満帆だった。都の貯金に当たる財政調整基金は1兆円近くまで積み上がり、毎年5~6兆円の都税収入が見込まれてきた。
ところが、新型コロナの感染拡大で事態は一変。対策に追われるうちに基金は瞬く間に底を突き、これに追い打ちをかけるように五輪パラリンピックの赤字問題が大きくのしかかる。まさに、真夏の太陽から厳冬の季節へ、都財政は冬の時代を迎えようとしているのだ。
小池知事にしてみれば、財政のプロで守りを固めようと考えても不思議ではない。
▽衆院不出馬、残任期3年は都政に専念か
だが、まだ疑問は残る。なぜ今、副知事人事なのかである。小池知事のことだ、ヒントは国政にあると見るべきだ。都民ファーストの会による国政政党「ファーストの会」設立と今月末の衆院選の間に補助線を引いてみると、小池知事の真の意図が浮かび上がってくるのではないか。
国政復帰の噂の絶えない小池知事だが、「ファーストの会」立ち上げがあまりに評判が悪く、設立前から泡沫政党扱いされる事態を受け、衆院選で自分が動くのは得策ではないと判断、そのアリバイ作りに副知事人事を利用したとみることもできる。つまり、副知事を一新して残された任期3年間を都政に専念します、国政には関心はありません、と小池知事は言外に表明しているのである。
ただし仮にそうだとしても、鵜呑みにはできない。都政専念の姿勢を副知事人事で偽装しつつ、その裏で戦略を練り直し、来年の参院選にターゲットを変更したのかもしれない。小池知事がそう簡単に国政復帰を諦めるとは思えないからである。
小池都知事が唐突な副知事交代、都政専念をアピール? |
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【都政を考える】財務局出身の偏愛が顕著、財政悪化への備えとも
公開日:
(政治)
Reuters
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澤 章(都政ウォッチャー)
1958年、長崎生まれ。一橋大学経済学部卒、1986年、東京都庁入都。総務局人事部人事課長、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任。(公)東京都環境公社前理事長。2020年3月に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓。著書に『軍艦防波堤へ』(栄光出版社)、『ワン・ディケイド・ボーイ』(パレードブックス)、最新作に「ハダカの東京都庁」(文藝春秋)、「自治体係長のきほん 係長スイッチ」(公職研)。
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