国会では統合型リゾート(IR)実施法が成立した。カジノ実施法とも言われるように、最大の眼目は日本に合法的な賭博場を作ることだ。
法律が定める「上限は3カ所」に対して多数の自治体がカジノ誘致を目論むが、中でも大阪が当選する可能性は低くない。7月20日の法成立を受けて同月23日、大阪ではカジノに反対する市民グループ3団体が大阪府庁で記者会見し「カジノを認めるかどうかは地元の住民投票で決めるべき」との声明を発表した。
大阪では大阪湾の人工島「夢洲(ゆめしま)」(大阪市此花区)が、カジノ建設の候補地だ。「大阪維新の会」の松井一郎知事と吉村洋文・大阪市長はそろってカジノに積極的。
府市両議会も維新と公明会派を合わせると過半数あり、議会でカジノが阻止されることはまずない。政治的に受け入れ態勢が整っているという事情から大阪は有力視されている。
このようにカジノ誘致に“有利”な一方で、他にはないマイナス要因がある。夢洲は大阪市内で発生した廃棄物や残土で作られた大阪湾に浮かぶ埋め立て地である。南海トラフ巨大地震では津波に襲われたり、護岸沈下や液状化の危険が指摘されており、災害がなくても地盤地下はほぼ確実に起こりうる。
カジノ誘致に反対する阪南大の桜田照雄教授(会計学)は「傾いた建物の中でカジノなんてできるのか」と首をかしげる。総面積390ヘクタールのうち埋め立てが完了しているのは4割ほどで、カジノ計画が持ち上がる前は、2028年まで廃棄物処分場として使う予定だった。
松井知事らは2024年にIRオープンを目指しており、埋め立て計画を大幅に前倒しして関連施設が建設されることになる。このため、地盤とともに環境面での安全性が確保されるのかも疑問視されている。
市民レベルで言えば、大阪市民は現在、家庭ゴミを捨てるのは無料だが、それが有料化される可能性も大きい。夢洲は大阪市が税金を投入して整備した巨大なゴミ箱なので、市民は無料で利用していた。
そこが廃棄物処分場として使えなくなれば、さらに大阪湾の沖合にある「新島(しんとう」」という近畿2府4県で作る処分場に捨てることになるが、ここにゴミを捨てるのは有料なので、その負担が市民に回ってくることは十分考えられる。
もう一つ、夢洲の大きな課題は交通インフラが脆弱なことだ。現在は埋め立て済みの部分をコンテナターミナルとして使用しているだけなので、船以外のアクセスは車両用の橋とトンネルが1本ずつ。鉄道は通っていない。
IR建設には鉄道の延伸が不可欠で、何千億円もかかるインフラ整備費用の負担をどうするかが問題となる。地元の財界もインフラ整備を負担するのは難色を示したため、“煙幕”として登場したのが国際博覧会(万博)だ。
夢洲へのカジノ建設は2009年ごろから橋下徹・前知事が言及するようになり、誘致に向けて準備が進んでいたところ、2014年、松井知事が同じ場所に2025年開催の万博誘致を表明した。万博ならば財界も費用負担を了承するという筋書きだ。
7月5日夕刻、西日本豪雨の始まりとなる土砂降りの雨の中、大阪市此花区の公園に約80人の市民が集まり集会が開かれた。「カジノ実施法案に反対する」市民集会だ。カジノ反対が趣旨ではあるが、スピーチに立った人の発言は「万博」にも及んだ。
6月にパリで行われた博覧会事務局(BIE)総会のプレゼンテーションでは、ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授が起用された。「山中教授にギャンブル依存症を治療するiPS細胞を開発してくれるのかと聞きたい」との発言も出た。参加者は集会の後、「カジノあかん」とシュプレヒコールを上げ、大雨に濡れながら約1キロのパレードを行った。
大阪万博についてはいまのところ、必要経費1200億円を、国、大阪府と大阪市、地元財界で、400億円ずつ負担することとなっている。前出の桜田教授は「カジノのオープンが2024年目標になったのも、2025年開催の万博を見据えてのこと」とする。
そのうえで「企業からすれば、カジノがらみで費用負担をするのは株主代表訴訟が怖い。
万博だから金が出せるわけで、万博までにカジノもインフラ整備もごちゃまぜにして万博関連費用にぶっ込んでしまおうというのが松井知事ら『大阪維新の会』の思惑でしょう」と分析する。
埋め立て中の人工島で、2024年に70ヘクタールのIRを作り、そこに隣接する60へクタールで2025年に万博を開催する、というのが今の大阪のビジョンである。
桜田教授が代表を務める「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」など複数の市民団体は、BIEや各国の大使館に「大阪が誘致しようとしている万博は、カジノ建設が目的だ」とする手紙を昨年から郵送している。今年3月に現地視察に来たBIE調査団のメンバーもこの手紙を読んでいたという。万博の開催地は今年11月に決定する。
大阪万博は、IRのためのインフラ整備か |
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大阪万博11月に決定、開催費用は地元財界が3分の1
公開日:
(政治)
大雨の中のデモ行進=大阪市此花区で
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幸田 泉(ジャーナリスト)
立命館大学理工学部卒業。1989年に大手新聞に入社。大阪本社社会部で大阪府警、大阪地検など担当。東京本社社会部では警察庁などを担当。2012年から2年間、記者職を離れて大阪本社販売局に勤務。2014年に退社し、販売局での体験をベースに書いた『小説・新聞社販売局』(2015年9月、講談社)がその赤裸々さゆえにベストセラーに。大阪市から府に22の高校が無償で移管された件での住民訴訟を書いた『大阪市の教育と財産を守れ』(2022年5月、アイエス・エヌ)も出版。
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