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無傷の安倍政権と、肥大化した首相権限

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手放しで喜べない、黒川検事長辞任

公開日: 2020/05/21 (政治)

CC BY-ND CC BY-ND /torisan3500

土屋 直也 (ニュースソクラ編集長)

 週刊文春のスクープにより黒川弘務東京高検検事長が自粛要請の最中に、新聞記者の自宅で賭けマージャンをしていたことが発覚、黒川氏は今夕にも更迭か辞任する見通しとなっている。検察の実質ナンバー2が自粛要請破りをしていたとは言語同断で、辞めるのは当然だ。

 だが、黒川氏の辞任を「成果」として溜飲を下げている場合ではないだろう。肝心の安倍政権が持つ「体質」が何も変わらず温存されることになりかねないからだ。

 2月に63歳の定年を迎える黒川検事長の閣議決定による定年延長は、初めから異様だった。過去に適用事例のない検察官への定年延長を国家公務員法で強引に実施したのは、露骨な検事総長人事への政治の介入と多くの人が受け止めた。

 首相官邸が稲田検事総長に早期辞任を迫ったという、12月以降の経緯が漏れ出し、水面下での攻防戦が透けて見えるようになった。その延長線上に浮上した定年延長という手法には、様々な点で違法であることが濃厚な中、それでも無理を押し通す安倍政権らしさが満載だった。

 黒川氏が辞任し、同氏の検事総長が実現しなかったことは、安倍政権の強引な手法と意図が潰えたという点で不満を持っていた方々にとっては「快哉」を叫びたくなることだろう。

 しかし、黒川氏の検事総長就任がなくなるとすれば、それは本人の「過失」によるものだ。いわゆる「事故」の記録だけが残り、官邸は決定的には傷つかなかったのではないか。

 内閣支持率も、さらに低下する可能性はあるものの政権がゆらぐほどかどうか。むしろ、忖度できる役人(検察官を含む)だけが出世し生き残るという安倍政権の「本質」はむしろ強化されかねない。記憶に新しい「アベノマスク」のように、重要な決定がほんの数人の思いつきで実行されていく体制が続いていくだろう。

 そもそも、黒川氏が本当に官邸の言いなりの「忖度」役人だったのかどうか、疑問を持つ人が事情通の間では少なくない。甘利元経済産業相の現金受け取り事件なども、報道で知る限りは、どうしてこれほど露骨な事件が立件できないのか、という案件だったが、法律的には詰め切れていない(たぶん告発者の発言の信用性に疑問があったことなどがあるのだろう)として、検事総長が見送りを決断していたという。

 公文書改ざんで財務省の近畿財務局では自殺者まで出した森友学園事件についても、やはり当時の総長が消極的だったとされる。黒川氏が官邸の意向を受けて体を張って阻止していたというのは言いすぎだという人もいる。

 黒川氏が東京高検検事長になってからも、傘下の東京地検特捜部は秋元議員をカジノ疑惑で逮捕、起訴しており、久しぶりの現役国会議員の逮捕に踏み切った。検察内の会議では、いつも一番立件に積極的なのは黒川氏だったと証言する人もいる。

 検察行政の立場からも黒川氏の貢献度は高い。検察は自白に頼る捜査手法からの脱皮を迫られるなかで、新しい武器がなければ巨悪犯を立件できないという焦りがあった。司法取引が法的に認められたのは、人権の面から問題視する人も多いとはいえ、組織としての検察の権限強化、ひいては犯罪者を見逃さないという意味では評価されてもいい「成果」だった。

 黒川氏を直接知る人で、彼のことを激しく非難するひとは多くない。よく知る人は、長い目でみて「日本」にとっての公益の観点から、必要なことをやってきた視野の広い人、とまで評価する声が多い。私はそう判断するほどには彼を知らないが、権力者に近づいたようにして「理想」により近づくために小さな妥協も辞さない、官僚としてはお手本のような人、という評価なのである。

 一官僚にそんな評価が現れるのは、現在の霞ヶ関(官庁)と永田町(政界)がかなりの閉塞状況、安倍一強支配のという独裁的な状況にあることの反映だ。強い首相権限の暴走にあきれた人は、水面下であろうと、それに歯止めをかける人、そういう才覚のある人にすがりたくなる。

 いかに「政治主導」の建前のなかで、官僚が公益の番人(あるいは代弁者)としてとんでもないリーダーたちを軌道修正させるかは、重要な役割になっている。そのためには、政治家という人間を巧みに操縦する「人間力」が必要だと思われている。

 昔から、影で権力を握る官僚が居る一方で、黒子に徹しながら理想と公益を追求していた官僚もいた。人間の世界だから、どうあろうと「人間力」の高い者がいると、一回り違った社会が実現していく。それは古今東西変わらない真実でもある。だが、そういう幸運にたよるのでなく、政権の「横暴」を防ぐ、制度変更が必要なのではないだろうか。

 安倍長期政権を振り返ってみると、違憲の疑いの残る安保法改正、森友問題での公文書改ざん、桜を見る会での後援会関係者への国費での接待など、検察庁法の改悪と同様の問題が山のようにある。制度改正で歯止めをかけないと、まだまだ繰り返されることになるだろう。

 もともとは、首相権限の強化は、むしろ世論が求める形で強化されてきた。各省が省益にとらわれて、必要な政策実行の障害だとの認識が広まったからだ。

 首相権限の強化の究極の完成形が、国家人事局の創設による幹部官僚人事を官邸が握ったことだった。

 だが、強化された首相権限は、「乱用」され、見ようによっては世界で猛威を振るう「独裁者」たちに安倍さんも連なりかねないようにみえる。

 首相の人事権をいまよりは弱めるべきだ。

 検事総長や日銀総裁、公取委員長や国税庁長官、人事院院長や内閣法制局長官など、チェック機能といえる機関の長は、首相でなく首相と国会で選ぶ人事委員会のような賢人会議を作ってゆだねる必要はないだろうか。

 国会議員はそれは国会の仕事と言うだろう。だが、下手をすると安倍さん以上に野党は信用されていないという現状認識から出発する必要があるのだろう。
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土屋 直也(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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