安保関連法案を巡る論点の1つに、国会の事前承認が歯止めとなるのかという問題がある。
歯止めになり得ないとする理由としては、政府が正確な情報を国会に提供するのかという疑念がある(NHK)。
実際、政府が情報操作で議会に戦争の同意を取り付けるという事例は決して特殊なことではない。近年では米ブッシュ政権がイラク戦争(2003年)に突入するために、イラクが生物・化学兵器を大量に保有しているとの情報操作を行ったことが知られている。
さて我が国でもこうした政府による情報操作が起こり得るであろうか?
実は、我が国でも既にそれは起こっている。実際に筆者が確認したところでは、イラク復興支援活動に派遣された自衛隊部隊の内部文書と、同活動の完了に伴い政府が国会に提出した報告書との間には見過ごせない齟齬があったのだ。
安保関連法案の審議において、自衛隊のイラク復興支援活動に改めて焦点が当たったので、筆者は情報公開法により過去に開示を受けた派遣部隊の内部文書を改めて読み直してみた。すると、2009年7月に政府が活動成果について国会に提出した報告書である「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法に基づく対応措置の結果」と内容において大きな齟齬が見つかったのだ。
例えば政府報告書にある現地での空輸取り止め状況の一覧(「運行取り止めの状況」。表紙から25枚目)では、平成20年度は31回の中止と明記されている。
一方、派遣空自部隊の内部文書の1つである「イラク復興支援派遣輸送航空隊第15期活動成果報告」では、空輸任務に就いた平成20年4月18日~8月19日までの空輸中止の回数は計37回とある。イラク復興支援活動は平成20年12月で終了しているので、平成20年度の活動は4月から12月までの約9ヵ月間だが、それでも活動期間のおよそ半期の時点で政府報告書で報告された回数を既に超えているのだ。
また政府報告書では脅威情報に起因する中止を平成20年度は0回としているが、現地部隊報告書では不開示(黒塗り)のため回数は不明だが、何回かあったことが認められる。
中止回数を巡る両方の齟齬は、現地の危険度を低く見せるため、政府報告書では中止回数が下方修正されたためと筆者は疑っている。
また輸送回数や輸送人員についても、別の内部文書である「イラク復興支援派遣輸送航空隊史」が示す数字は政府報告書と全く食い違うのだ。
このように承認を必要としない事後報告についても、政府の説明は疑問だらけなのである。
もし戦争を求める政府が上記のように数字を操作して偽りの危機を煽っても、安保関連法案にはそれを見抜く制度的担保を国会に何も与えていないのである。