万博だカジノだと派手な政策が打ち上がる大阪市で、静かに動いているのが「総合区の導入」という姿を借りて進む「大阪都構想の復活作戦」だ。
総合区とは、政令指定都市の従来の行政区よりも権限と財源を大きくして住民自治を拡充する制度で、地方自治法の改正により政令市は行政区を総合区に代えることができるようになった。2016年8月から松井一郎・大阪府知事と吉村洋文・大阪市長が参加して、大阪市は検討中の総合区案について住民説明会を開いているが、市民の集まりは芳しくない。
それもそのはず、松井知事も吉村市長も大阪市に総合区を導入しようなどと本気で考えてはおらず、「総合区を検討した」というアリバイ作りのために説明会を開いているだけなのだ。大阪市民がこんな住民説明会に付き合いが悪いのは無理もない。
松井知事と吉村市長が茶番の住民説明会を開催するのは、両氏をはじめとして府市で与党の「大阪維新の会」が掲げる「大阪都構想」の実現を目指してのことだ。大阪市を廃止して5つの特別区に分割する大阪都構想は、2015年5月に行われた住民投票で否決された。
しかし、同年11月の大阪府知事と大阪市長のダブル選挙で「大阪維新の会」の松井知事と吉村市長が勝利し、「大阪都構想に再チャレンジする」と、市民の手で葬ったはずの政策を蘇らせのだ。
大阪都構想に反対する自民党や公明党は「大阪市を廃止するのではなく総合区の導入」を主張しているため、松井知事と吉村市長は「総合区か大阪都構想かで住民投票をする」と妙なことを言い出し、総合区に関する大阪市の住民説明会が行われることとなった。
地方自治法では総合区を導入するには議会が可決すればいいので住民投票の必要はなく、大阪都構想との二者択一を迫る住民投票をしてもその結果に法的拘束力はない。大阪都構想実現のためには結局また2015年5月と同様の「大阪市を廃止して特別区に分割するのに賛成か反対か」を問う法定の住民投票をしなくてはならないのだ。
松井知事と吉村市長は、住民投票が度重なるのはさすがに市民受けが悪いと気づいたのか、それとも大阪都構想に賛成を呼び掛ける維新側の宣伝費がかかり過ぎるからなのか、最近になって方針を変遷させた。「総合区の導入を市議会で可決した後、大阪都構想の住民投票を実施する。住民投票で賛成多数になれば都構想を実行し、反対多数なら総合区を導入する」と言うのである。
ここまでこんがらがった政策に、まともについて来ている大阪市民がどれだけいるだろうか。
2015年5月に実施された大阪都構想住民投票で反対派の中心的論客だった柳本顕・元自民党大阪市議団幹事長は「松井知事や吉村市長は大阪都構想を掲げながらも総合区の導入を検討しているので、一見、政策が迷走しているようだが、実は都構想の実現に向け周到に布石を打っている」と見ている。
自民党大阪市議団は現在の24行政区を総合区に「格上げ」する案を提唱しているが、吉村市長は行政区を合区して5~11の総合区とする複数の案を住民説明会で示している。柳本氏は「最終的には24行政区を6つ程度の総合区に合区する案に絞ると思う。一方で、大阪都構想の修正案として再び策定する特別区の案も、総合区案の区の数と全く同じになっているはず」と予測する。
つまり、仮に24行政区を6区に合区するとしたら、今後は「6つの総合区がいいか、6つの特別区がいいか」を市民に示すという流れになるのが濃厚だ。区割りの数をそろえておけば、「大阪市の一部である総合区より、独立した自治体の特別区の方がいいですよ」と世論を大阪都構想に誘導しやすくなる。
松井知事、吉村市長ら「大阪維新の会」が描くのは、大阪都構想に向けて総合区案を踏み台にするシナリオだ。
柳本氏は「吉村市長の目標が大阪市を廃止して特別区に分割する大阪都構想なので、大阪市の総合区の検討が24行政区をいくつの総合区にするかという話になってしまっているのが極めて残念」と嘆く。
大阪市の24行政区も課題は様々だ。外国人観光客で賑わう繁華街もあれば、住民の貧国対策が課題のエリアもある。「どの行政区にどういう権限を与えて総合区にすれば住民にメリットがあるのか。総合区はそこが最も重要なのに、中身の議論に手がつけられていない。
各行政区の課題に特化した権限と財源を持つ総合区にすれば、エリアの特性を引き出せるし、夢のある政策にもなると思うのですが」と柳本氏は言う。
「大阪維新の会」の政治家たちは、大阪都構想を掲げて勢力を拡大した成功体験が忘れられないようだ。何とかして2015年5月の住民投票より以前に、時計の針を逆戻りさせようとしている。その懐古趣味が今は「総合区の検討」という仮面を被っているに過ぎないのだろう。
大阪維新、総合区踏み台に都構想の復活めざす |
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大阪市長が総合区か都構想かで住民投票へ動き
公開日:
(政治)
都構想の復活狙う松井府知事=共同通信社
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幸田 泉(ジャーナリスト)
立命館大学理工学部卒業。1989年に大手新聞に入社。大阪本社社会部で大阪府警、大阪地検など担当。東京本社社会部では警察庁などを担当。2012年から2年間、記者職を離れて大阪本社販売局に勤務。2014年に退社し、販売局での体験をベースに書いた『小説・新聞社販売局』(2015年9月、講談社)がその赤裸々さゆえにベストセラーに。大阪市から府に22の高校が無償で移管された件での住民訴訟を書いた『大阪市の教育と財産を守れ』(2022年5月、アイエス・エヌ)も出版。
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