都議会内で不可解な動きが起きている。震源地は、小池知事が実質的なオーナーを務める都民ファーストの会である。都ファと言えば、7月4日の都議選で事前の惨敗予想を覆して30議席を確保し、小池人気の根強さを証明して見せた地域政党である。その都ファが五輪閉会と同時に、特別委員会を新たに設置してオリパラの「成果」を議論しようと他会派に打診しているというのだ。
都議会には9つの常任委員会がある。通常は、所管する局の予算や条例案を各委員会が審議し、その結果を本会議に挙げて議決に至る。これとは別に、特定の事案に関して集中審議するために時限的に設置されるのが特別委員会だ。5年前の市場移転問題に関する特別委員会が記憶に新しい。
その主旨からすると、五輪の「成果」を理由に今なぜ特別委員会なのか、まったく理解できない。むしろ、財政面も含めて五輪を検証することこそが都議会の役割ではないか。
だが、都ファには彼らなりの理由があるようだ。都議選で都ファは、五輪中止や延期には与せず無観客開催を選挙公約に掲げた。結果的に公約通りになった以上、その余勢を駆って五輪開催の成果を都議会全体で喧伝しようというのだろう。
■勝ち馬に乗った小池知事
こうした都ファの動きに小池知事本人が絡んでいないと推測するのはかなり無理がある。それは五輪を巡る小池知事の言動を振り返ればわかることだ。
6月下旬、都議選まっただ中の時期まで時計の針を戻そう。当時、小池知事が五輪中止を言い出すのではとの憶測がしきりに流れていた。しかし、知事は、五輪開催論議の渦の中には入ろうとせず、ただ、「安全安心な大会の準備を」と小声で言うだけだった。
ところが、7月23日、小池知事の態度が急変する。都議選後初開催となる都議会臨時会の冒頭、小池知事は「何としても大会を成功させるとの決意」を力強く宣言した。開催都市のリーダーであるにも拘わらず、オリンピックについてほとんど積極的な発言をしてこなかった小池知事が、開会式当日になって、ようやく「オリンピック賛成」を明言した。五輪という名の勝ち馬に最後の最後で飛び乗った瞬間だった。
五輪開催中、知事の口からは妙に浮ついた発言ばかりが聞こえてきた。例えば、24日の「東京大会は新型コロナとの戦いで金メダルを取りたい」発言である。コロナとの戦いをメダル争いに例えること自体、ひんしゅくものだが、そんな知事をあざ笑うかのように、東京の新規感染者数は3千、4千、5千と急拡大した。
それでも終わってみれば、日本選手のメダルラッシュに五輪を開催して良かったと感じる人の割合は6割超、世論調査の数字は極めて高かった。また、選手・関係者のコロナ感染が懸念されバブル方式の不備も指摘されていたが、開催を揺るがす事態には至らなかった。
小池知事自身、閉会式での着物姿といい、バッハ会長からの功労金賞の授与といい、「何としても成功」と大見得を切った甲斐があったというものである。
■五輪成功を手土産に国政復帰に舵を切る?
そうした状況下での今回の都ファの動きだ。小池知事の思惑と連動していないはずはない。都ファは、自らの無観客開催の正当性を誇示して存在感を示すと同時に、大会を成功に導いたのは我らが小池知事だったのだ、と主張したいのではないか。
都議会からの後押しは小池知事にとっても渡りに船だ。五輪開催の成果を最大限に喧伝し自らの手柄にできれば、次の展望も開けてくるのである。
こうした都ファと小池知事の連携プレーを深読みすれば、以下のような推測も十分に成り立つ。
小池知事は五輪が開会されるギリギリまで気配を消し旗幟を鮮明にしなかった。ところが、いざ開催となった途端、勝ち馬に跳び乗るように五輪成功を言い出した。閉幕後は、都ファを使って五輪開催の成果を強調する。困難な状況でもなんとかやり切れたのは小池知事のリーダーシップがあってこそ。小池知事も、これで開催都市としての責務は果たしましたと大手を振ることができる。
もちろん、デルタ株が主流となった新型コロナの感染拡大が一段落しない限り、おいそれと都知事の座を投げ出すわけにはいかない。だが、小池知事の頭には5年前の都知事初当選の時から国政復帰がインプットされていると見るべきだ。すべてがワクチン頼みとは言え、五輪をつつがなく終わらせたことにより、国政復帰への第一関門は通過できたのである。
数か月後、都民は、任期途中で責任を放棄して都庁から去って行く小池知事の姿を目撃することになるかも知れない。それも、五輪の膨大な負の遺産を残したまま。
小池知事は五輪成功を手土産に逃げ切りを図るのか |
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【都政を考える】都ファが「五輪は成功」と喧伝しようとしている
公開日:
(政治)
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澤 章(都政ウォッチャー)
1958年、長崎生まれ。一橋大学経済学部卒、1986年、東京都庁入都。総務局人事部人事課長、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任。(公)東京都環境公社前理事長。2020年3月に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓。著書に『軍艦防波堤へ』(栄光出版社)、『ワン・ディケイド・ボーイ』(パレードブックス)、最新作に「ハダカの東京都庁」(文藝春秋)、「自治体係長のきほん 係長スイッチ」(公職研)。
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