安倍政権の集団的自衛権行使容認に伴い米軍は自衛隊に何を求めてくるのか?
その要求を忖度して日本政府が取りまとめたのが、集団的自衛権行使容認の閣議決定を巡る自民、公明両党の協議の場であった「安全保障法制整備に関する与党協議会」に提出された「事例集」だ。(下記関連記事の1番目)
「事例集」では、集団的自衛権行使を必要する8つの事例を提示しているのだが、自衛隊の現状の能力ではできないことが1つある。それが「米国に向け日本上空を横切る弾道ミサイルの迎撃」だ。
我が国の弾道ミサイル防衛(BMD)の主力であるイージス艦搭載迎撃ミサイルの現状の迎撃高度では、仮に日本を超えてグアムに向かうような長距離弾道ミサイルの飛翔高度には届かないことは日本政府も認めている。(関連記事の2番目)
ではなぜ政府は、能力的に対処できないこの事例を法制上可能にすべきと提示したのか?
そこにはBMDを必要とする米軍の喫緊の課題があり、それへの対応は日本側の利害と一致するからである。
それこそが米空母の防護なのである。
話は5年前に遡る。米海軍協会が発行する機関誌で、海軍専門誌として著名な『Proceedings』2009年5月号には爆発・炎上する米空母の絵が表紙を飾り(関連記事の3番目)、内外の安全保障研究者に衝撃を与えた。
同号掲載記事と併せて読むと、表紙の絵は、中国が当時開発を進めていた対艦弾道ミサイル(ASBM:antiship ballistic missile)の攻撃を米空母が受けた状況を描いていたことが分かる。
これが示すように、米軍がより現実に起こり得る弾道ミサイルの脅威として認識しているのは、米本土への攻撃ではなく、中国のASBMによる米空母への攻撃なのである。当時は開発中とみられたASBMも、国防総省が今年公表した「中国の軍事力に関する米年次報告書」(関連記事の4番目)によれば、西太平洋における空母攻撃を狙いとして実戦配備の数を増やすに至っている。
中国ASBMの主力となるDF-21の射程は1,500km程度と見積もられており、仮に米空母がこの射程内への接近を拒まれるとなると、日本は大変困ったことになる。尖閣諸島を巡って中国との軍事衝突が発生した際に、米空母機動部隊の来援が期待できなくなるからだ。
これについて、香田洋二氏(元自衛艦隊司令官)は、ASBMによる米空母機動部隊への攻撃対処が、中国の「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)戦略に対抗する上で我が国の最優先事項であると指摘している(「日本海洋戦略の課題―米中の安全保障政策・戦略と我が国の対応策―」『国際安全保障』2014年6月)。
このASBM攻撃から米空母を防衛する有効な手段は、現時点ではイージス艦によるBMDしか選択肢がない。
「事例集」が集団的自衛権を行使してBMDで米領土を守るとした説明は方便に過ぎない。その真の狙いは米空母の防護なのだ。