こう憤って見せたのは、「ハマのドン」と呼ばれる藤木幸夫氏(89)である。
林文子・横浜市長が、22日、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を表明。立地場所が山下埠頭で、かねて「カジノ反対」を掲げていた横浜港ハーバーリゾート協会(リゾート協会)会長の藤木氏は、翌23日、山下埠頭内の横浜港運会館で記者会見を開き、林氏を批判した。
だが、舌鋒鋭くというのではない。治安の悪化を恐れる市民の反発が激しく、「市長解職請求のリコールの可能性」に記者が言及すると、「それは可哀想だ。任期は後、2年(17年7月に3選を果たし、任期満了の21年7月で退くと見られている)。見守ってやりましょうよ」と、気遣う。
それは、横浜カジノが林氏の意思ではないことを知っているからだ。カジノ誘致をもたらしたのは、軍事力や経済力で他を圧する「ハードパワー」だといい、その力に林氏は屈し、自分は「命をかけて反対する」という。
名前こそ挙げなかったが、「ハードパワー」をもたらしているのが米トランプ大統領であるのは明白だ。大統領の意向は安倍晋三首相に伝えられ、それを横浜を地盤とする菅義偉官房長官が引き受け、林市長に伝えると否も応もなかった。
そのトランプ大統領の最大級のスポンサーで、大統領選に2000万ドル、大統領就任式に500万ドルを献金したのが、米やシンガポールでカジノを展開するラスベガス・サンズのシェルドン・G・アデルソン最高経営責任者(CEO)だった。
横浜がIR誘致を表明した22日、サンズはホームページで「大阪でのIRは追求せず、東京と横浜での開発機会に注力する」と、発表した。
昨年10月、調査報道で知られる米メディアの『プロパブリカ』は、17年2月の安倍訪米の際、アデルソンCEOは米商工会議所の朝食会で安倍首相に会い、「カジノの話題」を持ちかけ、その週末にトランプ大統領は、フロリダ州の自らのゴルフ場「マー・ア・ラゴ」に安倍首相を招待してプレーを共にしたが、その際、「サンズの日本参入を持ちかけた」と、伝えている。
非常にわかりやすい「ハードパワー」である。
本来、藤木氏はカジノ誘致賛成の立場だった。「友人、知人、信頼する人などが、等しくカジノに魅力を感じ、横浜に誘致の風が吹いていた。私は、横浜から出ている偉い人(菅氏のこと)に、『オレはやるよ』と、宣言した」という。その頃は、新聞や週刊誌などにもカジノ誘致を公言していた。
変化するのは、カジノ依存症の怖さを専門家に聞くようになってから。勉強会を重ねるうちに、「これはダメだ」と、確信したという。「パチンコや競馬などの公営ギャンブルが、時間をかけて勝負するのに対し、カジノは秒殺のギャンブル。依存すれば、人を殺してしまう」と、警告する。
同時に、誰が収益を持ち去るのか。山下埠頭から港湾業者を追い出し、IRを設置すれば、サンズなど海外の業者が7割の収益を持っていき、「山下埠頭を植民地にしてしまう」と、憤った。

横浜市が想定するIRの事業効果は、訪問者数年間4000万人(最大の見込み数字、以下同)、経済効果1兆円、自治体の増収効果1200億円。これに対してリゾート協会の再開発計画は、国際展示場だけで年2兆円の経済効果(他の事業は試算中)を見込んでいるという。
横浜の港湾業者を束ね、菅官房長官を横浜市議前の小此木彦三郎代議士の秘書時代から知り、二階俊博・自民党幹事長など中央政界にも顔の広い藤木氏だが、「ハードパワー」に抗することができるのか。
「依存症を含めたカジノの怖さを、日本全体にアピールするつもりはない。私は横浜の村人。村のことしか考えていない」
こう「ハマのドン」らしいミーイズムで会見を締めくくった藤木氏だが、横浜の住民反対運動もミーイズム。その連帯と「ハードパワー」との対決、ということになりそうだ。