自民党総裁選は、安倍首相のほかに立候補者がなく、無投票当選となった。立候補に意欲をみせた野田聖子前総務会長は、17-18人まで推薦人を集め、後一歩まで詰め寄っていた。薄氷の勝利だったといえる。
8日午前八時過ぎ、野田氏が会見すると「これで安保法制の成立に専心できる」と安倍官邸の幹部たちから安堵の声が漏れたらしい。だが、昨晩に「後2人」との情報が入ると、安倍首相が「何をやっているんだ」と周囲に怒りをぶちまける場面もあったとされる。
代表選となると、「内閣が変わる可能性があるのに」と野党が審議に応じなくなりかねない。安保法制の成立が危うくなりかねないと官邸は危機感を募らせ、推薦人が出そうな派閥への人事権を絡めた圧力をかけ続けていた。
官邸が警戒したのは、安保法制への反対を鮮明にした山崎拓元自民党副総裁の流れをくむ石原派や、もともとリベラル色が強く、古賀誠名誉会長が野田氏を推していた岸田派、それに政権と距離のある額賀派だった。いずれも、会長や幹部クラスが若手を抑えて、結局は大きく崩れることはなかった。
ただ、1週間ほど前には11人くらいしか推薦者が集まっていない、と劣勢が際立っていたが、最後になって人格者で知られる尾辻氏が支持を表明したことや、古賀氏が若手を口説いたとされ、6-7人の上積みがされたという。尾辻、古賀の両長老は、安保法制に内心は反対で、総裁選が法案成立へのハードルになると踏んで動いたとされる。自民党内にくすぶる安保法案へのスタンスが総裁選での裏テーマだったといえる。
自民党内が固まったことで、安倍政権は安保法案の成立にまい進しそう。通常なら無投票当選が決まったのを受け、本日中に開かれるはずの両院議員総会と記者会見は、安保法案の成立後に先送りになったもよう。
安保法案は16日ごろの参院での委員会採決が見込まれている。野党は内閣不信任案など徹底抗戦路線をとりそうだが、来週中の成立はほぼ確実な情勢といえる。安倍首相は27日から国連総会出席のための米国訪問に出る予定で、党役員や内閣改造は10月2日の帰国後、週末の3、4日に党3役人事、5日の月曜日に内閣改造で日程調整が始まっている。
秋以降の新・内閣では経済政策シフトを強めそう。それをてこに、安保法案後に下落が見込まれる内閣支持率の引き上げを狙うことになりそうだ。だが、中国経済の不安定化を震源に世界経済は流動化し、環太平洋経済連携協定(TPP)も締結機運は後退している。支持率反転を見込めるような、手ごたえのある経済政策を打ち出すのは簡単ではないだろう。
自民総裁選、将来の女性宰相候補の野田氏つぶし |
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来週16日ごろに安保法案を採決へ
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(政治)
出馬断念を表明した野田氏=8日、共同通信社
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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