支持率が急落している安倍政権が人気回復策に本腰を入れ始めた。機軸になるのは高支持率の源だった経済政策「アベノミクス」への回帰策だ。安保法制など政治色を薄め、身近な経済政策を中心に据えて、求心力の回復につなげる考えだ。
安倍政権の支持率は安保関連法の衆院での与党単独可決により、急落した。政権発足以来はじめて大半の世論調査で不支持率が支持率を上回った。首相官邸周辺には危機感が高まっている。
アベノミクスへの意識的な回帰の第一弾は、腹心、甘利明経済担当相の22日の発言だろう。「消費税を10%より上げることはない」と語り、将来増税を打ち消す「政策」を確約した。そんな先の話は一閣僚が確約したところで意味がないのに、である。
続いて23日には安倍首相自身が、最低賃金に関し、「大幅な引き上げが可能になるよう全力を挙げる」と述べ、民の生活に気を配る姿勢を見せた。成長戦略など重点的な政策に配分する4兆円の特別枠を来年度予算案に設ける予定で、その具体策を打ち出す構え。環太平洋経済連携協定(TPP)の受け入れの際の対策を前倒しするなど、いろいろな経済政策を打ち出していくとみられる。
もちろん、国立競技場の設計の見直しも、支持率回復策のひとつだ。当初計画の1500億円まで削りこむ考えで、無駄遣い批判を回避する構えだ。そこまで切り込めればかなり大胆な変更だ。ただ、ここまで施行、設計を担ってきたのが文部科学省とその外郭団体であるだけに、計画見直しを「英断」とする見方から、そもそも安倍政権の失敗との見方に転じる可能性が高い。官邸はそのリスクを十分認識しており、下村博文文科相の更迭の前倒しも検討している。
新国立競技場の問題に関しては、関係者の責任のなすりあいのような情報リークが始まりかねない様相もはらんでいる。失言居士の森元首相にスポットライトが当たっているのが不透明感を増幅している。実態が明らかになるにつれ、それが支持率低下に拍車をかけかねないリスクがある。
経済回帰と新国立競技場問題での踏み込んだ措置。なりふり構わぬ人気回復策だが、それでも、支持率低下に歯止めがかかるかどうかは不透明だ。週明けには参院で安保法制の審議が始まるうえに、この夏中には川内原発の再稼動、沖縄県の辺野古の基地建設問題、戦後70年談話など鬼門が次々に待ちうけている。
夏休みに地元に帰った国会議員が突き上げをくらって東京に戻り、与党内の空気が変わる可能性もある。自民党支持層にも安保法制への懐疑は根強いものがある。アベノミクス回帰というハンドルを切りそこなうと、執行部への不満が噴出しかねない。とりわけ、来年の選挙を控える参院では深刻さは増すだろう。
外交から経済へ政策の重点を移して成功した例はある。日米安保条約の改定をめぐる反発から退陣した岸首相に代わって登場した池田隼人首相が所得倍増計画を打ち出した。これで当時の自民党は息を吹き返した。まさに安倍政権はこの戦略を踏襲しようとしているのだが、あの時は、首相交代を伴った。主役を代えずに、イメージチェンジが果たせるのか。安倍政権はこの難題に取り組もうとしている。
アベノミクス回帰で支持率回復を期す |
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安倍政権が政治色薄め、経済政策を中心に
公開日:
(政治)
Reuters
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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