31日投開票の東京都知事選挙では小池百合子元防衛相(64)が圧勝した。
初の女性都知事の誕生である。自民党や公明党が増田寛也元総務相(64)を推薦するなか、組織の支援のないことを逆に強みに変えた小池氏のうまさとすごさが目立ったが、運も小池氏に味方した。
自民党の分裂選挙となったにも関わらず、300万票という票の獲得は強い政治的なエネルギーになるだろう。ちなみに前回当選した舛添氏は200万票程度だった。地滑り的な勝利だが、選挙戦を振り返ると、小池氏にとっては綱渡りの連続だった。
小池氏を中心に、選挙戦を振り返ってみよう。
小池氏が都知事選の表舞台に躍り出たのは、与党の本命候補と言われた桜井前総務事務次官が出馬を断った直後。「崖から飛び降りる覚悟で」と語って、立候補を明らかにした。
小池氏を環境相に引き上げた師匠格ともいえる小泉純一郎元首相これを聞き、「男は度胸、女は愛嬌というが、最近は女の方が度胸があるようだ」とたたえた。タイミングのよい立候補に見えたのは間違いない。
自民党執行部や自民都連が知名度はあっても疎遠な小池氏を自ら担ぎ出すことはなかった。だが、勝利を確実にするには分裂選挙は避けて、小池氏に乗る可能性もあったからだ。
だが、自民党は、増田氏を擁立する。党で実施した事前の世論調査でも組織が押せば、増田氏で勝てるとの情勢分析があったからだ。小池氏は与党での一本化という賭けには負けた。
だが説得には応じず、立候補の考えを変えなかった。非組織選挙を意識した「一人の戦い」を強調することで、増田氏との接戦を制する可能性はあると踏んでいたからだ。自民からの逆風を避けるため、谷垣幹事長へ進退伺いを出しに行く布石も打った。
誤算だったのは、参院選後のジャーナリストの鳥越俊太郎氏(76)の出馬表明だろう。与党分裂のなかで、知名度の高い野党統一候補には漁夫の利をさらわれる可能性があった。しかし小池氏にとっては幸運にも、鳥越氏は自滅する。選挙戦での街頭演説などで高齢や政策への知識の乏しさから担当能力が疑われてしまった。そのうえ、女性スキャンダルの処理がまずかった。
自民党も勝手に転んだ。選挙戦の緒戦で「小池を応援すれば、親族にわたって処分する」との都連の指令が「いじめ」と受け取られてしまう。さらに、決定的だったのは石原慎太郎元都知事の「厚化粧女、虚言癖女」発言だ。
都連会長の息子かわいさででてきた石原氏の異常な侮蔑発言は、小池氏の「一人の戦い」戦略には、追い風になる。はまりすぎる発言だった。地滑り的な勝利とは裏腹に、この一か月の動きは、小池氏にとっては綱渡りの選挙戦だったと見た方がいいだろう。
したたかに立ち居振る舞いを計算していたとはいえ、やはり退路をたった潔さが支持を得る最大の武器になった。小池氏は大きな賭けに勝った。
今後の最大のポイントは、小池氏と自民党との関係だ。こじれれば、都政はやはり停滞する。
だが、直ちに険悪なムードに陥ることはないだろう。最終局面で検討されていた首相の増田氏への応援演説が見送られた点に、本部が小池旋風を読んで判断を変えた点が伺える。小池氏も当選確定後も自民との関係については慎重に言葉を選び、敵対的な対応はしていない。
NHKの出口調査によれば、自民党支持層の半分が小池氏に投票した。風が吹いたといえばそれまでだが、自民党の都議、区議の動きが鈍かった面も否めない。新知事との関係悪化を避けたいのは、都庁への影響力がなによりも重要な自民党都議の習性だからでもある。黒幕と言われた内田自民都連幹事長の進退にもよるが、小池都政は当初はスムーズに滑り出すだろう。
問題は、メディアの注目が薄れる3,4か月たったとき。五輪の施設建設の負担を巡って、都と国がしのぎを削り始めてからだ。そのとき、舛添氏のようなスキャンダルが小池氏に飛び出さないことを願いたい。
小池氏圧勝だが、選挙戦は綱渡りだった |
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自民とは歩み寄りへ、将来には不安
公開日:
(政治)
Reuters
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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