公正な選挙は民主主義の根幹だが、違憲承知の公選法改正がまかり通る。1票の最大格差が3倍近い参議院・選挙区の新しい区割り案だ。これも「憲法の危機」である。
参院を通過したのは、自民党と維新など4野党の案。人口が少なく隣り合う「島根・鳥取」「徳島・高知」を合区(4議席減)したうえ、5都道県を各2議席増、3県を各2議席減の計10増10減。格差は2.97倍になる。
否決された民主党と公明党などの対案は、20県10合区を含む12増12減。格差1.95倍だ。
2013年の前回参院選(格差4.77倍)を「違憲状態」と断じた昨年11月の最高裁大法廷判決に照らして、両案を検証してみよう。
判決のポイントは①参院だからといって格差を大目に見る理由はない②憲法は都道府県を選挙区の単位とするよう求めていない③一部選挙区の定数増減ではなく選挙区制度の仕組み自体の見直しが必要――の3点。
また、あえて衆院の区割り基準の「格差2倍未満」に言及。衆院とかけ離れた参院独自の基準は容認できないことを強く示唆した。判決を素直に読めば、格差3倍近い自民案はアウト。民主・公明案はぎりぎりセーフだ。
参院でも「2倍未満」が合憲の目安と意識されてきた。西岡武夫議長(当時)は全国を9ブロックに分け格差を1倍強に圧縮するタタキ台を提示。選挙制度協議会座長の脇雅史参院自民党幹事長(当時)は、11の合区で格差を2倍未満にする案を示している。
脇氏は、今国会の自民党の対応を「違憲の疑いがある」と批判し、会派を離脱した。
違憲承知の法改正に加え、国会自身の約束違反もある。公選法の附則は、来年の参院選までに「選挙制度の抜本的な見直し」を明記していた。47都道府県中、わずか4県の合区は「抜本的」にほど遠い。公約を守れず先送り。「良識の府」の名が泣こう。
民主主義は、多数決で物事を決める仕組みなのに、1票に3倍近い差がつくと、何が多数かわからなくなる。安保法制で政府・与党は、半世紀以上も前の砂川事件の最高裁判決を引っ張り出したが、都合が悪いと、直近の最高裁判決も無視するのが「政治」なのか。
時間はたっぷりあった。最高裁が最初に「仕組み自体の見直し」を注文したのは6年も前だ。今の選挙制度で当選してきた議員は、現行制度の「既得権益者」に他ならず、自己改革を期待でないことが、はっきりした。
「憲法の番人」の最高裁が、鼎(かなえ)の軽重を問われる番だ。結局、合憲の基準を満たすまで、選挙無効(やり直し)判決を出し続けるしかないと、腹をくくることだ。
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参院、違憲承知の格差2.97倍の選挙制度改革を可決
公開日:
(政治)
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土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版) |
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