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岸田首相は安倍元首相よりも「新自由主義的」だ

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立命館大の松尾匡教授に「新しい資本主義」を聞く

公開日: 2022/06/15 (政治)

Reuters Reuters

 立命館大学の松尾匡教授に岸田政権の目玉政策である「新しい資本主義」についてインタビューした。「新自由主義からの脱却」とは実は名ばかりで安倍政権以上に新自由主義的であるという。どういうことなのだろうか。(聞き手 角田裕育)

▽「新しい資本主義」の原案は経団連の「新成長戦略」

― 岸田内閣の発表した「新しい資本主義」についてどう思われますか?
松尾 経団連が公表していた「新成長戦略」の焼き直しと思われます。リベラル受けのする綺麗ごとが書かれていますけど、実際やっていることは企業側のいいなりですよ。

― 株主至上主義とかサステイナブル(持続可能)な資本主義とか書かれていますね。菅政権の時に出たキーワードばかりですね。
松尾 結局、安倍・菅路線をほぼ踏襲せざる得なくなったということなんですね。

― 今、消費者物価が2%台に上がっていますが?
松尾 景気は良くなっていません。コロナ前の状況に実体経済は戻っていません。輸入関係の原油とか穀物などが上がっています。
 東京商工リサーチが輸入価格や原材料価格が上がっているコストを売値に転嫁出来ているかというアンケートをしていて、約7割の企業はまったく転嫁出来ていない。約3割の企業は既に赤字で、後1割以内のコスト上昇で赤字に転落すると答えた企業が17%ですね。
  価格転嫁できないで苦しめられている企業が多いですね。こういう状況で金利を上げると設備投資などが出来なくなっているし、需要も減るので潰れるところも出てくるということですね。

▽日銀政策委でリフレ派は少数派に転落する?

― これからもリフレ政策は継続されるんでしょうか?
松尾 今度、日銀の審議委員に高田創(はじめ)さんがなりました。この方は、有名なところでは『国債暴落』などの著書を出しています。

― リフレ派とはいえませんね。
松尾 国債の信任を得るためには、財政健全化が必要だという方ですね。来年4月には黒田東彦総裁と若田部昌澄副総裁の任期が切れます。岸田首相はリフレ派は選びそうもないから野口旭さんと安達誠司さんという方だけがリフレ派ということになり、少数派になります。

― 岸田さんは財政健全化論者なのですか。
松尾 財務省は、急に金融を引き締めたのでは国債を発行できなくなるから、過激なことは日銀に求めないと言われていますが、今の方向は修正されると思います。

― MMT派が自民党内で増えているみたいです。れいわ新選組の高井崇志幹事長によると、MMT勉強会をやると割と自民党議員がきたと言ってました。勉強会には来なかったが、高市早苗さんが自民党内のMMT派の筆頭みたいですね。
松尾 そうですね。コロナ前、政府は2025年にプライマリーバランスを黒字にしようという目標だったんですが、コロナになって、安倍さんの時は棚上げしましたが、菅さんは新自由主義の権化みたいな人なので25年黒字化目標維持の確認を検証することを決めた。
 岸田さんになってそれにしたがって、黒字化目標を目指すことを維持することを確認したのです。現実を見るよりは結論が先にありきです。

― 今、利上げをすると大変になると思われますが、その可能性はあると思いますか?
松尾 今政府は円安に関して危機意識があると思います。この間、企業が海外に移転している。体制全体として移転を進めて来たわけですよ。製造業とか海外で物を作るようとか進めて来たわけですよ。
 もう人口は増えないわけですから。製造業はもう新興国に譲りなさいと、そういうのはもう海外でと。だから、円高にした方がいいわけです。国内に残すサービス業などの低賃金労働者を食わすためには。
 そういう中で日銀がドンドン国債を買って金利が低い状況は円安になって望ましくないので、緊縮財政にして支出を抑えてプライマリーバランス黒字化を達成していくというのが、大きな方針だと思います。それで金融も引き締めにしていく方向だと思います。

▽賃上げを画策するのも緊縮派?

― 岸田内閣は連合と随分懇意にしていますが、相当賃上げ要請を強めていくのでは?
松尾 賃上げのための企業にインセンティブを与える税制を作るらしいですが、ホンマに出来るのかなと。ですが、賃上げをするというような世論対策はしてるでしょうね。アベノミクスから内部留保を吐き出させるとか、官製春闘とかやってきましたから。

― 与党は松尾先生や野党の政策を真似しているように思います。安倍さんは「財政政策検討本部」という積極財政派のグループの最高顧問を務めています。
松尾 確かに安倍さんや高市さんがいて、西田さんがいるという。反対派は財政規律派ですね。岸田さんはそこに属しています。

― 岸田さんは財政緊縮派と見ていいんですか?
松尾 そう見ていいと思います。プライマリーバランスの黒字化や国民負担の増大などが検討されています。

―岸田政権は最低賃金を全国加重平均で1000円にするという政策を発表しましたから、個々の企業レベルでどうするのか、経団連に働きかけるように思います。

▽「貯蓄から投資へ」の現実味は?

― 今回の目玉政策である「貯蓄から投資へ」をどう見ますか?
松尾 「貯蓄から投資へ」とはずっと前から政府側が言っていることですが、このまま行ったら年金に公的な財政をつぎ込まざるを得ないということになりますから、そうしないために、各自でちゃんと資産運用してくださいということですよね。これも緊縮の一環ですよね。

― どうも資産をうまく投資して所得を増やせということらしいですが、日本人のマインドがそんなに簡単に変わるでしょうか?
松尾 海外の新興国、途上国に進出する企業があり、直接投資収益が年10兆円ぐらいあるわけです。そういう企業に投資して一般庶民も儲かるようにしなさいということですね。儲かるところに投資するというのはそういうことですよ。途上国の労働者から搾取して儲けるという身も蓋もない話ですが。言わば経済的な侵略的行為と言える、ある種の帝国主義的体制に庶民も荷担せよということですね。(笑)
 そうすると、海外で労働争議になると株価が下がるし、国有化とかされると株が紙切れになるので、「日本人の生命財産を守れ」と言って、自衛隊を派遣して日本企業を守ることを世論が求めるようになるかもしれません。

― 株主になって新興国、途上国のオーナーになれと。しかし、日本ではまだまだ投資は博打という意識が強いです。アメリカでは7割が投資しているみたいですが、日本では政府がお墨付きでも入れないと難しいのではないでしょうか? 政府推奨銘柄でも出すとかですね。(笑)
松尾 そういう話は資本主義としてはありえないですが、今後大義名分を掲げてそういうことをやる可能性はないではないでしょうね。

― 「新しい資本主義」が行き詰まるとしたら、どんな形で?
松尾 国内から製造業が出て行って、サービス業が大半になり、非正規労働者が増えると。一部は製造業を残すとしたら、安全保障上必要なものとかですね。

― 安全保障上の製品を増産するというのは軍需産業育成に繋がるわけで、正に帝国主義的なんですが、それで格差が是正出来るでしょうか?

松尾 非正規の低賃金労働者が沢山出ますから、格差が拡大するでしょうね。

▽新しい資本主義の実態は新自由主義?

― 「新自由主からの脱却」と言っていますが、安倍さんが新自由主義だったわけではないですよね。
松尾 帝国主義的な方向性というのは同じですね。経済安全保障志向を拡大していくなど。今後、製造業などが出ていくので、日本の中は環境は綺麗になるし、中小企業も淘汰されていくと思われるので、今後サービス業でも流行るのは全国チェーン店ばかり。そこが元気になるでしょう。そういうところは託児所をきちんと設けたりするでしょうから。リベラルの価値観は満たされるけど、格差と帝国主義の国になるかもしれません。

― 話を戻しますが、岸田さんは宏池会でハト派というイメージがあり、漠然とした期待があると思いますが、実は安倍さんより新自由主義的ですね。
松尾 安倍さんより新自由主義的なのは間違いないですね。
世界中で新自由主義からの脱却の流れはありますが、よくない流れもあります。国家が戦略的目的を立てて権力者が資源を投入し、リスクのあることに使うという傾向が世界的にあります。
 中国などがそうですし、アメリカも含めてそういう傾向に伝染してます。ロシアもそうなのかもしれませんが。そういうことに集中して拡大的に財政を使って作っていくという、新自由主義ではないのですが、民衆にとってはよくありません。
 権力者の恣意で経済を管理するというと、安倍さんがそういう立場なんですけどね。こういう路線は日本の官僚では経産省で、それに乗っかっているのが、安倍さんと高市さんです。
そういう高市さん的な流れが経済安保法で実現されており、そういう意味では新自由主義からは脱却する方向性ですが、それはそれでヤバいですよ。
 菅さんのようにゴリゴリの新自由主義者もいますけどね。この2つの間に立っているのが岸田さんです。どちらかに偏したらハードに見えますが。だから、岸田さんが宏池会に属しソフトだと見えるでしょうね。

― 安倍さんや高市さんは、ソ連のスターリン主義的な考えに思うんですが。
松尾 そうですよ。国家総動員体制的なものです。

― 1940年体制みたいですね。
松尾 そうです。経産省が昨年6月に発表した経済産業新機軸というのがありますが、バイデン政権がやっている金融緩和と財政出動をよく研究しています。
 そこで、「世界の動きがこうなってるよ」という話で、アメリカも国家の資源動員を目指すようになっているし、中国もこうなっているし、EU もこうなってますよという話です。

― 事実、1940年体制は安倍さんの祖父である岸信介が商工次官及び大臣として関与した政策ですし、その商工省が通産省を経て経産省となったわけですからね。国家社会主義的(記者注:1940年体制説を提唱した野口悠紀雄教授は「国家社会主義体制」と定義している)な流れと見ていいんですか?
松尾 社会主義という言葉を使うべきかどうか・・・、国がリスクを取るということですね。気候変動とか経済安保という課題を政府が上から与えて戦後民主主義的な体制を否定するようなものだと思います。
 経産省がそういうものを推進しています。一方、財務省は新自由主義的です。

― 自民党内部で財務省と経産省の代理戦争が起きているんですね。
松尾 そういうことです。

■松尾 匡(まつお・ただす) 立命館大学経済学部教授 理論経済学専攻 日本では数少なくなったマルクス経済学派を堅持しつつ、近代経済学派等の研究にも力を注ぐ。単著に『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)『ケインズの逆襲ハイエクの慧眼』(PHP新書)など。共著に『最強のマルクス経済学』『定点観測 新型コロナウイルスと私たちの社会 2021年前半』(論争社)『最強のマルクス経済学講義』(ナカニシヤ出版)などがある。

角田 裕育 (政治経済ジャーナリスト)

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角田 裕育(政治経済ジャーナリスト)
1978年神戸市生まれ。大阪のコミュニティ紙記者を経て、2001年からフリー。労働問題・教育問題を得手としている。著書に『セブン-イレブンの真実』(日新報道)『教育委員会の真実』など。
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