前回に続き、安保法制をめぐる諸問題について、お話をうかがった。(聞き手:ニュースソクラ編集長 土屋直也)
―― 安保法制が閣議決定された5月14日、安倍首相は会見を開き、米国の戦争に巻き込まれることは絶対にあり得ない、戦争法案というのは「無責任なレッテル貼りだ」、という旨の発言をしていましたが。
これまで70年間、制服を着た日本の自衛隊員が海外で、殺されないし、殺さなかった。だから、一発も銃弾を撃っていないというのは、自衛隊の自慢ですよね。それが今後は、後ろから参戦する「後方支援」であれ、後前関係なしに参戦する「集団的自衛権」であれ、戦争したことのない日本が戦争をすることになる。
世界中でけりがつかない戦争ばかりやってきたアメリカ。そのために人心も疲弊してきたし、財政も破綻してきているじゃないですか。だから、何人ものアメリカの当局者は私に聞いてきたんです。「いつ日本は憲法9条を改正して、アメリカと一緒に戦争できる国になってくれるの?」とね。
だから、日本国政府の公式の解釈と称する開き直りで、憲法9条の枠組みを取っ払ってしまった以上、アメリカは「助けにきて」というに決まってるじゃないですか。今までできなかった戦争に、日本が参戦する以上、日本にとって危険は増しますよね。
だけど、いろいろな人が自民党に問いかけると、「いや、危険は増しません」という答えが返ってくるんです。その根拠としていわれることは、二つです。
一つは、アメリカと仲良くなることによって、襲われる危険性が減るから、安全になる、という理屈。
もう一つは、戦闘が起きたら自衛隊は帰ってくるようになっているから、という理屈です。この考え方は、昔の周辺事態法の「後方支援」という言葉にすでに含まれています。後方支援をするということで考えられているのは、戦闘が起きていない場所で後方支援をし、戦闘が起きたら中止・撤退をしなさい、ということですから。
でも、実際には、撤退なんてできますか? 戦地に助けに行くわけでしょ。周辺事態法で設定した「非戦闘地域」というのは、過去・現在・未来にわたって、戦争のない所、という保証があって設定されていたわけですよね。だから、イラクで戦争があったときにも、誰も使っていない砂漠の中に基地を作って、でも日本が基地を作ったらミサイルが何発も飛んできた。今のルールだったら、ミサイルが飛んできたら自衛隊は帰ってくるそうです。
今回の安保法制では、後方支援といっても、アメリカ軍と一体になって行動するわけです。じゃあ、その軍が攻撃されたら自衛隊は帰ってくるんですか? 帰ってこられるわけないですよ。そんなときに帰ったら、戦っているアメリカ軍は殺されますし、そんなときに帰るのは仲間とはいえないです。
あるいは、敵側から見たら、敵将と戦うときに、敵将の馬を狙えばいいんですよ。日本は「後方支援」で、まさに馬なわけですからね。しかも、自衛隊は銃を引くことに消極的ですからね。ぼくが敵だったら、日本を狙います。
それか、敵としたら、前線で戦っているアメリカ軍の裏にまわればいいんです。そうしたら、挟み撃ちにできますからね。前線のコンバットが来る間、敵は「後方支援」をしている日本に対して、やり放題ですよ。
だからね、「アメリカと仲良くなることによって襲われる危険性が減る」「戦闘が起きたら自衛隊は帰る」なんていう、戦争ごっこをする子供でも気が付くようなウソをついちゃいけないですよ。